40話『五校杯②』
連戦を終えた南條が控え室に戻ってくる。
「みんな、無事勝ってきたよ!」
「お疲れ〜茜」
凛に続いて皆、南條に声をかける。
「てか、個人戦の時よりお前も速いし強いしわけ分かんないって」
「そうだね、真くんの言うとおり個人戦だと強くはあったけど相手の魔法に絡め取られてせっかくの強さが生きてなかったのがよく分かったね」
元の言葉に反応して歩も頷く。
「あぁ……速いだけでなく、その速さに対応する動きも上がってる」
「けど、やっぱりこの消耗と持続じゃ実戦での使用はまだまだ難しいけどね」
「確かに、こういった大会だからこそ生きる強さではあるかもね」
「でも、んな技の体系が存在するってことは、訓練次第で持続時間も伸びるんだろ?」
「うん、そうだよ。神功の出力を調整出来るようになったり、純粋に闘気の保有量を増やしたりすれば分単位でも楽々運用できるようになるはずだよ」
「あの速度で常に動き回られるのか……厄介とかのレベルじゃないな……」
「てか、もう次の試合始まるぞ」
元がモニターを指しながら言う。
「あっ、本当だ」
「次は歩の番だけど、今が蒼天学園vs北辰学園だから……」
「今回勝った方が連戦を希望すれば、2試合後だね」
第4試合 蒼天学園vs北辰学園は北辰学園の勝利。
やはり北辰学園の生徒は闘気を上手く扱った近距離戦に強い。
踏み込みと同時に間合いを潰し、久我に魔法の展開を許さないまま押し切った。
学生レベルの溜め無し魔法程度では、闘気で受けながら前に出られてしまう。
第5試合 北辰学園vs暁陽学園は暁陽学園の勝利。
暁陽学園の生徒は攻撃魔法を正面から通そうとはしない。進路妨害と拘束で足を止め、わずかな隙で展開時間を稼ぐ。
闘気で耐えながら距離を詰めた北辰の生徒だったが、動きを鈍らされた状態で魔法を受け続けたことで対応が遅れた。
そのまま最大出力の上級魔法を叩き込まれ、撃沈する。
『──五校杯・第5試合終了。勝者:青砥央』
『次の試合は5分後。青砥央 連戦を希望。第6試合は星慧学園・千堂歩vs 暁陽学園・青砥央 です』
「あれは厄介だな、あの感じ……魔法を連発してるのに消耗が浅そうだ」
元は青砥の連戦希望を見てそう言う。
「さっきの動き……近接もいける口だったし、かなり基礎が高い……」
凛もさっきの試合から彼の実力を測っていた。
「流石はあの有名な魔警の長官や裏軍の軍団長を輩出している暁陽学園だね」
南條は暁陽学園の方針に納得している。
暁陽学園は対人戦を前提とした戦闘訓練に力を入れている。そのため魔法の運用も“当てる”より“通す”ことに重きが置かれている。
「うん、対人戦に特化した戦術だけあってかなり戦いづらそう」
「歩……俺は細かいことよく分からんけどとりあえず負けんなよ!」
「うん、もちろん。全力で勝ちにいってくるよ!じゃあ皆、行ってくるね」
「おう、頑張れよ」
『──それではこれより第6試合を開始します。両者、位置についてください』
──そして、第6試合開始のブザーが鳴り響く。
青砥はバックステップで距離を取りながら拘束系を複数展開する。魔法陣が重なり合うように広がり、進路を塞ぐ。
「それは……さっき見たよ」
歩は足を止めず、周囲に魔力を放つ。
次の瞬間、展開された魔法陣の輪郭が歪む。黒く侵食されたように崩れ、そのまま散った。
「おい、今のなんだ?何が起こった?」
真が思わず声を上げる。
「今のはレジストだな、発動前の魔法陣を破壊する」
「なんだそれ、反則級じゃねぇか」
「いや、案外そうでもない。あれは相手の魔法陣に合わせて出力を調整しないと成立しない」
歩はその間に距離を詰めている。
「やるね……」
青砥は即座に短剣を抜き、迎撃に入る。
刃が振り下ろされる。だが手応えがない。
歩の手を覆う黒いモヤが、刃を弾いている。
鎧のように纏われたそれは、単なる防御ではない。衝撃を受け流し、刃の軌道をずらしている。
だが押し切れない。
むしろ、歩の踏み込みが僅かに鈍る。
「なぁ、元……歩、動き鈍ってないか?」
「あぁ……短剣だな」
「短剣?」
「恐らく妨害系魔法で、当たる...もしくは切り付けるたびに相手の動きを鈍らしてる」
攻防は拮抗しているようで、確実に削られているのは歩の方だった。
青砥が踏み込む。
「そろそろ、終わりにしようか」
刃が振り抜かれる。
歩は致命を外すが、動きが遅れる。反応が一拍遅い。
だが、その瞬間。
硬い音が響いた。
短剣の刃が耐えきれずに折れる。
「は?」
青砥の動きが止まる。
「……悪いけど1回戦から負けるわけにはいかなくてね」
距離を取ろうとする。
だが、その足が動かない。
視界が歪む。
踏み込もうとした足が地面に張り付いたように動かない。
力を込めた瞬間、膝が抜ける。支えられない。
呼吸が浅くなる。
