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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→エピローグ裏・不穏な気配
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第77話 品種改良

「これが話すていたブツでさあ。題して、食べて美味しい召喚術ちゅーもんですだ」


 久井杉は得意げに胸を張る。


「これを一口食べるとありゃ不思議。肉体そのものが召喚術に置き換わってぇ、あっちゅー間に転化してぇ、異界の生物に早変わりさね。食べる量が多けりゃ強い怪物にも転化できるっつー、画期的な呪薬『子葡萄』だ~」


 子葡萄と呼ばれた果実、それはトマトにカモフラージュした呪具だ。


 久井杉は従来の『地面に書く魔法陣』よりも、安全に且つ秘密裏に召喚するための画期的なアイテムを創り出したいと以前から豪語していた。

 何十年にもわたる試行錯誤の末、ついに試作品が出来たので、清栄に出来栄えのチェックをお願いし、来てもらったというわけだ。


 作品名を聞いた清栄は、意外そうにトマトを見つめた。


「貴様はその顔に似合わず、いつも呪具に愛らしい名を与える」


「そりゃ食べてほしいから可愛い美味しそうな名前にすっべ。若い少女に食べてほしんだ~。十五歳から二十五歳までのかんわいい娘が、おいしーおいしーってパクパク食ってさぁ。どんな従僕(じゅうぼく)転化(てんか)するかを想像するだけで……あああああ腹が減るだ~。その娘っこ達食いたいだぁ」


 想像したらビール腹からぐぎゅるるるると長い腹の虫が鳴り響いた。

 久井杉はハッと我に返って腹を撫でる。


「今のは想像だべ。今日は普通のご飯だべ。我慢してくれや」


 そう戒めると、腹の虫は収まった。


「子葡萄を一つ頂きたい」


 清栄が手のひらを向けて催促すると、久井杉の目がぱぁっと輝いた。


「嬉しい事をおっしゃられる! 是非味をみてくだされ!」


 久井杉はトマトを取るとポケットからハンカチを取り出して綺麗に拭く。愛おしそうに艶々になったトマトを見つめてから、そっと清栄せいえいの手のひらに置いた。

 清栄は口に入れて噛み砕くと、ほぐれる弾力と柔らかい口どけに驚いて、「これは……」と無意識に呟いた。

 葡萄の甘さに苺の甘さが加わったような不思議な甘酸っぱい味であった。


 無言でお代わりと手を出すと、久井杉は感激しながら手のひらに一つ乗せる。それをわんこそばのように六回くらい繰り返すと、清栄は手を出すのを止めて満足した様にペロッと舌で唇を舐めた。


「予想以上に美味」


「有難うございますだー!」


「しかし瘴気が緩い。一個では転化(てんか)しないだろう。六個でやっとその辺のモノが呼べるエネルギー。量と質を考えると出来が良いと思うが、数秒の時間経過とともに霧散するので意味はない。先ほど食べた瘴気はもう消え去った。持続性はない」


 清栄の指摘を聞いて、久井杉は両腕を組みながら苦悶の表情を浮かべる。


「ううむ。まだ使えねぇかー。今度こそはと思ったが、やっぱり改良が必要んだなぁ」


転化(てんか)させる瘴気を呪薬に蓄える。取り入れた瘴気を体に留める術式を組みこむ。他にも改善点はあるがまずはそこだ」


「うーむ。さぁて改良どうすべっかなぁ?」


 味のお墨付きを頂いたとはいえ、呪具が発動してこその完成だ。久井杉はどう品種改良しようか頭を悩ませた。


「貴様がどの餌をターゲットにし、どのような同胞をここへ呼ぶのか。それを考えれば自ずと組み合わせる式が決まるはずだ」


「わかりました、近々まとめておきますさぁ。じゃあ肥料を与える時間なので、お目汚しになりますがちょっくら失礼しますだ」


 清栄が頷くと、久井杉は服をめくって腹を出しポンと叩いた。


 次の瞬間、腹が縦にパカッと割れてワニの口のように肉がせり出す。

 せり出した肉は大きな唇となり開く。中はまさに口腔である。鋭く大きな牙をいくつも生えており、細かく長い舌が何本も這っていた。

 久井杉は腹に引っ張られるようにビクビクと大きく動くと、


「ぐぉげぇ」


 腹の口から汚いえづきが出る。すると真っ黒な人型の瘴気を吐き出した。


 うあああ。うああああ。


 人型の瘴気は痛みに悶える様な声を出しながら這って畑に到着すると、泥のように地面に沈んだ。するとトマトが艶やかに輝いて、少しだけ実を大きく膨らませた。


「よおーし。肥料終了だ」


 久井杉が一仕事終えたと良い笑みを浮かべる。

 瘴気が野菜に溶け込む光景を眺めながら、清栄は「ところで」と話を続ける。


「腹はまだ減っていないか?」


「ええそりゃもう。転化(てんか)した途端にたくさん食わせてもらいましたんで、まだ腹八分目だあ」


 久井杉は遠くを見つめながら、ご馳走を思い浮かべる。


「能力高かったから美味かったあ~。甘くとろける若い女の肉、男の肉、悲鳴のスパイスが最高ですあ。あれも全て転化(てんか)する前のオラと、清栄様のおかげだぁ~」


 清栄は地面に目を落とす。腹が減るとあちこち人間を喰いまくるため釘を刺す。


「腹が減りそうなら早めに連絡しろ、何か用意する。いいか。《《末っ子》》の血が濃い人間は栄養豊富であるが賢い。貴様が動くと必ず包囲されて潰される。ホウレンソウは重要だ。覚えろ」


「はいだ! ホウレンソウ! 条業七人衆じょうごうななにんしゅうの一人として心得ておるだ!」


 久井杉は手を挙げて元気な返事を返すものの、すぐに話がそれた。


「ホウレンソウといえば。清栄さま、美味しいほうれん草が収穫できただ! 是非食べてってくだせーな!」

 

 清栄はゆっくりと氷のような笑みを浮かべる。


「……お言葉に甘えて、頂こうか」


「さすが清栄様! 温かい汁もんご用意しますだー!」


 久井杉はその場をぴょこぴょこ飛んで大喜びしてから平屋へ招いた。

二章終了しました、読んで頂き有難うございます!

次回から三章になります。ちょっと長めかなーと思っています。

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