見方を変えれば侵略者
森を抜けた俺たちは、だだっ広い広野を歩いていた。
ダムドダンクが約束を守ってくれているおかげで追手が来る気配はないが、それでも急ぐに越したことはない。
が、熱い。
太陽は真上で非常に熱い。
走っていても歩いていても休んでいても体力がごりごり削られていく。
日陰がないからだ。
「ヴェール、水」
「はい」
俺の適当な頼みにも、ヴェールは断ることなく応じてくれる。
きっと熱いからだ。
「ヴェールさん。お水をください」
「はい」
プラルの丁寧な頼みにも、俺と同様の対応をとる。
やはり熱いからなのだろう。
あまりにもカラカラな俺らの喉は、がぶがぶ勢いよく飲むのを望んでいる。
だがそんな気力もない俺たちは、注ぐようにゆっくりと飲む。
そんな俺らの横で、ヴェールは自分のコップ注いだ水を勢いよく飲みほした。
「ぶはーっ! 生き返るぅー!」
なんて言う彼女には、もうクールの面影はない。熱さのせいなのか、それとも薄々バレてることに気づいたからなのかはわからないが、もうクールぶることもなくなっていた。
正直、変にぶってるより自然体でいてくれた方が接しやすいので嬉しい。
「あんたら、なんでそんなに元気ないのよ」
「お前が……元気すぎるんだって……」
「お前じゃない。ヴェール」
「……ヴェールは何でそんなに元気なのさ」
「秘密よ秘密。乙女の秘密ってやつ」
「はいはい乙女ねはい乙女。それで乙女さん、俺たちはいつまで歩けばいいんですか」
「うーんとね、あと半分くらい!」
「はん⁉」
丸一日歩いてようやく半分⁉
森からここまでの距離をもう一回歩かなきゃなの⁉
「すみませんお二方……もう限界……です」
突然ふらりとバランスを崩し倒れるプラル。
「プラル!」
名前を呼びながら抱き起こす。
意識はあるようだが、とても動けそうには見えない様子で、相当無理をしていたのがわかる。
頑張ったなんて褒めてあげたいところだが、そんなことを言ってまた無理されたらそれこそ困る。
だからその気持ちをぐっとこらえ、ヴェールの名前を呼びながら、彼女に目で訴えかける。
「わかってる。休憩にしましょう」
俺は上着を脱いで、プラルの真上で広げ、止まれと叫ぶ。
停止させたものは、解除するまでその場から動くことはない。
それを利用して、上着で屋根を作ったのだ。
それから俺たちは、ここでしばらく休むことにした。
近くに大木なんてあったら、そこで休んでいたんだけれど、そういうスポットは二、三時間前に通り過ぎてしまった。
「すみません……迷惑かけたくなくて……少し無理をしてしまいました……」
「わかってる。別に責めたりする気はないよ。その気持ちに気づいてあげられなかった俺らも悪い。だからお互い反省して、次に生かそう」
「はい……」
かすれた声で応対するプラル。
自分自身が、本当に情けなく感じる。
無理したっておかしくないのはわかっていたはずなのに……どうして気づいてあげられなかったんだ。
「別にあなたが気に病む必要ないのに。付き合い長い私だって気づけなかったのよ?」
それは気に病めよ。
平気そうな顔してそんなこと言うヴェールに、そんなことを思う。
「何よそのマジかって顔。気づかなかったの悔やんだってしょうがないじゃない。ほら、次に生かせばいいんだから。ね?」
渾身の飽きれ顔を披露してから、ため息をつく俺。
後悔の二文字が無さそうな彼女の発言は、もはや感心すべき粋に達している。
俺もこれくらい前向きでいれたらなあ……。
なんて考えている時、ふと、そういえば聞き忘れていたことがあったことを思い出した。今だ追手の影すら見えず、動き出すに出せない今こそチャンスと思い、ヴェールに聞いてみることにした。
「話は変わるんだけど。そろそろ教えてくれないかな。魔王とかジャスティスとか何だとか、結局そいつらって何者なのかって話をさ」
「そういうと思って、ちゃんと準備しといたわよ。ちょっと待ってね……はい」
そういって彼女はどこからか取り出した紙を、俺に手渡す。
その紙にはあみだくじのような……いや家系図かこれ。どこかの誰かの家系図が描かれていた。
魔王と書かれた文字から始まり、その次の魔王からまた魔王が生まれ、そしてその魔王が勇者と婚姻して子宝に恵まれ五人兄弟が……ん?
