第4話
最前線基地に到着した私を待っていたのは、想像を絶する惨状だった。
度重なる敵の襲撃と補給線の寸断により、兵士たちの士気は底をつき、負傷者たちがうめき声を上げている。指揮系統は崩壊し、誰もが絶望の淵に沈んでいた。
(こんな泥沼で、あのバカは戦っていたのね……)
だが感傷に浸る暇はない。
私はすぐさま持ち込んだ大量の物資を荷馬車から下ろさせ、同行させた商会の人間を顎で使って配給の陣頭指揮を執った。
負傷者の手当てを最優先し、食料は部隊ごとに正確に計算して分配する。帳簿と在庫を睨みつけながらの無駄のない采配に、当初は軍の部外者だと反発していた兵士たちも、次第に私を救世主を見るような目で扱い始めた。
「奥様、まさか本当に最前線までいらっしゃるとは」
背後からかけられた声に振り返ると、そこには包帯だらけの痛々しい姿ながらも、見覚えのある男が立っていた。
グウィンの補佐官、ベイルだ。
彼が生きているということは、部隊の全滅は免れたということ。私ははやる気持ちを必死に抑え、冷ややかな態度を崩さずに夫の安否を尋ねた。
「旦那様はご無事です。……いや、無事というには語弊がありますが、確実に生きておられます!」
ベイルの口から語られたのは、信じがたい奇跡の話だった。
部隊が敵の奇襲を受けたのは、青い花が狂い咲く広大な高原地帯だったという。
多勢に無勢で部隊は散り散りになり、部下を逃がすために殿を務めたグウィンもまた、敵の集中砲火を浴びて倒れた。
しかし、敵の掃討部隊はすぐ足元に倒れている彼を見つけることができなかったのだ。
「奥様が送られた、あのド派手な花柄のマントのおかげですよ」
ベイルは痛む腹を押さえながら、くくっと笑いを漏らした。
マントの鮮やかな青と緑のボタニカル柄が、周囲に咲き乱れる高原の花々と完全に同化し、完璧な迷彩効果を発揮したのだという。あんなふざけた柄のマント、普通なら戦場では格好の的になるはずが、その場所に限ってはこれ以上ない隠れ蓑になったのだ。
敵の目を欺き、致命傷を免れたグウィンは、今も身を潜めながら帰還の機をうかがっているはずだ、とベイルは断言した。
「もう!本当に運のいい仕事バカなんだから!」
安堵で膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪え、私は勢いよく振り返ってアンナを呼んだ。
「さあ、泣いている暇はないわよ!大鍋の準備をなさい。あのバカが迷わず帰ってこられるように、とびきり匂いの強いやつを作ってやるんだから」
私は腕を捲り上げ、持ち込んだ貴重なスパイスを惜しげもなく鍋に放り込んだ。軍人風商家の特製煮込みの強烈で食欲をそそる香りが、夕闇の迫る戦場に力強く広がっていった。











