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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ~息吹戸瑠璃が遺したもの~  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第80話 ここは害獣駆除センター

 一日一件ではなく一日三件。どれも数時間で済む小さな事件だったが……。

 だからこそ、椀子蕎麦《わんこそば》のような速さで次から次へと指示がきたと思われる。


 厳密にいえば二日間で合計五つの事件を解決した息吹戸《いぶきど》は、関わった全ての事件の報告書を完成させなければならない。

 たとえそれが小さな事件であっても、被害はあってもなくても、入力項目の数は変わらない。


 さて、残りはあと二件だ。


 タカタカタン、タカタカタン。と一定のリズムで入力を続けると、機嫌の度合いを計っているように待機組の同僚が目を留める。チラッチラッと視線を感じるが息吹戸《いぶきど》は気にもせず自分のペースで進めていく。

 

(うーん。覚えている範囲でいいとはいえ。結構覚えているから書ける事が多い)

 

 息吹戸《いぶきど》の記憶能力がいいのか。『私』の記憶力がいいのか。その両方なのか分からないが、出来事一つ一つの詳細をしっかり記憶して、脳内で整理されている。

 

(まあ、私も短期記憶は得意だし。ホラー的内容なら興味ある分すっごく記憶に残っちゃうからだろうけど……。うん、こんなに仕事楽しいだなんて初めて。こんな報告書作ったことないよ。ふふふ。夢みたい)

 

 項目の内容に合わせてサクサクと文章を仕上げていく。常日頃からキーボード入力を行っている速度だと自分で感じた。

 

(私、事務仕事やってたのかもなー。何も覚えてないけど)


 ひそ、ひそ、とささやき声がして、意を決したように勝木が席から立ち上がった。

 

 勝木耀《かちきよう》、30代前半の長身の男性。角刈りに顎髭を生やしているので厳ついが、端正な顔立ちで品が良さそうな風貌をしている。

 ガッチリした体格をしており、暑がりで室内はいつも上着を脱ぎワイシャツを腕まくりしている。腕に毛がもさっとあるので、毛深そうだ。無駄に声が大きい熱血タイプだ。


 彼は移動の途中で息吹戸の後ろを素通りする体を装いつつ確認する。

 ちらっと画面をみて、嬉しそうな表情を浮かべ、礒報《さがほう》と彫石《ちょうこく》に向かって深く頷き、若干機嫌よく戻っていく。


 なんのチェックかと気になるが、勝木が何も言わないので大丈夫だ。と、己に言い聞かせる。

 ここで『なんですか?』と聞くと逃げて行く。皆、物理的に部屋から逃げて行く。

 聞きたいのをぐっと堪え、作成を進めた。

 

(よーーーーし! 饕餮《とうてつ》の報告書終了!)

 

 日付は次の日の午前。

 これは公園の一部がごっそりと消える事件だ。文字通り、ごっそりと消滅していた。木々はおろか遊具までも。最初からその場になかったかのように忽然と消えていた。


 現場へ行って調べてみると、饕餮《とうてつ》が迷い込んでいた事が判明。

 

 饕餮《とうてつ》は羊身人面《ようしんじんめん》神で四凶の一人だ。体は牛か羊であるが今回は牛の体をしており、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔の姿をしている。

 何でも食べる猛獣という印象から転じて、魔を喰らうという考えが生まれ、魔除けの意味を持つようになった神である。


 微妙に天路国《あまじこく》の言葉が通じたので話を聞くと、空腹による犯行で敵意はなかったそうだ。人に危害はなかったので送還術《そうかんじゅつ》で穏便に還ってもらった。

 こうしてあっさりと事件は解決したのだが……未だに、あれを『穏便に』と表現していいか迷う。

 

(いやでもあれは……言葉で説得したような気がない。結構殴ってふっ飛ばしちゃったし)


 実はこの事件。息吹戸《いぶきど》が一人で動いていた時に饕餮《とうてつ》に襲われた。

 理性のなくなった目をして涎にまみれた大きな口を開けて、噛みつく勢いで突進されたので、反射的に全力で何発も殴り、倒した。

 勿論、正当防衛である。刃物を使わなかった分、優しさが込められている。


 顔がボコボコに腫れ上がった饕餮《とうてつ》は泣きわめいて、『ゴメンナサイ、カエル、カエラセテオネガイ、マヨイコンダダケ』としきりに訴えていた。

 そこへ東護《とうご》達が駆けつけて事情を聞くことに。

 話し合いが通じた。というよりも、これ以上暴力を受けたくなくて還った。という方が正しいかもしれない。

 

 殴った時は何事かと驚いたが、饕餮《とうてつ》の名前を聞いたら納得した。

 単独で味方の居ない者を襲う習慣がある。と息吹戸《いぶきど》は知っていたからだ。

 けれど。と、釈然《しゃくぜん》としない部分は東護《とうご》に文句を言った。囮はやっても問題ないけど前もって説明してくれ。とお願いはしておいた。今後、この訴えが通ればいいのだが。



「ふぅ。なんだかんだで色々ある……」


 報告書を作成し終わり、背伸びをする。最大限に体を伸ばしたあと、ゆっくり力を抜いて脱力してから姿勢を正し、ディスプレイと睨めっこを開始する。

 残りは一件だと気合を入れ直す。


(さて次は。昨日のバジリスク……と)


 日付は夕方前。

 饕餮《とうてつ》が終わった直後すぐに現場に向かった。この時は津賀留《つがる》と二人だけ。東護《とうご》は別の案件に向うため別れた。


 養鶏場で『頭に雄鶏のトサカと角を持ち、羽が二つあって、尻尾が槍のようにとがっている蛇』が、鳥を次々に殺して食っている。という連絡が入った。

 その特徴は『蛇に見られた鳥があっという間に倒れてしまう』という。

 

 通報通りの出で立ちの蛇が出てくる。バジリスクだった。

 ゲームでは猛毒を持ち、視線で石化する能力が披露されている。

 倒し方は鏡をもってバジリスクの前に周り込むだけ。メドゥーサと似ているので、同じ対処法を行えば勝手に自滅する。

 

 そんな大蛇のバジリスクが4匹いたが、なんの被害もなく一時間足らずで解決した。養鶏場によく出没するので作業員も見慣れており対処法はバッチリ。全員無事だった。


 念のため周囲を探索すると小さな召喚魔法陣があった。

 人為的に描かれる場合と自然に現れる場合があり、この度は後者だったので事件性はないと判断し、魔法陣をしっかり消して終了となる。

 

(……未だに分からない。自然に発生する魔法陣ってなんなんだろう。バジリスクが『あっち餌があるからいこうぜ』ってノリで来たんだろうか?)


 一般知識なため説明されていないが、この世界は多数の召喚によって時空に小さな穴がいくつも開き、過去つかわれた道筋がうっすらと残っている。

 位置が近いと道筋が重なり複合され、なんらかの原因で発動し、入り口が出来ることがある。そこから通ってきたモノを自然発生と呼んでいる。


(対象が神話生物なだけで、ここは害獣駆除センターだよ。その中で時々、世界を滅ぼすレベルの害獣が出てくるだけなんだ……)


「やったー! 完成だーー!」

 

 息吹戸《いぶきど》は報告書を完成させた達成感を噛みしめながら、椅子に背中を預けてもう一度背伸びをする。

 開放感がたまらない。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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