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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ~息吹戸瑠璃が遺したもの~  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第92話 水を得た魚のように

ゾンビ退治しますので残酷なシーンあります。

ズリ……ズリ……

ううう。ああああ

ズリ……ズリ……


 時刻は夜。普段ならシンと静まり返る霊園に足を引きずって歩く音や怨霊のうめき声が響き渡る。防犯のために最小限に建てられた青い色の街灯が、不格好に動くゾンビの姿をほんのり照らし輪郭を浮かび上がらせる。


ガリガリ……ガリガリ……


 骨壺から粉々になった骨を取り出し、口の中に入れて噛み砕いているグール。墓石に乗り、赤い目を光らせながら周囲を眺めている。


 二種類のアンデッドの頭上をゴーストが舞う。人間の輪郭がふわり、ふわりと漂い、時折、自身を淡く光らせていた。

 ゴーストの色は赤いので、遠くからみれば火が漂っているようだ。その中の一体だけ白色でほんのりと光っている。

 

 死者が闊歩するおどろおどろしい霊園。冷気が漂い、生者の体温をゆっくりと奪ったはずだ。結界が敷かれているため、アンデッドは霊園から出ることはない。


 もし仮に、アンデッドが自由に動けたなら、霊園下にある町はあっという間に蹂躙されてしまっだろう。

 霊園は静けさを保ち、夜はゆっくりと更けていくーー


 ひゃーーーーー!


 突如、霊園内から喧騒《けんそう》が起こる。

 静寂を切り裂かれた音に引き寄せられ、一体、また一体と、血に飢えた顔つきに変貌したアンデッドが向かっていく。


 わーーーーー!


 現状を知らない哀れな生者がやってきて、恐怖に支配され断末魔をあげ命を散らす……というわけではなく、単純にアンデッドと対面してテンション爆上がりした息吹戸《いぶきど》の歓声であった。


「わあーーー! いいねええええ! 最高!」


 恍惚《こうこつ》の笑みを浮かべながら、鉈を一閃。

 ゾンビの後頭部をスパーンと真っ二つにした。綺麗に剪断されたゾンビはなし崩しに倒れて、ピクリ、ピクリと激しく体を痙攣《けいれん》させた。


「いいねいいねいいね!」


 息吹戸《いぶきど》は持ち前の柔軟さと筋力を活かし、回旋力をつけて腐った血肉を切り裂いていく。勿論、ゾンビ戦は一撃死《頭》狙いだ。

 手足の自由を奪ってから止めをさすような拷問系も、煽りを与えながら弄《もてあそ》ぶ戦法も息吹戸《いぶきど》の趣味ではない。一撃死かオーバーキルが好みである。

 

「やっぱ頭弱点だね! 胴体切ったところで活動停止しない! 手足も切るだけ無駄! 頭だ! セオリー通りで助かる! ヘッドショットならぬヘッドスッパスパ!」

 

 まさに水を得た魚とはこのこと。

 以前からゾンビを倒してみたかった息吹戸《いぶきど》は、ストッパー《津賀留》がいないことをいい事に、嬉々としてアンデッド達を惨殺《ざんさつ》していった。

 感情がないはずのアンデッド達が躊躇《ためら》うほどの狂人ぷりである。アンデッドが喋れるなら、頭のネジが外れた切り裂き魔が出た。と叫びだすことだろう。


「グールも最高だね! あのジャンプ攻撃や這いつくばりからの強襲とか最高じゃん! 最高すぎて素晴らしい! 本当にすごい! それをねじ伏せてのカウンター切り裂き楽しい!」


 胴体から切り離したグールの頭部を蹴り飛ばし、他のグールのジャンプ攻撃を阻みながら褒め讃える。


 そして、上空へ逃げようとしたゴーストにも鉈の洗礼浴びせる。振り上げると神通力が刃となってゴーストを縦一文字に切り裂いた。

 煙が霧散するように消えたゴーストをキラキラした眼差しで見つめつつ、息吹戸《いぶきど》は大声で独り言を叫ぶ。


「いやーもー! みてみてみてみて! この鉈、霊体にも効果テキメンだね! 神力を注いだ金属を削って作ったってやつだよ! 使うたびに素晴らしさを感じるね! ゴースト切った時の手ごたえ分かるなんて最高じゃん!」

 

 確実にアンデッド達の頭部を破壊、心臓を破壊、核を破壊していく。一切の手加減も慈悲もなく、戦意喪失し怯えて逃げ出しそうとするアンデッドも一体たりとも逃がさない。


 花畑で可愛い花を摘むような気楽さを出しながら、息吹戸《いぶきど》の行動は極めて残忍で残虐だった。


「……うっわ」


 祠堂《しどう》はそれを遠巻きに眺めていた。

 戦闘時には狂犬のように獰猛《どうもう》だと言われている彼も、息吹戸《いぶきど》のアンバランスな攻撃が不気味すぎて少し離れている。


 戦闘になると人格が荒々しくなる同僚達と共に仕事をしているのだが、息吹戸《いぶきど》の狂気っぷりは別物だ。嫌悪感ではなく憧れの色が強い。

 『殺したいほど好き』と言わんばかりの姿に、以前とは違う戦い方だと首を傾げる。何が彼女をそうさせたのか分からないが、知りたいとも思わない。

 例え息吹戸《いぶきど》が話したところで、祠堂《しどう》には理解できないはずだ。

 

 ちらっと、下に視線をむける。

 内部から頭部を破壊されたゾンビやグールの骸《むくろ》が足元に散乱している。


「こんなのに、どうして興奮できるんだ?」


 おもむろに、髪の毛を掴み頭部を持ち上げてゾンビの顔を確認する。肉が剥げた死者の顔だ。眼球は濁《にご》り、肌に血の気はなく、蛆《うじ》がわき緩んだ皮膚が筋肉からずり落ちそうになっている。


 気持ち悪い、と、嫌悪感を前面に出しながら祠堂《しどう》はポイっと投げ捨てた。


「はあ。あー、くさい」


 倒せば倒すほど悪臭が空気を汚染して鼻につく。祠堂《しどう》は軽く咳き込み、ずれたマスクを正しながら、また視線をあちらへ向ける。

 マスクもせずに嬉々として暴れまわる息吹戸《いぶきど》をみて、嗅覚は正常かと訝しむ。


「わー! さいこー!」


 恍惚《こうこつ》な姿でゾンビやグールに鉈を振り上げて追いかける姿は、どっちが敵か一瞬悩む。

 眺めていると疲れてきたので、戦いの手を休めて休憩する。アンデッドを殆ど片付けたのであとは火葬するだけだ。

 はぁ。とため息をついた。会う回数が増えるにしたがって、以前にはなかった妙な部分が目についてしまう。


「あいつ、頭おかしくなってる。何があったんだ?」


「私、別に頭おかしいわけじゃないですよ。ゾンビがすっごく好きなだけ、倒す方向に」


 独り言に返事が来て、祠堂《しどう》はビクッと反応した。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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