disappearance
レディンの姿は人々の前から消えていた。
ギルドの依頼を請け負うことも無く、
無償で村村を救うことも無く、
西方大陸での魔族討伐で名を挙げることも無く、
誰も居場所を知らず、
誰も何をしているのか知らず、
誰も何を考えているのか知らないまま、
ただ時が過ぎていった。
時は、ジーグ村でリリスが殺害されてから約2年が経とうとしていた。
「ちっ、あの馬鹿野郎・・・どこ行きやがったんだ!」
「まあまあ、探し始めてまだ1年じゃないですか。近隣の町どころか遠方の村々まで彼の姿を見たものは居ないっていうじゃないですか。よほどの隠密行動に出ているんでしょう。そんな彼をすぐさま見つけることができないのは、貴方が一番理解している事でしょう?」
気長にいきましょうよと軽い口調で白いローブを身にまとった青年が悪態つくクロノスをなだめる。
「わかってるよ!でも、俺たちにすら何一つ言わないで出ていったんだぜ?まったく音信不通じゃ流石にのほほんと待ってられないぜ!」
「彼なりに何か考えがあっての行動でしょう。前にも言いましたが、失踪直前に何かあったんでしょう。彼の今までの生き方を変えてしまう何かが。そうでなければ、彼ほどの人格者が書置き一つ残さず行方を晦ますなど・・・失恋ごときで2ヶ月間、行方不明になっていた貴方とは中身が違いますよ。くすくす。」
ローブの青年は最後には笑い出していた。
「昔の事をぶり返すなんて、しつけぇなぁ、終いにゃ友達なくしちまうぜアプリコット?」
「私にはレディンとクロノスが居ればほかに友人は必要ありませんよ。」
一点の曇りも照れも無く断言する。
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ!聞いてるこっちが赤面しちまうわ!さっさと次の村へ急ぐぞ!!」
くるりと身を翻して早足で歩いていくクロノスの耳は真っ赤だった。
「くすくす、素直じゃありませんねぇ。」
微笑みながらアプリコットもついて行くのだった。
しばらくして、不意にクロノスへ問い掛ける。
「次の場所は貴方達の拠点にしていた町だと聞いていますが・・・」
「ああ、ギルドの依頼があったときはあの町に集合できる奴は待機している約束だったんだ。たぶん、行っても本人は居ないと思うが・・・最終目的地の前の寄り道ってところだな。」
「最終目的地?次の町ではないというのですか?」
「ああ。」
「やはりクロノスは思い当たる節があるのですね?」
「さあな。まったく見当違いかも知れねぇ。だけど1年うろうろしてたが、もうそこくらいしか行く場所がないのさ。」
「なぜレディンが失踪したか、貴方は理由に心当たりがあるのですね。」
「まあな。心当たりっていうよりそれだと確信してるよ。」
「ならばどうして今頃?」
アプリコットは少しだけ怪訝な表情になる。
「信じたくなかった。あいつが曲がっているのを信じたくなかった。」
「曲がっている・・・?」
「・・・・・・」
クロノスはアプリコットから顔を背けて黙っている。
「話したくあり、しかし話したく無い・・・といった表情ですね。別に今話さなくてもかまいませんよ。話したくなったときに話していただければ。若しくは本人を見つけて直接聞いてみるのもいいでしょう。」
微笑を崩さないアプリコットにクロノスは言い表せない恐さを感じた。
口調はおとなしく丁寧であるが、間違い無く内心穏やかではないようだ。
「すまねぇ。そうしてもらえると助かる。」
「まずは、町で疲れを落としましょう。」
クロノスとアプリコットの二人はダィオージュへと向かうのだった。