第46話 初出勤日
ニ章に入ります
朝、指定時間ぴったりに職場に顔を出した息吹戸は、自分が一番最後だったと認識する。
個人ブースのデスクに十人。自分を除く一課全員が着席していた。
それぞれが一様に、時間通りに出勤した息吹戸に向かって驚きの視線を向けている。
息吹戸は顔ぶれを確認する。
名前と顔を知っているのは津賀留と玉谷と彼雁と端鯨と東護だ。
残り男性二名と女性三名は、名を知らないが見覚えがある。津賀留とビルを出た時に駆け寄ってきた人達だ。
時間が出来た時に名前の確認しておこう。と思いつつ、部長である玉谷へ挨拶に向かった。
「おはようございます部長」
呼びかけたら、玉谷は顔をあげて視線を合わせる。すると動揺した様に目をぶらせながら、自分の鼻をトントンと指で叩いた。
「息吹戸、眼鏡はどうした?」
息吹戸は「ああ」と視線を上に向ける。
「伊達眼鏡なんで、かけていません」
生首事件《チョンチョン討伐》の後、お風呂に入るときに服を脱いだ時に眼鏡を外した。どのくらい視力悪いのか、入浴差し支えないか不安だったが、視界に変化はなかった。
これは伊達眼鏡だと気づいたので、今朝は外して鞄に入れている。
玉谷は当惑し、脱力しながら「そうか」と頷くが、
「あれは必要だ。かけておけ。必ずつけておけ」
強めの口調で念を押した。
息吹戸は意味が分からず少しだけ首を傾げるが、特別の理由があるのかもしれないと察して頷く。
「分かりました。鞄に入ってるのですぐにつけます」
「よろしい。席に座りなさい」
玉谷の視線が下に向いたので、息吹戸は「ところで」と言葉を続ける。玉谷はまた視線を向けた。
「出社時間あってましたか? 間違えて遅れてきちゃったとか?」
「いいや。時間はあってる。他の者が徹夜だったり早番だったり、自主的に早く来ただけだ」
「もっと早く来た方がいいですか?」
「今日の時間で良い。必要なら早く来るように伝える」
「分かりました」
頷いたところで、玉谷は目を通した資料を閉じる。数秒開けて「やはりこの案件は」と、重々しく口を開き、席に向かおうとした息吹戸を呼び止めた。
「急で悪いが、今すぐここへ向かってくれ」
玉谷から資料を手渡され、「これは?」と聞きつつ、息吹戸は薄いA4のファイルを受け取った。
『船不町変貌案件』と書かれている。
玉谷は大変不本意そうに「今日のお前の仕事だ」と告げた。
「もう少し様子を見てから、仕事を割り当てたかったんだが。緊急事態により、そうもいかなくなった。」
息吹戸は「はぁ」と適当に相槌をする。
二日目にして緊急任務を任されることになるとは思わず、面倒だなと頭を過ったが、ゲームでいうところの緊急特別クエストだと思うと、ちょっとワクワクした。
「東護と津賀留と共に、現場に急行してくれ。内容はそこに書いてある。移動中に目を通すように」
息吹戸はその場に立ったまま、パラパラと書類を捲って内容を確認する。
速読及び動体視力により、すんなりと内容が読み取れた。
「船不町は山間の小さな町で、そこに蛇の特徴を持つ従僕が徘徊している、と。住人およそ二百人が犠牲。ありゃ。それは大変ですね。北の禍神の影響があり、降臨及び侵略の初期段階まで到達していて余談を許せない状況、っと。禍神に正体は書かれていませんね。現地でのお楽しみかな?」
読み終わったからので、息吹戸はファイルを閉じた。
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