身体が重いんじゃない。力そのものが抜けていく。
「……なんだこれ、動けねぇ」
青砥の膝がつく。
歩はゆっくりと近づく。
(黒蝕……霧界。この出力なら……)
「さて、チェックメイトだよ」
目の前で魔法陣が展開される。
抗う余地はない。
「降参だ……」
『──青砥央…降参 勝者:千堂歩…』
『千堂歩、連戦を確認……5分後に第7試合は星慧学園・千堂歩vs 月嶺学園・鶴川千樹』
「すごかったな……やっぱ歩も強ぇ……」
「あぁ、あの霧は厄介だな」
「てか、さっきのレジストって……」
「その話な……確かに強い、けど致命的な欠陥もある」
「欠陥?」
「あぁ、アレは相手の魔法陣に闇の魔力で蝕み、魔法陣そのものを破壊しなきゃいけない」
「……それって難しいのか?」
「難しいどころじゃない。要因は2つある」
1つ目は魔法陣を介さずに魔力の性質そのものを変える点
2つ目は相手の魔法陣の構造と出力を見抜いて、それに合わせて侵食の出力を調整する必要がある点
「一目でそれやれってことか……」
「あぁ、確かにそれは難易度高そうだな」
『──それではこれより第7試合を開始します。両者、位置についてください』
第7試合開始のブザーが鳴り響く。
鶴川は刀を構えたまま動かない。
(……初手で近づいてこない?)歩は僅かに違和感を覚える。
ならばと魔弾を放つが、全てが斬り落とされる。
近づけない。だが、このままではジリ貧になる。
歩は踏み込む。
同時に黒いモヤが溢れ、形を持つ。
複数の黒い手が四方から襲いかかる。
鶴川はそれを斬る。
だが、消えない。
霧のように崩れたはずのそれが、次の瞬間にはまた絡みついてくる。
刀にも、腕にも、足にもまとわりつく。
「面倒な技だな……」
動きが鈍る、その一瞬。
歩は踏み込む。
拳を叩き込む──はずだった。
胸に鋭い衝撃が走る。
遅れて、血が滲む。
「……なんで動けた?」
「確かに動きにくいが、拘束技じゃないだろこれ」
鶴川は刀に魔力を流していた。
一度斬る。消えない。
だが連続して細かく斬り刻むことで、動きを確保している。
「物理だけでも、おそらく魔力だけでも足りない。両方使えば対処は出来る……そういう感じだろ?」
鶴川の言う通り、歩の黒い手は物理と魔法の両方で干渉しないと消し去れない。
刀に魔力を乗せれば切ること自体は可能だが、消し切るには一瞬で細かく砕く必要がある。
それを鶴川は見抜き、拘束された体制で実行していた。
(この一瞬で見抜いたのか……)
「さっきの黒い霧は使わないのか?」
歩は一瞬迷う。
(黒蝕……霧界。あれでも、この構えからなるカウンターは止めきれないだろう……)
「……まぁ使わないなら、使わないでいいよ」
鶴川が動く。
鶴川は斬光流の使い手……斬撃の止めどない連鎖で相手を追い詰める。
一撃目が止まらなければ、そのまま連撃が繋がり続ける型。受けに回れば回るほど、次の一撃が速くなる。
歩は受け流すが、追いつかない。
「もう降参しない?」
「そうですね……僕のターンは終わりです」
その瞬間、何かがおかしかった。
間合いは変わっていない。視界も、位置も、何一つ動いていない。
それなのに──目の前の千堂歩だけが、噛み合っていない。
理解が追いつく前に、腹に衝撃が突き刺さる。
鶴川の土手っ腹に掌底が叩き込まれていた。
鈍い衝撃が内側から突き上げる。
身体が浮き、そのまま吹き飛ぶ。
「ガ……ハッ……今のは……」
歩が立っている。
だが、さっきまでのそれとは違う。
髪の色がわずかに黒くなり、纏う魔力が濁る。
重く、粘つくような気配が空間に広がる。
「おいおい、相当切り刻んでくれたなぁ……」
口調が変わる。
柔らかさが消え、荒さが滲む。
(口調が……いや、魔力の質や姿そのものが変わっている……?)
鶴川は思考を捨てひとまずとカウンターの形を取る。
だが、遅い。
踏み込みの速度が違う。
反応より先に間合いに入られる。
刀を振るうが、弾かれる。
止まる。
連鎖が繋がらない。
「ワンパターンすぎるな」
殴打が叩き込まれる。
「その斬光流、止めれば終わりだ」
鶴川も応戦するが、初動を潰されるため加速に入れない。
一方的に押し込まれる。
「終わりだ……」
歩が右手に魔力を集中させる。
その瞬間、視界が揺れた。
踏み込もうとした足に、力が入らない。
呼吸が一拍遅れる。
身体を支えきれない。
そのまま前のめりに崩れ落ちた。
『──えぇ……っと、これは……千堂歩ダウンで……勝者:鶴川千樹』
『鶴川千樹 連戦を確認……5分後に第8試合は〜〜〜』
青砥の短剣が折れた理由ですが、歩は押されながらも手に纏ったモヤを刃のように変化させ、短剣と打ち合っていました。
同じ箇所へ何度も当てることで耐久を削り、最後の一振りに合わせて防御を最大化。
振り抜く勢いを逆に利用して、短剣を折らせています。




