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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第79話 報告書の記録

 さて。次の報告は……と小さく呟きつつ、資料を確認する。これは当時の指令内容や討伐手段、敵の情報などを記したものだ。

 調査が進んでいないもの・短時間のものだとA4用紙一枚で済む。

 目の前にある一枚の指令内容を手に取る。退院した翌日の日付で時刻は早朝だ。


(これは噴水の中で泣き疲れて干からびそうだったセイレーン)

 

 上半身裸で腕が翼、下半身が鳥の姿をした女性が噴水で歌っている。とのことで現場に向かった。出で立ちからしてハルピュイアだと思っていたが、正体はセイレーン。


 セイレーンは人魚のイメージが強いが中世以前は半人半鳥の姿である。言語の解釈違いから羽だったものが鱗へと変化し、『岩場の鳥』から『大海の魚』へと変化したと言われている。


 姿は変われど彼女たちは、海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる。歌声に魅惑された挙句セイレーンに喰い殺された船人たちの骨は島に山をなしたそうだ。



 今回のセイレーンは海にあいた不思議な穴に落ちてしまい、気づいたら噴水にいたそうだ。途方に暮れて姉妹を呼んで泣いていたら通報されたという。歌ではなかったので被害はなくそのまま送還した。


(いやはや、鳥だったから吃驚したけど、すごく綺麗だったなー)


 彫刻のような整いすぎた容姿のセイレーンを思い浮かべて、そのついでに、彼女の発した言葉を思い浮かべる。人の声帯を持ちながらその言葉は鳥のさえずり。

 聞いても理解できない言語……のはずだったが、息吹戸いぶきどは言葉の意味と理解が出来た。


(ピーフューとか音を聞いていたのに、言葉が分かるって凄かったなぁ。天才かと思ったよ。異種言語いしゅげんごを母国語へ翻訳できる能力、というか学問。これを取得しないと防衛機関に入れないって……)


 異界の言葉を覚えることが必須条件。完璧でなくてもある程度の会話コミュニケーション能力は必要だった。

 この世界では6歳から言語の授業が行われ、四つの世界でそれぞれ使われている基本言語の必要最小限の意味は理解できるように訓練されている。

 つまりこの世界で暮らしている人達は、五つの異なる言語を理解出来ているということだ。


 しかし、聞き取りが出来るから喋れるというわけはない。

 口の形、声帯の形、音の波長の問題もあり、喋るようになるためにはまた別の科目を受けなければならない。


 カミナシ就職は四つの世界から頻繁にくる種族、およそ250種類の言葉をあるい程度使える事が最低条件だ。

 希望者は全員受ける事が可能であり、何歳からでも基礎から学べるようになっている。


 セイレーンの件を解決した後、息吹戸いぶきど東護とうごに質問したことがある。

 今まで召喚している人達は全員、天路国あまじこくの言葉を話していた。それは何故か、と。

 異界の神を召喚するなら、異世界の言葉を用いる必要があるのではないか、と。


 東護とうごからの答えはこうだ。

 異界の言葉を用いればその時点で世界の特定と召喚されるタイプが把握できて楽だ。

 あえてそれをしないのは、ギリギリまで正体を悟られないようにするため。対策を行わせないためである。


 異世界によって詠唱の言葉は違うが、この世界の言葉に変換されると途中までは全て同じ言葉になる。


 異世界の言葉で詠唱するとことわりに反して『発動条件に満たない』ことがある。例えば、獣の声、鳥の声、魚の音とか。これらは確実に発動条件に満たないので何も起こらない。

 その獣でも鳥でも魚でも『天路あまじ世界の言語を用いた詠唱』であれば『発動条件が満たされ、術の発動が確定』される。だから積極的にこちらの言語を使うそうだ。


 そもそも敵を召喚するのは天路国あまじこくの民、菩総日神ぼそうにちしんの血を少なからず受け継ついでいる者達であり、母国語は天路国あまじこくだ。

 あえて異世界の言葉で詠唱する必要はないだろう。と締めくくられた。


(なんだか色々決まり事ありそう。とはいえ、その辺は追々わかればいいか。今は仕事、仕事っと)


 報告書を作成したので、次の指令を眺める。日付は同じで時刻は午後だ。


(ペリュトンが人間襲っていたやつだ。これは討伐)


 ペリュトンはアトランティス大陸に棲むという怪鳥だ。

 その姿は鳥の胴体と翼、オスのシカの頭と脚をもつ巨大な鳥である。

 自身の影を持っておらず、光をあびると人間の影ができるため、 故郷から離れた場所で亡くなった旅人の霊だとも言われている。

 人間一人を殺すと自身の本来の影を取り戻せるため、好んで人間を襲ってくる。

 

(群れで行動するけど10体以上いたから数多かったし大きかったなぁ。見た目はキメラなのに。……一般人が三人犠牲になってしまったし。ほんと殺害現場だった。影を得れば、影が無くなるまで人は襲わない幻獣だけど、あれを逃すとヤバイって分かる)


 何故発生したかは原因不明。周辺を調査しても何も出てこなかった。


 報告書の作成を終え、次の指令を見つめる。日付は同じで時刻は深夜。


(この日の夜にまたチョンチョン発生したなー)


 生首吸血鬼チョンチョンの再登場である。

 これは一時間くらいで片付いた。付近にあった小さな病院が発生源で、六名の頭部のない死者が発見された。入院前に誰かが噛まれて感染していたと検査結果が出ている。


 報告書を作成する。

 ここで、ふぅ。と息をついて、作成した報告書を読み返す。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頭の中で月曜と水曜だと勘違いしてて、毎週日曜に先読みだ! って興奮してやったー!って言いながら読んでました。続き楽しみです。
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