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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第90話 追いかけてきた人

 中央区南側に位置する晴嵐霊園に到着した息吹戸いぶきどは、颯爽さっそうとマウンテンバイクから降りた。ここは小高い丘を段々畑のようにしていて、一般的な墓石が等間隔に置かれている。


 霊園を外部と隔離するために護符の結界が貼られており、彼女の目には鎖色の鉄格子が見えていた。


 墓場をゆっくりと動くゾンビと、墓石に座って骨を齧るグールと、暗闇に溶け込む人魂と、暗闇に溶け込まない人魂が浮遊していた。

 ザ・リアルお化け屋敷である。


「わあ。すごい楽しそう!」


 息吹戸いぶきどのテンションが爆上りしたところで、後ろからバイクが到着する音がして振り返る。


「なんだなんだ?」


 ネイキッドの大型バイクに乗った誰かがエンジンを切って降りた。プロテクター付きジャケットを着てジーパンを履いている。体格は男性だ。

 こちらに歩いて来るので、息吹戸いぶきどは不思議そうに声をかけた。


「ゾンビで溢れているので、お墓参りできませんよ」


「知ってる」


 声に聞き覚えがある。


(あれ? この声、ヤンキーお兄さん?)


 息吹戸いぶきどは更に不可解そうに首を傾げると、男性はフルフェイスを取った。

 思った通り、祠堂である。


 バンタナをつけていないので、前髪がちょこんと額に垂れていた。それを掻き上げて左右にそらすとアホ毛のようにぴょんと立つ。


「ヤンキーお兄さん。どうしてここへ?」


「ヤンキーいうな! お前だろ! 雨下野うかのに言ったのは!」


 祠堂しどうは指さししながら怒鳴ってきた。

 理由が分からないので、息吹戸いぶきどは怪訝そうに眉を潜めながら「なにが?」と聞き返す。すると祠堂しどうは口を一文字にして、言いにくそうに視線を泳がせた。

 

 数秒無言だったので、こちらから会話のボールを投げてみる。


「ヤンキーっぽいから、ヤンキーお兄さんって呼んでるだけだよー? 雨下野うかのちゃんに言ったら何かマズイことでも?」


「大問題だ! ピッタリとか似合うって笑われて雨下野うかのばかりか、他の同僚に揶揄からかわれまくってるんだぞ! どうしてくれる!」


「えー。だって、名前で言ったら駄目だって、そっちが言いだしたんでしょ。だから見た目イメージであだ名つけただけでーす」


 言いがかりもいいとこだ、と息吹戸いぶきどは肩をすくめる。


「見た目のイメージ……イメージ」


 と、復唱した祠堂しどうは視線をそらし、言いにくそうに言葉を続けた。


「ファウストの現身からみれば俺はそう見えるのか?」


「ん?」


「ヤンキーって不良だろ? その、性格が悪いとか性質が悪いとか、雰囲気が悪いとか。そんなイメージがあるのか?」


 そこを気にするのか? と不思議に思ったが、一般的な意見を聞いているのだろう。


「いやいや。全然マイナスじゃないよ。なんか見た目は乱暴そうだけど、実は気のいい兄ちゃんっていうイメージかなぁ?」


「悪いイメージではないのか?」


 「ない」とキッパリ答えると、祠堂しどうはあからさまにホッとした。


「ヤンキーお兄さんって、もしや。見た目で悩んでたの?」


 祠堂しどうは目を吊り上げた。


「悩んでない! あと何度も言うがヤンキーって言うな! 祠堂しどうでいい! 祠堂しどうと呼び捨ててくれ!」


 言っていることは先程と一緒だが、その声色に若干の照れくささが混じっている。些細な変化なので息吹戸いぶきどは気づいていない。


「もしかして、それを言いにここまで?」


 だとしたら、相当な暇人だ。と、呆れた様に言ったら祠堂しどうがまた憤慨した。


 そんなわけあるか! これはついでの話だ!」


(ついでにしたい話題だったか。よほど嫌だったんだ)


 なんだか申し訳ない気分になりながら


「じゃあ。なんでここへ?」


 と、聞き返した。


 アメミットはこの事件に関わってないはずだ。祠堂しどうが来る理由が分からない。

 私用時間を割いてまで、嫌いな相手を追いかけてきたわけではないだろう。

 となると、


「やっぱりお墓参り? 夜に行うのは感心しないけど」


「違う! お前が自転車で爆走しているから注意しに来ただけだ! 公共の道路をノーヘルで走った挙句、時速何キロだしたと思ってんだよ!」


「え。そんなの分かんない。一応、車道を走ったんだけど、何キロ出してた?」


「50キロだ」


 息吹戸いぶきどは「へ?」と間抜けな声を上げた。

 そして腹を抱えて笑う。


「まじか! 滑るように走れるわーって思ってたけど、そこまでだったとは。でも追い越しも信号無視もしていないよ? 公共のルールはしっかり守ったはずだから」


 自転車は車やバイクと同じ扱いである。小回りがきく分、歩行者と接触事故を起こしやすい。必ず交通ルールに沿って動く事が大切だ。


「ルール守っていても周りがヒヤっとするからヘルメットをしろ! 発見した時は目を疑ったぞ」


「もしやそれを言いにわざわざ?」


 だとすれば親切だなあと感心したが、


「いいや。違う」


 とキッパリ否定され、息吹戸いぶきどは「んー?」と疑問の声を上げた。

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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