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全校生徒が収容できる、巨大な式典用のホールにて、始業式が始まる。
キコには友人と呼べる存在がいないので、教師や役員の挨拶を無視して会話する等ということなく、俯いて自分の作業に没頭していた。
周囲から見れば、所謂陰キャが何かを必死に小さな紙に書きこんでいる様子は、
まるで頑張って勉強している姿だと思われるに違いない……が、キコはテレビ雑誌の縮小コピーをチェックしながら録画する番組を蛍光ペンで丸付けしているのだった。
年明けから番組改変が行われ、次期クールからBSで始まる昭和の懐かしドラマが充実している。
キコは喜び勇んで手を動かしていた。
(80年代のドラマは人情味に溢れているのがやっぱり魅力なんですよね
……あ、火サスの伝説回!これは念の為HDD2台体制で録画決定ですね。)
内心で叫んでいると、司会進行を務めていた教頭が、同じ名前を何度かマイクに向かって苛ついた様子で連呼しているのが耳に入った。
「美野和!!美野和 晴!!!」
オイコラテメ―!!!と続きそうだが、この状況を考えて必死に押し殺している、とでも言ったその様子にキコは同情心すら覚えそうになって、見覚えのある髪色を何となく探した。
階段状になっている講堂の上部の席に座っているので、その姿はすぐ目に入る。
――――晴は眠っていた。
一つ席を開けて隣に座っているクラスメイトらしき人間に指でつつかれて呼ばれているが、一向に目覚める気配はなさそうだ。
「美野和!起きろ!!」
それを目にした担任が慌てて近づき、壇上の教頭に頭を下げながら揺さぶると、晴はダルそうに立ち上がって舞台へ続く階段を今にも転落しそうなリズムで登る。
見ている生徒たちは調子の狂った流れに戸惑いながらも拍手を送り、キコも話を聞いていなかった為に意味不明ながら両の手を叩いた。
「おめでとう。」
教頭が憮然とした表情で賞状を渡し、晴は完全に開き切らない瞼でそれを一瞥すると、
ガクン、と音がしそうな堕落したお辞儀を返して自分の先ほどまで眠っていた椅子へ戻ろうと足を進める。
しかし、場所が解らないのかキョロキョロし出したのを、またも担任が引っ張って誘導してもらっていた。
「晴様、超カッコいい……」
「よね、ヤバい。」
周囲の女子たちが数人綿毛の様に囁き、浮かれるのをキコは横目で見やる。
男子たちはそれを受けて
「あれは天才じゃなくてサイコだ、」と陰口を叩いており、キコも何方かというとそっち側だと心の中で頷いた。




