Suspicious
目が覚めると何やら外の喧騒がかすかに聞こえてくる。
きっと祭りの準備の追いこみに入っているのだろう。
レディンはベッドの上で覚醒したまま、何をするわけでもなく目を閉じていた。
ふとリリスの話しが頭に浮んできたからである。
昨晩この村付近で目撃されたリリス。
手配書を見る限り、普通の少女であった。
突如現れた神に、災いの根源と掲示された当時、一体何があったのだろうか。
数百年たった今残されている文献と代代受け継がれる口伝の情報は、どれも通達途中で尾鰭の付いた信憑性にかけるものだと思われる。
ただ、いくつか確実に共通するものがあった。
掲示を残した神は光の神で唯一度だけ出現したとされる。
リリスは其の存在自体が災いを呼ぶ根源であると。
そして、幾度と消滅、それこそ骨まで焼き尽くしても、しばらくの後必ずこの世界のどこかに蘇ってくる。
神は何ゆえこの少女にこのような過酷な運命を与えたのか。
運命は自分の力で運ぶ命だと常々言い聞かせてきたレディンだが、リリスに関しては他人に運ばれる命と称しても過言ではない。
この少女は自分で人生を選ぶ権利を剥奪され、生きる事も死ぬ事も他人任せなのだ。
人間達は未知なる恐怖から逃れ、安心を得るために安易な行動に出たのだ。
自分がよければ犠牲を厭わない。
禁忌とされる事さえも平然と破り継続させる。
何と理不尽で。
何と傲慢で。
何と無様な。
今まで自分が命と生涯をかけて守ろうとしている人間という生物がこれほどまで愚かで滑稽だとは。
レディンの中で初めて人間に対して嫌悪感が産まれた瞬間であった。
「今日の勇者様はなんて顔してんだ・・・?」
そう語り掛けられたレディンはゆっくりと瞼開き、声の聞こえた扉付近に目線を送る。
「クロノスか・・・・・・おはよう・・・・」
何の感情も無く命令された機械のように言葉を吐き出す。
「まったく・・・昨日は眠れなったのか?酷い顔してるぜ?」
怪訝な表情を隠しもしないクロノスは声の調子を落とし真面目に質問する。
「そうなのか・・・?しばらくすれば大丈夫さ。」
レディンに特に変わりは無い。
ただレディンの中に先ほど産まれた感情はしこりの様に消えることは無かった。
「ん。まあまだ祭りの開始まで時間が有ることだし、顔でも洗って飯でも食えば元気も出るだろ。」
完全に納得したわけではないが、本人が言うのなら仕方が無いといった様子でクロノスが言う。
「ああ、そうだな。そうするとしよう。」
そう言うとレディンはベッドから降り立ち身支度を整えた。
二人そろって食堂まで出向くとそこにはすでにゼスとハウデスが席についていた。
すでに二人とも朝食は済ませたようで飲み物を啜って寛いでいた。
席につくと屋敷の使用人が二人分の食事を運んできた。
しばらく無言で食事を摂っているとハウデスが口を開いた。
「わたしたちはー、このあとー、すぐにー、しゅっぱつしますー」
にこやかに微笑みながらひどくおっとりした口調でハウデスが言う。
「・・・・・・」
無言でうなづくゼス。
「・・・そうか。次ぎはどこに行くんだ?」
出会いと別れは何時もの事。
彼らのような傭兵は仕事をするのが生活のようなものだ。
仕事の終わりが次ぎの仕事の始まりなのだ。
「つぎはですねー、このバルディオスからー、しばらく東向こうのー、ボルテス渓谷にー、行くんですー」
ボルテス渓谷とは大小五つの渓谷が連続して蛇のように横たわる場所で鉱脈が多いことで有名だ。
「・・・・・・」
無言でうなづくゼス。
「ボルテスって言やあ、小鬼賊の事件かぁ?」
日ごろ情報収集が趣味だと公言しているクロノスが顔を顰めて言う。
「そうなんですー。最近すみついたらしくー、鉱脈に悪さをするのでー、困ってるそうなんですー」
「しかし、小鬼程度なら自警団程度で追い払えるんじゃないのか?」
小鬼とは大きくても体長1mほどで身のこなしが素早く、肉食のためよく家畜などを襲って迷惑をかける魔属である。
しかし、4、5匹程度で群れなければ人前に姿を現すことも無いほど臆病者で力も成人男性程度である。
「小鬼賊っていっただろう?しかもかなり大きいらしいぞ?」
「ああ、そういうことか。」
小鬼賊とは小鬼達がさらに一つの集団を形成し集団行動を行い、盗賊の真似事を行うことを指す。
「ええーその数ーざあっと600匹くらいなんだそうですー」
「げっそんなにいるのかよ!俺だったら願い下げたいねー」
「異常な数だな。騎士団を四隊・・・それも熟練した隊を呼ばないと駆逐できそうにないな。」
「ああ、軍隊動かしてもいいくらいだぜ。」
騎士団とは常に20名ほどの騎士達で形成される集団戦の専門家だ。
その中でもかなり熟練した部隊を4、5隊用意しないと600もの小鬼を相手にするのは辛いだろう。
普通の人間を600人相手に勝てるようでなければ、まず話にならない。
部隊同士の混乱をおこすのも致命的に成りかねない。
お互いの役割分担を理解しきった熟練の騎士団同士で無いと返り討ちにあうだろう。
「そうなんですー。私達はー騎士団の補助に当たる役割なんですー」
「そうか。がんばってくれ。また、会おう。」
「おう!死んだら唯じゃおかねーからなっ!!」
「はいー。おたっしゃでー」
「・・・・・・」
こうして4人で最後の朝食を摂り終えた。




