第91話 ゾンビ退治は道連れで
なんで先に用件を言わないんだ。と、心の中で息吹戸は呟く。
脱力を隠すように両腕を胸の前で組んで、半眼で祠堂を見つめる。
「あー。祠堂さん。私、今から霊園でゾンビ退治するので、要件をサクサク言ってもらえると有り難いんだけど?」
「霊園に発生しているアンデッド、倒してもすぐ数が戻るらしいな」
祠堂は霊園を見つめながらそう聞き返した。
霊園の事件の探りに来ただけか。と息吹戸は納得した。
「そうみたい。私はこの事件に関わるの今からだから。詳しいことは知らないけど」
「そうなのか?」と意外そうに言われたので、「そうです」と頷いた。
「ところで、津賀留はどうした。一緒じゃないのか?」
頷くと、祠堂は珍しい者を見たように目を丸くさせた。
彼の反応から推測するに、『息吹戸』は事件の際には必ず津賀留を連れてきていたようだ。
それが普通のコンビなのかもしれないが、息吹戸は一緒に行動する事にまだ慣れない。
「津賀留ちゃん、少し前まで東護さんと現場で動いてたから」
「怪我でもしたのか?」
と、祠堂が話の途中で聞いてきた。ジャケットの襟を触っている。なだめ行動だ。恋愛感情はないにしても、津賀留を大事に想っているのだろう。血の繋がらない兄妹みたいで微笑ましいな。と、息吹戸の口元が緩んだ。
「いやいや。無傷で元気だよ。シャワー浴びてるだけ」
「そうか」とホッとした祠堂。
「やっとゾンビ退治の機会を得たんだから、一人で堪能したくて置いてきちゃった」
息吹戸は悪戯っぽい笑みを浮かべ、するっと、腰にかけてあった鉈を抜く。刀身がキラキラ輝いている。斬れ味が良いと、鉈がアピールしているようだ。
「前回のビルでは素手だからゾンビスルーしたけど、今回は武器あるし。ノーマルゾンビなら、楽しく無双討伐出来そう。ふふふ」
「……」
刃物を眺めながらニヤニヤする姿をみて、祠堂はドン引きするが、気を取り直し、軽く咳払いをした。
「あと一日で解決できない場合は、俺を含めてアメミット数人、霊園に関与する事になった」
「ああ、なるほど。祠堂さんも関与する側になるからここに下見しに来たんだ。だとしたら、北部に行ったほうがいいよ。東護さんいるからあっちの方が詳しく話を聞けると思う」
祠堂は凄く嫌そうな表情になった。
東護が……。と、小さく呟き、「遠慮する」と声を大にして拒否した。
二人の関係は水と油。犬猿の仲だと如実に語っている。
息吹戸は内心ほくそ笑んだ。
(妄想が捗るわ)
BLネタとして心のタンスに仕舞いこむと、息吹戸は「さてと」と霊園へ歩きだした。
これ以上の会話は必要ない。
10分ほど時間をロスしたが、戦場の局面はそんなに動いてないだろう。
「あ、そうだ」
もっと楽しくなる事を思いついた。
霊園に向かう足どりのまま、くるりと祠堂に振り返る。悪戯を思いついたような良からぬ光を目に宿しつつ、息吹戸は提案をした。
「祠堂さんもついでにゾンビ狩ってく?」
「はあ?」
なんで俺が? と、言わんばかりの声を上げたので、
「次に会う時は勝負って言ってたでしょ? ゾンビ。どっちが多く倒せるか競争って、どう?」
息吹戸は挑発的に笑うと、祠堂は凶悪に笑う。
「乗った! 準備するから待ってろ」
即答した彼はすぐにバイク用のジャケットとズボンを脱ぐ。
灰色と黒いスウェットシャツと黒いスキニーデニムを着ている。靴はバイク用のブーツだ。
(あっれー? 私服姿? もしかして休暇だったのかな)
首を傾げながら眺める。
祠堂は腰にタクティカルベルトをつける。収納ポーチが六個にハンドガンホルダーがあるタイプだ。
ショルダーホルスター(肩紐にかけて脇に装着)に小型拳銃を、サイホルスター(ベルトからつりさげ太ももに装着)に大型ナイフを装着する。護符を収納ポーチに入れると戦闘準備を終えたようだ。
これでジャケットを羽織れば腰回りが見えない。
(初めて会った時にはもう少し色々つけていたのかも。いやぁそれにしても)
息吹戸はうっすら笑っているのを気づかれないように、口元に手を添える。
(ちょろいちょろい。人手確保出来たわ。予想外のこともあるかもしれないから、知識豊富な人がいる方がいい。それに対戦相手が居たほうが断然討伐作業が捗るからねぇ)
それに、心なしか祠堂は機嫌が良いようだ。口角が少し上がっているし、浮かれた雰囲気が伝わってくる。
(ヤル気満々みたいだし、祠堂さんもゾンビ退治好きなのかもね! 流石ゾンビ、皆に人気だなぁ)
うんうん、と一人で納得して頷いたところで、祠堂がこっち歩み寄ってきた。
「準備出来たぞ。お前は……いつも軽装だな」
息吹戸は自身を見直す。Yシャツとベストにスラックスとスニーカー。カミナシジャケット羽織って、腰にポーチと鉈だ。
「何を装備すればいいか分かんないからね。誰も教えてくれないし。津賀留ちゃんも私の装備はよくわからないって言ってた。この体の機動性を生かすのであれば、あまり重い物は持たないほうがいいかなって思う。なので、私が現在持っているのは傷薬と包帯と炎護符ってとこかな」
正直に答えたら祠堂に変な顔をされた。
彼の装備の量を考えれば、確かに少なすぎるから当然か。と思い直した。
「祠堂さんも銃を使うの? っていうか、この世界は和魂や護符や呪術とかの神通力使えるのに、銃も活躍するんだね」
「なに言ってんだ。普通に戦闘で使うだろ。弾に術式刻めるから効果は応用が効く。それに和魂の術を封じ込まれることもある。その時はこれが突破口になるし。そもそも、物理しか効かない相手もいるだろうが」
なんだかピンとこなくて、ふぅん。と息吹戸が生返事をすると
「いつも和魂と体術でなんとかなる奴にはわかんねぇよ」と毒づかれた。
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