第5話 敵か味方かという展開
第一声で勝負を申し込んできた男性に対してリアクションが取れず、『私』は淡々とした視線を男性に向けた。
スニーカーから煙があがっているのを見てから、改めて男性について推測する。
(誰だ? 新キャラだけど、あっちは私を知ってる設定?)
二十代前半男性で、身長は百七十六センチほど。
チョコブラウン色の髪はソフトモヒカンで、ヘアターバンをつけている。太い眉に目つきの悪い三白眼。左の泣きボクロがあり、角張った顎をしたクール系の美形。
スーツの下に隠れているが、首から流れる角張ったラインにより筋肉質であることが窺える。
(やばい。服が筋肉に沿って張ってる。しかもうっすら雄っぱいの影が見えているなんて。でもゴリラじゃなくて、引き締まってる。彫刻のような肉体美キャラ出現なんて、さすが夢。願望しかない)
『私』が万遍なく男性に全身を見ること一分弱。
男性は酷く困惑したような表情になると、
「無視、すんな!」
耐えきれないと言わんばかりに怒鳴った。
指さしのまま放置しているので当然といえば当然である。
「あ」
『私』は男性の後方からゾンビ数体が駆け寄ってきたことに気づくと、無言のまま回れ右をして逃げ出した。
男性はぽかんと口を開け、数秒静止したあと、『私』が逃げたことを理解した。
「んなあああ! ちょ!? 逃げるのか!? 逃げるんじゃねぇファウストの現身!」
男性は憤慨すると、すぐに追いかけてきた。短距離走選手さながらのフォームで走ってくる。かなりの速さだが、どうやら『私』の方が一秒ほど速いようだ。
『私』は通路を曲がる時にチラッと男性をみる。あと一歩が追いつけないため、必死な形相で走っていた。
「ファウストの現身まてこらーっ!」
(ほうほう。この度の私の名前はファウストノウツシミというのか。どこまでが名前で、どこまでが苗字なんだろうか? そもそも日本人の名前じゃないな。和風ファンタジーってとこかな)
考えつつ通路を全力疾走すると、広いフロアにも関わらず、あっという間に一周してしまった。
それでも男性は諦めず付いてくる。しかし「まてぇぇ!」や「無視するなぁー!」と大声で叫んでいるため、ゾンビがおびき寄せられてしまい数が爆発的に増えた。
(音にも反応って分かったわ。セオリーゾンビだね。でも隠密行動できなくなっちゃったなぁ)
このままでは埒があかないと、『私』は迷惑大音響と化した男性を話をするべく、肩越しで後ろを見ながら走り始めた。走りにくいフォームにより『私』の速度が落ちていき、男性との距離が徐々に縮まっていく。
「あのさ、叫びながら追いかけてこないでくれる? 時間ないんですけど」
「はぁ!? どーいうことだ!」
男性はラストスパートとばかりに速度を上げる。
(憤怒の表情が迫ってくるのもなかなか……絡まれると厄介なヤンキーお兄さんキャラかー。どうせならもっと有効活用できるキャラが出てほしかった)
夢に登場するキャラクターはランダムであり予期せぬ人物である。今回は外れかもと感じながら、『私』はジト目で男性を見つめた。
「遊んでる時間ないんだわさぁ」
「変な言葉でおちょくるな!」
「お兄さんのせいでゾンビが沢山追ってきたから時間ロスなんだよねぇ」
「はぁ!? ゾンビがなんだって!?」
「今はゾンビをまいて、速やかに屋上へ行きたいの」
呑気に会話しているが、二人は百メートル走を五秒で駆け抜けるほどのスピードでフロアを三周している。途中で通路の切れ目を発見したが悠長に入る時間がなかった。大幅なタイムロスだと『私』は嘆く。
(ううう。階段の場所を発見したのに入れないだと。なんてロスタイム。この人、敵枠なのかなぁ!? イラっとしてきたー!)
いよいよタイムリミットが迫ってきた感覚に『私』が焦りと共に怒りを芽生えさせる。
その後ろで男性が走る速度を上げてきた。
「いい加減に止まれ! わざわざこっちから訪ねてやったんだぞ!」
「嫌ですぞ! そんな時間ない!」
「一撃で勝負つければいいだろうが!」
「こんな場所でバトれるか! 時と場所を考えて!」
「ふざけるな! ゾンビよりも俺の方が強いだろうが!」
「意味が・分からぬっっ!」
予期せぬ伏兵に『私』は頭を抱える。雰囲気から察するに、カードゲームやじゃんけんといった平和な勝負は考えにくい。どう考えてもストリートファイトだ。バトルしてしまうと完全にタイムアウトである。
(まったく。敵っぽくないけど、味方じゃないお邪魔虫キャラだなんてガッカリ!)
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