同じ神様
「くそっ……!くそっ……!俺の究極奥義がっ……!」
悪魔は悔しそうに地面を叩く。
その拳の発する音が鈍く響く。
「はいはい、おしまいおしまい。トラックさん使って、君も力使い果たしたでしょ?もう、今日は終わりにしよう。僕、出してあげるから、ラーメン食べに行きましょう。美味しい醤油ラーメンご馳走してあげる」
神様は崩れた悪魔を引き起こす。
その手は、優しく、しかし確かだ。
「ふざけんなよ……!勝ち誇りやがって……!それに悪魔と神様が一緒に飯なんか食えるかよ……!?」
悪魔は引き起こされつつも、神様を睨みつける。
瞳に、苛立ちと、屈辱感が混じる。
「……僕が出すんだよ?なんで一緒にご飯食べるのが嫌なの?」
神様は目を丸くして問いかける。
声は純粋で、まるで子供のように素直だ。
「俺は悪魔で、お前は神だからだ!」
悪魔は強く言い放つ。
言葉に、境界を引くような頑なさが宿る。
「う〜んとね……えっとね……まぁ、これは僕の考え方だよ?だから、これも僕が間違った事を言ってるかもしれないけど聞いてね?」
神様は穏やかに続ける。
静かな声で。
「……説教か?」
悪魔は神様を睨みつける。
その視線に、警戒が混じる。
「いや、お説教じゃないよ?『八百万の神』って言葉を知ってるかな?神様って、一人だけじゃないの。僕だけじゃないの。僕の他にも沢山の神様がいるの」
神様は淡々と言う。
言葉の一つ一つが、静かに、しかし確実に落ちていく。
「……八百万の神」
悪魔は神様を見つめる。
その瞳に、わずかな揺らぎが生まれる。
「だから、僕は君の事を考え方は違ってると思うけど、別に悪魔だとは思っていない。思想は違うけど、同じ神様だと思っているの」
神様は真っ直ぐな瞳で見つめながら言う。
その視線に、嘘偽りのない光が宿る。
「同じ……神様……?」
悪魔は神様の瞳を見つめる。
その瞳から、本音の言葉が、静かに染み込んでくる。
「君だけじゃない。あの明君って子も、遥ちゃんって子も皆、神様。それぞれの思想があり、それぞれがそれぞれらしく生きている。皆、同じ神様。僕はそう思ってるから、精神操作はしたくないんだ」
神様は続ける。
声は穏やかで、しかし揺るぎない。
「……そうか」
悪魔は短く言葉を言い放つ。
その一言に、長い沈黙が溶けていく。
「同じ神様同士だったら、一緒にご飯食べに行くなんて何もおかしい事はないだろう?ねっ、だから行こう。一緒に醤油ラーメンを食べに行こう」
神様は悪魔の手を取る。
その手は、温かく、優しい。
「……わかったよ。ただし、一つ条件がある」
悪魔は強い瞳で神様を見つめる。
「……聞くよ」
神様もまた同じ強い瞳で見つめる。
二つの視線が、静かに交わる。
「……ラーメンは大盛りだ。餃子もつけて貰うぞ?」
悪魔は笑みを浮かべる。
その笑みは、初めての、柔らかいものだった。
「うん、いいよ。僕も餃子食べようっと」
神様もまた同じように笑みを浮かべる。
二つの影は、ゆっくりと寄り添い、同じ場所へと向かう。
外の世界では、昼の光がまだ白く照らしている。
階段の踊り場に、クラクションの音が遠く響き、明は空を見上げたまま、静かに息を吐いた。
この小さな戦争は、終わった。
そして生き続けることが、今はただの選択ではなく、優しい約束のように感じられた。




