第2話
一方、泥と硝煙のにおいが立ち込める最前線の野営地。
補佐官のベイルから手紙を受け取ったグウィンは、眉間のシワをさらに深くしていた。
「どうしました、閣下。奥様からの愛の言葉ですか?」
茶化すベイルに手紙を見せつけ、グウィンはガシガシと頭を掻きむしった。
「戦場で花摘みしろだとよ。あのわがまま嬢ちゃんは、ここをどこだと思ってるんだ」
呆れ果てた声だったが、その手はすでに陣幕の中央にある地図を広げていた。本来の進軍ルートからは外れるが、西の渓谷を経由できない距離ではない。
「……ったく!しゃーねーな!」
グウィンがヤケクソ気味に叫び、部隊の進路を西へ変更するよう命じた時、ベイルは面白そうに目を細めた。
それから数日後、グウィンの部隊は予定より少し遅れて目標の拠点に到着した。
後続の偵察部隊からの報告によると、本来通るはずだった最短ルートの街道には、敵の精鋭部隊が大規模な待ち伏せを敷いていたらしい。
信じられないことに、彼らは無傷だった。
もし予定通りに進軍していれば、部隊は壊滅的な被害を受けていただろう。
西の渓谷を経由するという不可解な迂回が、結果として部隊全員の命を救うことになったのだ。
奇跡ですね、と報告書をまとめながらベイルが笑う。
「奥様は勝利の女神かもしれませんよ。あの無理難題がなければ、我々は今頃土の下でした」
「うるさい、ただの偶然だ」
グウィンはぶっきらぼうに返しつつ、手元の分厚い軍事教本に何かをそっと挟み込んでいた。
そのページの間では、大男の太い指で不器用に摘まれた青いリンドウの花が、押し花になる時を静かに待っているのだった。
◇ ◇ ◇
手紙のやり取りを重ねるうち、私の心境には明らかな変化が生じていた。
どんな無茶な要求を書き連ねても、数週間後には必ず彼から不器用な字で書かれた返信と、要求通りの品が届くのだ。
あの西の渓谷の青いリンドウが見事な押し花となって届いた日、私は自室で人知れず頬を緩めてしまった。
あの強面の大男が、戦場の片隅で小さな花を摘んでいる姿を想像すると、なんだか無性に胸がむずがゆくなる。
(次は何を要求してやろうか。いや、たまにはこちらから何か送ってあげるのも、妻の務めというものだろう)
そう思い立ち、私は実家の商会から最高級の生地を取り寄せた。
軍が支給する防寒具はどれも地味で薄暗い色ばかりだ。せっかくなら、私の好みを存分に反映させたものを特注してやろう。
出来上がったのは、目にも鮮やかな青と緑を基調とした、大ぶりなボタニカル柄が乱舞するド派手なマントだった。
軍服の上から羽織れば、間違いなく戦場で一番目立つだろう。
これを着て困惑する彼の顔を思い浮かべ、私は満足げに包みを結んだ。











