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魔法少女が死んだ  作者: 植木原裕司
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第二章 花は助けを呼ぶ

挿絵(By みてみん)

 署に戻ると、髙砂先輩は着替えて、すぐに市立の総合病院に向かった。

 リリーの遺体は、医師が確認を行うまでは『死亡が確認できない』状態なので、生きてはいないが死んでもいない。

 もし、このままリリーの死亡が確認された場合、身元引き受け人が現れるまで警察で預かることになる。

 どのみち変死である以上、いずれは我々警察による介入があるのだが。早めに引き取りと検死を済ませたい髙砂先輩は、疲れを押して出かけたのだった。

 一方僕は、現場で拘束された『不審者』と取調室で向かい合っていた。

「あそこで、しかも、夜の十二時に何をしていたんですか?」

 当初は、近所の人間が紛れ混んで来た。そう思っていたのだが、住所を聞くとなんと隣町の住所だった。

「それはね、そう、何と言えばよいか……そうだ! 散歩と言う事にしておこう」

「しておこう、じゃあないんですよ! 大体終電がもうないじゃないですか」

「いや、その車でね、自動車で帰るつもりだったんで」

「さっき調べた所持品に、免許ありませんでしたよ」

 所持品には、普通免許はおろか社員証などの身分を明かせるものが一つもなかった。

 財布と銀行のカード、ハンカチにライターとタバコ。それが彼女の所持品の全てだった。

「あなた、一体誰なんですか?」

「ニレマツアキ」

「ニレ、マツ?」

「楡松、明希」

 どうやら、姓名の分かれ目が違ったようだ。彼女は僕からメモ用紙を引ったくると、『楡松 明希』と書いてメモを投げてよこした。

「失礼しました、楡松さん」

「結構、慣れている」

 慣れてるなら、メモを投げてよこさなくてもいいじゃないか。と思いながら、改めて質問した。

「職業は?」

「公務員だ」

「公務員ね、どちらの役所に?」

「隣町だ、異動でこっちに来ることになったのでぶらぶらしていたんだ」

「ぶらぶら、ね」

 何もわざわざ夜中に来なくてもいいのでは? 何かしら、言いたく無い事情があるようだ。

 何にしても怪しい。

「所で、あなた以外に怪しい人影は見ませんでしたか?」

「誰も怪しい人影などなかった」

 楡松は僕の質問に嫌味たっぷりに、返事をした。

「そもそも、考えてごらんよ。君らの目の前で被害者が撃たれたのなら、狙撃地点はもっと遠いはずだ」

「それは、予断と言うやつでは?」

 僕は、素人の邪推を鼻で笑ってやった。

「結構。諸君は、銃声が聞こえるぐらい近い距離に犯人が潜んでいたにも関わらず、気がつかないボンクラ揃いなわけだ」

「ぐっ……」

 素人のくせに、痛いところをつくじゃないか?

「じゃあなんだ、あんたスナイパーか何かが彼女を襲ったっていうのか?」 

「私の考えだと、ちょっと違う」

「御高説、承りましょう?」

 嫌味たらしく、僕は先を促した。

「素直なのはよいことだよ、足りなものはおぎなえばいい」

 皮肉な笑みを浮かべて、彼女は続けた。

「あの現場を指定したのは、彼女。リリーなのかい?」

「そうだ、彼女リリーから命を狙われていると言う相談が、警察にあった」

武装集団ボランティアの警護なんて、警察がする事じゃ無いんじゃないか?」

「本来はな、今回は切迫した状況だと判断して警護や容疑者の拘束を行った」

「予防拘禁じゃないのか?」

 楡松は、皮肉な笑みを浮かべた。

「まあいい、君らは容疑者を事前に拘束したにも関わらず、警護には失敗したと」

「で、何が言いたい?」

 拘束された意趣返しなのか、楡松は随分と挑発的だった。

「いいかね、君らはリリーの周辺を嗅ぎまわり、怪しい奴を片っ端から拘束して、待ち合わせ場所にノコノコと顔を出した」

 楡松は、呆れたように頭を振る。

「君らはリリーの周辺にただならぬ事が起きていることを、宣伝して回ったも同然だった。しかも、出現ポイントのおまけ付きだ」

 痛い所を突かれた、警護情報の秘匿が後手に回ったのは、僕たち警察の落ち度だ。

「警察の手の内と、リリーとの合流ポイントまで知っていれば殺害の方法はいくらでも選択可能だ」

「つまり殺害方法は狙撃だけではないと?」

 僕は、小柄な女を改めて観察した。ボサボサの癖っ毛、メガネ、童顔。とても人を殺せるようには見えない。

 言い換えると、人を殺す方法を想像するようにも見えない。

 だが、楡松の推測は説得力があった。

「警備の中に裏切り者はいないか? あるいは超人的なスナイパーがいたのかもしれない?」

 楡松はそこまで言うと、猫を思わせる仕草でウーっと伸びをした。

「少なくとも、私を拘束し続ける根拠はないだろう」

 楡松に指摘されるまでもなく、単に現場にいただけの一般人に任意で連れてきただけだ。これ以上、嫌味を言われる前に帰ってもらおう。

 僕は立ち上がって、取調室のドアを開けた。

 帰っていいぞ。と言おうとした所、開けたドアから女性の警官が顔を出した。

「関根刑事(さん)、ちょっといいですか?」

「いいですが、何かありましたか?」

「署のベンチに寝てる人がいて、女性なんですけど」

 僕は思わず腕時計を見る。午前三時を少し過ぎていた。この時間は事件や事故でもないい限り、一般人は署内に立ち入れないはずだ。

「変だな、見て来ましょうか?」

「私も行こう」

 いつの間にか、楡松が僕の横に来ていた。

「なに、女性がいた方がいいだろう? どうせ終電も出た後だ、付き合おう」

 楡松はそう言いながら、スタスタと取調室を出ていく。

「ちょっと待て、おい!」

 僕はその小柄な背中を追いかけて、取調室を出る。

 どうにも、楡松にペースを握られすぎだ。

「なに様だ、あいつ?」

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