第85話 またしてもアンデッド発生
パタン。と、ドアが閉まると、途端に室内が静かになった。
彼女たちがどれほど賑やかだったか、計らずしも理解できた瞬間だった。
少し間を空けて、彼雁が自身の匂いを確認しつつ、端鯨と東護に声をかけた。
「じゃあ、僕たちもシャワー室へいきますか」
「おお! それがいいな!」
端鯨は賛成するが、東護は「だが……」と部長の帰りを待つような仕草を見せた。
「おいおい。部長を待つのは感心するが、シャワー浴びる方がいいぞ」
勝木が東護の背を押して、
「正直、凄い匂いだ」
と、小声で注意する。
東護は少し迷ったが渋々頷いて、男性三人はオフィスから出ていった。
残ったのは、討伐に行かなかった四人だけになる。
勝木がドアを閉めながら苦笑いを浮かべた。
「ふう。東護は真面目なのはいいことだが。かなり匂うからな、サッパリしたほうがいい」
「そうですね。部長もすぐ戻るか分かりませんから、隙間時間に身なりを整える方がいいかと」
礒報はそう答えて、ホッチキスで止めた書類の束を自分のデスクへ置いた。
「さて。俺も仕事に戻るか。換気扇少し回しておくか。オフィスも匂いがする」
勝木は換気扇のスイッチを入れてデスクに戻り作業を再開する。
オフィス内に静寂が訪れる。
五分後、息吹戸は読み終わった本をぱたんと閉じた。本日も有意義な暇つぶしが出来た。隙間時間に知識を蓄えるのが日課になっているので、大分知識を補充出来ているはずだ。
ふぅ。と息を吐き、本をデスクに置き頬杖をついて深呼吸をする。
読書中も耳で会話を拾っていたので状況は理解している。彼らの会話のなかで、何かがおかしいと思った。
ふーむ? と首を傾げる。
息吹戸は腐臭をあまり感じなかった。
(ゾンビって実は臭くないのかな? いや、そんなわけないよね?)
自分の鼻がおかしいのかも。と、ガムを噛んでみる。ミントの香りがするので、鼻が馬鹿になっているわけではなさそうだ。少し噛んでから紙に吐きだす。
(チラッと見ただけだったけど、服もあんまり汚れていなかったような?)
汗や泥汚れは確認できたが、それ以外の汚れが見えなかった。
チラッと一瞬だけだったから見逃したのかもしれない。
(まぁいっか。それにしても、シャワー完備の職場っていいな)
日常的に戦闘があるため衣服や体がよく汚れる。そのため、カミナシ本部にシャワー室が完備されていた。脱衣所に個人ロッカーがあり、そこに衣類の着替えをストックすることができる。
その上、選択サービスもあった。
名前の書いた袋に汚れものを入れて指定の洗濯かごへ入れると掃除班が回収。二日後くらいに綺麗な状態でロッカーの中にいれて戻してくれる。
鍵がかからないので貴重品が置けないのが玉に傷だが、いざという時にすぐ着替える事が出来るのは嬉しいことだ。
(シャワー。私も使ってみたいなー。でも服が汚れるのは嫌だなー)
息吹戸は生物の体液がつくのが嫌なので、返り血を浴びないよう注意して戦闘を行っている。
(まあ、機会があればってことで)
デスクから立ち上がり本を本棚に戻した。デスクに戻り座り直そうとしたところで、
バン!
オフィスのドアが勢いよく開いた。
もうシャワー終わったのかな、と振り返ると、そこに居たのは玉谷だ。急いで走ってきたのか、肩で息を切らせており、顔つきが険しくなっている。
「おお部長! おかえりなさい。現場に行った皆が戻ってきたぞ!」
勝木が暑苦しい笑顔で出迎えると、玉谷は勝木と彫石と息吹戸にそれぞれに鋭い視線を向ける。これは何か命令がくるなと察知して全員の背筋が伸びた。
玉谷の様子にただ事ではないと感じた勝木は、身構えつつ呼びかける。
「部長、何か問題が?」
「中央北区の木庭霊園。東区で二箇所。泰山霊園、ノルテ霊園。南区の晴嵐霊園。数秒の誤差はあるが五分前、同時刻にアンデッド出現を確認した。勝木、彫石、息吹戸はすぐに現場に向かってくれ」
「は!?」と異口同音に勝木と彫石が、「りょ」と息吹戸が喜んで返事をする。
「まってください部長! 本当にこんなに早く出現するなんて。その情報は本当なんですか!?」
勝木が大慌てで問いただした。
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