第86話 地声が大きいと筒抜けだ
南区は兎も角。
北区と東区は先程戻ってきたアンデッド討伐組が場を鎮めてきたばかりである。移動時間を考えても、一時間程度でまたゾンビが出現したなんておかしい話だ。
「しかも中央北区と東区の霊園とは奇っ怪です! あそこは先程……」
勝木の言わんとした事を汲み取り、玉谷は重々しい空気を纏いながら頷く。
「まさか!?」
勝木は大口を開けて信じられないと首を振る。
彫石はデスクからゆっくり立ち上がり、視線を鋭くさせながら玉谷へ歩み寄る。
「部長。木庭霊園、泰山霊園、ノルテ霊園は先ほど終息させたばかり。上層部は何が起こっているのか把握されていますか? 把握されているのであれば情報の共有を求めます」
完全に異常事態だ。と言わんばかりの彫石の言葉に、それは、と、玉谷が言いかけたところで、通路から速足で駆けよってくる足音が響いた。
すぐにドアがバァンと開かれる。
「部長!」
東護が険しい表情をしながら駆け足で戻ってきた。急いでいたのでドアを閉めることなく、玉谷の後に立つ。
「話が聞こえました。本当ですか!?」
「ずいぶん遠くから着た様だが、聞こえたのか?」
玉谷が呆れた様に苦笑いを浮かべると、東護は勝木に視線を向ける。
「勝木さんの声が大きかったので、聞こえました」
「ありゃりゃ。こりゃ失敬」
勝木は苦笑いを浮かべた。この様子だと他の課まで声が届いているかもしれない。
「随分早いが、東護はもうシャワーを浴びたのか?」
勝木は誤魔化すようにと話を変える。東護は首を左右に振って否定した。
「報告が先だと思っていたから、着替えるだけにして戻ってきた。それよりも部長、詳しいお話を」
急かす東護に玉谷は「落ち着け」と肩をポンと叩いたところで、全員の顔を見る。
「まだ詳細は判明しておらん。だが、今言った霊園から召喚術の気配を探知できた。おそらく西の世界から召喚されている」
「西の世界」と礒報が呟いた。
「霊園に魔法陣が隠されているはずだ。速やかに破壊しに向かえ……」
「ちょちょちょ! まってください部長!? 魔法陣が隠されていると!? あれだけみんなで探しまわってもなかったのに!?」
愕然としたように口をあけ、勝木が大きな声で復唱する。廊下に響きまくる声に、玉谷だけではなく彫石も嫌そうに眉をひそめた。
「勝木さん。こちらに来てもらえませんか? それか声の音量を小さくしていくれると助かるんですがねぇ?」
彫石の棘のある言葉を聞いて、勝木は「すまない」と、片手で頭を押さえながら腰を低くして、周囲にぺこぺこ謝り、そっとドアを閉めた。
ドアをちゃんと閉めてなかった東護にも問題があるが、そこは誰もツッコミをしなかった。
「そうですか。魔法陣が……」
東護は小さく言葉を濁した。
彼が玉谷に伝えたかったことは、『木庭霊園やその近くにある霊園からは魔法陣がなかったという話』だった。
しかし探知されたのであれば見落としたのだろう。失態を犯したと悔しそうに奥歯を噛みしめる。
礒報は東護の姿をみて、貴方の責ではないですよ。と心でエールを送りながら、カッコイイ、と苦悶の横顔を堪能する。
「なるほど。弱すぎて探知できなかったと聞いていましたが、やっと波長を捕えたのですね。開発部は大分頑張りました」
彫石が薄く笑った。
彼は頻繁に開発部に出入りしている為、多少なりとも開発業務に関わっており実験に参加することも多い。今回、成果が出たことを素直に喜んでいるようだ。
パタパタパタと通路を走ってくる足音が響き、こちらに向かってきた。今度は誰だ、と入り口付近に立つ人達がドアに視線を集中させる。
小走りに走ってきて、彼雁が乱暴にドアを開けた。
急いで支度を整えたようで髪は濡れており、襟がよれてワイシャツのボタンも半分開いていた。
「聞こえましたよー! あれだけ目を皿にして探したのにまたですかー?」
部長を見て開口一番、情けない声をあげる。彼も通路で話が聞こえたようである。
全員の目が一瞬、勝木に集中すると、彼は巨体を小さくさせるため背中を丸くした。
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