第43話 人気討伐案件
何事も使って覚えるのが一番だと、息吹戸はリアンウォッチを操作しはじめた。案外簡単だったので玉谷にCALLすることが出来た。二十秒ほど経過して繋がる。
『玉谷だ。なにかあったか』
「生首が空を飛んでました!」
息吹戸は正気値《san値》を疑われる発言をしてしまったと焦ったが、玉谷は敵の存在を正しく理解した。
『異形の吸血鬼か。人員を二人増やす。すまないが今日の休日は返上だ。津賀留に連絡を取り、連携して可能な限り討伐するように。単独では戦わないことを儂に誓いさない』
「分かりました」
『健闘を祈る』
用件が終わるとすぐに切れた。
上手く連絡できたとホッと胸をなでおろす。
「連絡取れたよ。津賀留ちゃんと一緒に討伐してくれってさ」
さっそく津賀留に報告したら、彼女はにこっと笑って「分かりました」と承諾して、
「ところでこの吸血鬼の傷は、息吹戸さんがやったんですか?」
吸血鬼を指し示した。
(頭部……腹部に風穴があいている。グロいのに津賀留ちゃん顔色一つ変えないなぁ)
「反射的に殴ったら死んだ」
津賀留は「そうですよね」と納得する。息吹戸の攻撃力は軽いジャブでもコンクリートに穴が空く。吸血鬼の胴体に穴が開くのは当然のことであった。
津賀留はそっと吸血鬼の死体を置いた。
放置しても問題ないので太陽光で消滅させるのが一番手っ取り早い方法である。依代となった人間は首と胴体が離れた時点で死んでいるため、どうすることも出来ない。
このような異形の吸血鬼は見つけ次第、殺傷して良いモノであり、サックリ倒せてストレス解消とカミナシでは人気の従僕である。
「では、探しましょうか」
「どうやって探すの?」
津賀留の言葉に息吹戸が首をかしげる。
「まずは聞き耳です。《チョンチョン》は『チョンチョン』と鳴きながら飛んでますから。かなりうるさいはずです」
「鳴き声……」
「かなり怪しいのですぐ分かるかと。まずは病院へ行ってみましょう。距離的に、私がさっきまで居た病院が一番怪しいので、まずはあそこから」
「移動手段はどうする?」
「歩いていきましょう」
了解と答えながら、あんまり遠くないんだなと息吹戸は思った。
病院までの道のりで、野太い男性がノイズ音とコーラスしているような鳴き声があったので見上げると、異形の吸血鬼が二匹、枝で休んでいるところを発見した。
息吹戸はすぐに攻撃体勢に入る。体の動きがイマイチ把握していないので、まずはどのくらい動けるのか計ってみた。
まずジャンプ力が普通ではないと知る。
垂直五メートルは優に超えたため、一回のジャンプ及びストレートパンチで、上空にいた吸血鬼を仕留めることに成功した。
着地して、落下した吸血鬼を見ろ押す。
(確かに。耳障りな鳴き声と、大きな羽ばたき音が目立つ。吸血鬼と思えないほど偲ばないスタイルだ)
再び移動する。
病院から一直線に向かう並木道に差し掛かって、チョンチョンという野太い鳴き声が大きくなっていった。
イメージで言えば夕暮れ前の雀たちの集団さえずりだが、ノイズがかった野太い不協和音のコーラスなため耳を覆いたくなるほど不気味であり、安眠妨害も兼ねているようだ。
息吹戸が空を見上げながら津賀留に問いかける。
「これ、全部だよね?」
「ええ。そう、ですね」
津賀留はあまりの多さに驚いて息を飲んだ。
全体的に暗いが、等間隔に街灯があるので吸血鬼の姿が映し出される。鈴なりに吸血鬼がとまっているため枝がしなっている。葉の隙間から大きな目がギラギラと光っており、牙が生えた口をガチガチ鳴らして威嚇していた。
その数はざっと六十匹ほどで、稀に見る大群であった。
「もしかして、病院内で大規模な院内感染がおこったのかもしれません」
「院内感染……」
真面目に答える津賀留の横で、これほどミスマッチな言葉もないなと息吹戸は苦笑いを浮かべた。
「ギャギャギャギャ!」
一際甲高い声が響くと、吸血鬼が一斉に羽ばたき、空中を旋回する。そして次々と二人に襲い掛かってきた。
息吹戸は片腕で津賀留の腰を持ちあげて、くるくるダンスするように、噛みつく攻撃をかわしていく。
「あれあれ? 病人しか襲わないはずでは?」
「そうですけど! 統率とれてますから、おそらくキングかクイーンがいると思います」
「頭ね。何か特徴がある?」
「化粧しています!」
「化粧……って」
思わずこけそうになったが、津賀留は真剣そのものである。
「顔に派手な化粧。アイシャドウとかマスカラとか、見たらわかります!」
「あんまり見たくないけど、まぁ、派手なのは性闘争本能だからかもねぇ」
性闘争本能はメスをめぐってオス同士で争う戦いのことである。強い雄という意味があるため見た目が派手なのかと考えた。だが化粧した生首などあまり見たくないと思うのも仕方ないことである。
「キングかクイーン倒せば、この統率された動きはなくなるの?」
「はい。バラバラになって逃げてしまうかと」
「それは後回しの方がいいかな」
津賀留はそうかもしれませんと同意しつつ、
「でも吸血鬼なんです。噛まれると即座に吸血されて感染する恐れがあるので、集団は脅威です。単体のほうが、まだ危険が少なくなります。吸血鬼は単体だと臆病なので」
危険性を訴えた。
息吹戸は目にもとまらぬ速さで左ジャブを繰り出し、一体ずつ確実に仕留めながら「なるほどね」と頷く。自分や津賀留の体にかすり傷一つもつけずに、全ての個体を倒すのは案外難しい気がしてきた。
(さて、どうしようかな)
読んで頂き有難うございました。
更新は日曜日と水曜日の週二回です。
話を気に入りましたら、いいねや評価やブクマをぽちっと押していただけると嬉しいです。
感想いつでもお待ちしております。