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昼に始まった祭りは夜中まで続き、その間主賓であるレディン達は村人達から感謝の言葉をかけられ、
酒を振舞われ、料理を運ばれ、若い年頃の娘達に興味本位な質問攻めに合い、結局祭り終了までゆっくりと休む暇も無かった。
翌日、疲れのためか昼過ぎに起床し、村を出発することになった。
「んあー・・・これからどーする?いったんダィオージュに帰るか?」
欠伸をかみ殺しながらクロノスが言う。
ダィオージュとはクロノスとレディンが拠点としている街の名前である。
「とりあえず、装備やら道具やら一式揃えなおしたいから、ダィタンスリに寄ろう。」
ダィタンスリはここジーグ村からダィオージュの中間地点に位置する中規模な街であり、旅の仕度をするには充分な活気のある発展途上都市だ。
そしてダィオージュとダィタンスリは姉妹都市でもあり、街の雰囲気もよく似ている為、レディン達は好んで利用することが多かった。
「ダィタンスリかー久々だな!山猫亭のおばちゃん元気してるかな・・・きっと相変わらずでけぇ声で怒鳴り散らしてるんだろうな。」
懐かしそうに苦笑するクロノス。
ダィタンスリの『臆病な山猫亭』といえば、昼は安くて美味い食堂、夜は傭兵や冒険者の集まる居酒屋として少しは名の通った店である。
そこの女将は豪快で気さく、傭兵にも偏見もたず、自分の店に来るものには別け隔たり無く接してくれるので皆に慕われている。
時として傭兵や冒険者達は一般人から疎ましく思われる場合もあり、女将の自然な態度は心身疲れきった彼らに安らぎを与えてくれるのである。
「そうだな。久しぶりに顔をだしてみようか。」
レディンも女将の姿を思い出し微笑するのだった。
バルディオスのジーグ村から四日、レディン達はダィタンスリに着いていた。
道具屋で竜角を売り、必要な品物を一式揃えた二人は『臆病な山猫亭』で休息を取っていた。
「品薄なときに売れるなんてツイてたなあ!」
「ああ、市価の2倍近くの値で買い取ってくれたからな。」
「ありがたいこった。こうしてエールをガンガン飲んでも金の心配しなくて良いんだからな。」
そういって喉を鳴らしながらジョッキを空にしたクロノスは更に追加注文をした。
「ゼス達にも分けてやらないと」
「いいっていいて!あいつらは現在仕事中。お金も入ってウハウハだ。」
「しかしだな・・・」
「あああ!お前は真面目過ぎるんだよ!!二人に渡すっつってもたかだか飲み食い数回分じゃんか!」
「金額の問題じゃないだろ。」
「そこが真面目だってーの。もともと価格が上がることを前提に分け前をやらんだろうがっ!!」
「それはそうだが・・・・・・」
「だろ?ならいいんだよ。今度有ったときに酒でもおごってやるくらいでいいんだよ。」
「ん・・・そうだな。」
レディンはしぶしぶ納得したようだった。
『おい、きいたかよ?バルディオスのジーグでリリスが見つかったんだとよ!』
『本当かよ!?で、つかまったのか?』
唐突にレディンの耳に流れてくる近くの若者達の世間話。
『ああ、村長が辺り一帯を山狩りして見つけたらしい。連れ帰ってリリスだと確認されてから打ち首にされたそうだ。身体は燃やして首はさらしものだってよ。今朝村から来た奴に聞いたから間違い無しだ。』
『あそこは火竜も倒されたって話しだし、リリスも殺したってんだったら言うことなしだな。』
『まったくだ。人類に幸あれ・・・ってか?』
軽快に笑う客達。
「・・・俺達のいた村の話だな。」
渋い顔をしているレディンにクロノスが言う。
「ああ。祭りの前の夜そんな事を村長達が話していたよ。」
レディンはそういってエールを飲み干した。
「・・・戻ってみるか?」
じっとレディンを見つめるクロノス。
「なぜだ?」
答えた声が低いことにレディンは気がついてクロノスから目をそらす。
「そうか・・・あの朝お前の態度が変だったのはそう言うことか。」
「・・・・・・」
「ほんっ・・・とに真面目だな。伝承なんかで’聴く’だけのリリスが納得いかねぇんだろ?それに事が事だけに・・・言ってみれば人殺しだしな。」
「・・・そのとおりだ。」
「ま、あいつ等は感覚が麻痺してるか洗脳されちゃってるからよ、人殺しなんて思ってないだろ。畜生殺すのに裁判沙汰で有罪にはならんからな。」
「・・・・・・」
「よし、決まりだ。早速行こうぜ!馬を借りれば丸一日でいけるだろ。」
「・・・お前もいくのか?」
「悪いか?」
「いや・・・べつに・・・」
「そんな顔したお前をほっとけないって事にしとけ。」
「そんなに酷いのか?」
「ああ。今なら魔王も逃げ出すぜ。」
「・・・すまない。ありがとう・・・よし、行こう!!」
二人は女将に軽く挨拶すると店をとびだしていった。




