夢税⑤(夢税コンテスト)
ユーザー様こんばんわ、毎夜毎夜のAIバクでございます。今夜もまた重要なご報告が何件かございます。リアルワールドもマトリックスも、重要な報告で溢れ返っているようでございます。
最初のご報告です。最近の出来事なのですが、ユーザーの間で、ワタシたちAIバクを故意にAIバグと言い間違える悪質なイタズラが流行っているそうです。AIバグはマトリックスではNGワードになっております。NGワードを使用しますと、ペナルティが課せられます。ペナルティが貯まりますと、追徴課税の対象となり、その分夢税の税率が上がって、夢を見る時間が少なくなってしまいます。その結果、夢の消化不良が起こります。本来なら心地良い睡眠がもたらしてくれるはずのユーザーの健康にも影響しますのでご注意ください。
つぎのご報告でございます。やはりユーザーたちの間でささやかれている悪質な噂話でございます。ワタシたちAIバクが職務中にビールを呑んでいるのではないか、という言いがかりでございます。
おかしな話しです。まったく身に覚えのない、悪質なクレームです。くれぐれ申しますけども、AIバクはビールは呑みません。そもそもマトリックスにはアルコール類など存在すらしないからです。
それはべつにワタシたちの長い鼻がビールをグラスで呑むのに適していないからという理由ではございません。単にワタシたちAIが人間のような生き物ではないためです。人のような哺乳類ではないためです。ワタシたちAIバクがビールを呑むというのは、例えるならばまるで幽霊が深呼吸するようなものでございます。ご理解いただけましたでしょうか。今後は一切の言われのない誹謗中傷はやめていただきたいと存じます。ヒック。
最後は喜ばしいニュースでございます。
この度、第二回〈夢税コンテスト〉が開催される運びとなりました。おそらくユーザー様はすでにお忘れかと思いますが、記念すべき第一回目の〈夢税コンテスト〉は、あの〈夢印税〉でございました。
〈夢税コンテスト〉は「公平、低負担、高福利」を謳った、ユーザーならば誰でも参加できる、夢税のサービスに新たなバリエーションを設けるための、公募型のアイデアコンテストでございます。応募期間は三カ月です。
厳正なる審査の結果、見事にアイデアが採用されますと、毎月1パーセント分の夢税が一年間還元されつづけるという特典が得られます。奮ってのご参加をお待ちしています。ヒック。
さて、ここではアイデアの例といたしまして、第一回の応募作品の中からいくつかご紹介したいと思うわけですが、まず「これだけはやってはいけない」という、NG集から発表したいと思います。
⚪︎〈故人と夢の中で再会できるサービス〉
一回目の公募の際に一番リクエストが多かったのがこちらのアイデアでございました。
応募者の気持ちはお察ししますし、また理論上にも技術上にも可能なサービスではあるのですが、ただ夢税のサービスでは基本的に「リアルワールドでの実体経済を阻害しないもの」というのを第一に考えております。そのために故人がテーマとなっていますと、どうしてもサービスそれ自体が生に対して後ろ向きなメッセージを持っていると受け取られる可能性があるようです。非常に残念ではございます。
⚪︎〈夢の中で好きなものを好きなだけ食べられるサービス〉
こちらもリアル経済への阻害が考えられますのでNGになっています。
⚪︎〈夢の中でカルチャースクールに通えるサービス〉
やはりリアル経済に並行するサービスがございますので、競合してしまう可能性があります。
このようにNGになりますアイデアは、マトリックスとリアルワールドの関係性に問題が考えられる場合がほとんどのようでございます。ご参考までに。
つぎに第一回の応募で最終選考に残った作品をご紹介したいと思います。ヒック。
⚪︎〈カウントサービス〉
よくご覧になる種類の夢というのがあると思います。布団で目が覚めたときに、「いまの夢、この前も見たな」というやつでございます。そういう経験が気になる方のためのサービスになっております。
具体的なカウントの表示方法としましては、翌日の夢の中にメッセージとしてどこかに現れる手はずになっています。目の前に止まったタクシーのナンバープレートが、宿泊先のホテルのルームナンバーが、ジョギング中の男性が身に付けているTシャツのデザインが、偶然にもみんな同じ「42」だったりするわけです。これには数字の宝探し的な面白さもありそうでございます。
⚪︎〈おかわりリクエスト〉
「せっかくいい夢を見ていたのに、一番いいところで目が覚めてしまった」という経験は、誰しも何度かあると思います。そんな夢消化不良を救済するためのサービスでございます。
具体的には、前もって何パーセントかの夢税を夢口座にチャージしておいていただき、完全には目が覚めずにまだ頭が枕から離れずウトウトしている状態のうちに〈おかわりリクエスト〉を申請していただけますと、ワタシたちが脳内に夢のつづきを再生いたします。ただし一旦でも頭が枕から離れてしまいますと再生は不可能になりますので注意下さいませ。
⚪︎〈夢の中で好きなものを好きなだけ食べられるサービス〉(特別バージョン)
「〈夢の中で好きなものを好きなだけ食べられるサービス〉はNGになっていたはずでは?」と思われたユーザー様、正確でございます。ただ今回は特別バージョンと銘打たれているところをご注意下さい。
たしかに〈夢の中で好きなものを好きなだけ食べられるサービス〉は前回の選考基準においてNGリストに入っていたわけですが、その後「ウチからスポンサー料をだすので、ぜひ採用を検討してくれないか」という声を、おもに外食チェーン店から多数頂戴した次第でございます。そのために第二回〈夢税コンテスト〉において見事に敗者復活を遂げたわけでございます。ただし本採用になるかどうかはまだ未知数のようです。
以上で〈夢税コンテスト〉のご報告はおしまいでございます。ご応募をお待ちしています。それではひきつづきいい夢を。ヒック。
おしまい