「それじゃあ説明するわね。魔王はこの世界で生まれた邪悪の化身。で、その邪悪の化身が生んだまあまあ邪悪な化身と勇者が結婚して五人の子供が生まれたの。で、その末っ子がジャスティス。ちなみに魔王候補はジャスティスの母親のお兄さんの息子。つまり、ジャスティスの従弟ってことになるわね」
・・・・・・は?
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
えええええええっと!?!?!? じゃあなに!? ジャスティスって魔王と勇者の子供なの⁉ 息子⁉ 娘⁉ それはどっちでもいいけどさ!子供⁉ ええええ⁉ というかなんでそこ同士が結婚してるのさ! だって、だってだってだって、勇者と魔王って敵対してるもんなんじゃないの⁉ それにそれにだってだって……「お母さんどっちだっけ?」
「魔王」
「おっけーありがとう」
勇者さんなに惚れちゃってるのぉ!? 相手魔王だよ魔王邪悪の化身魔王だよ⁉ お前のせいでとんでもないハイブリッドモンスター生まれちゃってるじゃん!しかも五人……え五人? 五人も生まれちゃったんですかぁ~⁉ なーにお盛んに子だくさんになってんですか全くさあ‼ そのうえ死んでるし! あなたの後任、今とんでもないもん押し付けられちゃってんですけど⁉
……いいやまて。それはさすがに早とちりだ。落ち着け俺。勇者因子は勇者の力そのもの。何世代にも渡って遺伝したりなんてするわけがない。
「勇者因子って遺伝する?」
「するわ!」
自信満々にそう答えるヴェール。じゃあだめじゃねえか!終わった……これはさすがに終わったよ……異世界の砂って記念にあの世にもってってもいいのかな。
異世界生活数日目にしてテンションが最底辺へ急降下する。
ダムドダンクと戦いなさいと言われた時よりも深いどん底から、なかなか戻ってこれない。
「どうしてそんなに落ち込んでるのよ。別にそこまで悪い状況でもないのに」
「最強ハイブリットが五人も敵に回ってる状況のどこが悪くないってのさ」
「別に、みんながみんな敵だなんていってないのに。勝手に勘違いして大変ね」
「勘違い?」
考えたまま口に出る。
まさかそんなことを言われるとは思っておらず、不意を突かれたせいだ。
「たとえ邪悪な遺伝子があろうと、彼らには勇者の血が流れているのよ? たとえ兄弟でも、道を違えば敵対するわ」
「つまり……味方になってくれる兄弟がいるってこと?」
「そういうことね。あと、魔王因子の邪悪な部分が出ないケースもあるし。心当たりないわけじゃないでしょ?」
たしかに、ダムドダンクは暴走していただけで話は通じていたし、プラルの話では村の人たちに慕われているようだった。邪悪なんて言葉が似合う印象は持てなかった。
魔王因子を持っているからといって敵と決めつけてしまうのは酷い偏見だった。反省しなければ。
「……実はジャスティスもいいやつでしたーってオチ……ない?」
「全人類に宣戦布告するような人が、いいやつなわけないでしょ。例えそれが、世界平和のためでもね」
そっかーそうだよなぁ。だってラスボスだもんなぁ。末っ子とはいえ、勇者の子とはいえ、親玉だもんなぁ。じゃあ絶対悪いや……え?
「世界平和?」
「らしいわ」
「じゃあいいやつじゃん! なんだよもお……全然世界征服を目論む悪いやつじゃないじゃん」
「世界平和も世界征服も見方変えればどっちも同じよ。問題なのはその方法」
「じゃあ教えてくれよ。ジャスティスはどうやって世界平和を実現するつもりなのさ」
「それは……行けばわかるわ」
「行く?どこに?」
「要塞都市キャッスルキングダム。今私たちが向かっている場所。今、唯一ジャスティスに反抗してるところよ」
「唯一ってことは、やっぱりそこが異端なだけじゃんか。やっぱジャスティスっていいやつなんじゃ」
「仕方ないじゃない。他のところは全部攻め落とされちゃったんだもん」
「……え?」
「だから言ったでしょ、宣戦布告って。逆らうやつとは戦争よ」
「そ……それを先に言ってくれませんかねぇ!?」
前提が覆る発言に、いつも踊らされてる気がする。
要塞都市への道のりは、まだまだ長い。
ここまでで一区切り。高評価とかいろいろお願いします。
いっぱいしてくれると自己肯定感が高まります。




