表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ~息吹戸瑠璃が遺したもの~  作者: 森羅秋
→→→旅に出ますか>>はい
419/419

第413話 旅支度の雑談

 期待外れだと思いつつ、息吹戸いぶきどはノートを受け取った。菩総日神ぼそうにちしんから情報を引き出す取っ掛りはないかと、ノートをめくった。


 ぱっと開いたページには屍処かばねどころの覚醒について書かれている。


「覚醒トリガーが分かれば、人間でも対処できると思うんです。何かいい案ありますか?」


「残念ながら人間には対処できない。小さな刻印はすでにその者の一部だから、まだ見分けることが出来ないだろう。半分以上侵食された状態なら分かるかもしれないけどね」


 菩総日神ぼそうにちしんから感情が消えている。機嫌が悪くなったというよりも、現状に諦めているような雰囲気であった。


 息吹戸いぶきどは目を細めて、言葉の裏にある神の真意を図る。


(ふぅん。神様は屍処かばねどころが覚醒する仕組みを知っているんだ。放置しているのは何か理由があるんだろうな)


 深く探るべきか、聞き流すことにするか、迷う。

 だがこんな面白い話を深堀しないわけにはいかない。


「たしか、屍処かばねどころの覚醒は霊魂の変質でしたよね。霊魂は肉体から出来るものだって聞きました。ってことは、肉体構造に異界の力――屍処かばねどころの遺伝子が組み込まれ、それが子孫に遺伝する。その結果、屍処かばねどころの力も代々相伝され続けていく」


 息吹戸いぶきどは好奇心を抑えきれず目を輝かせた。


「そう考えると、天路民あまじのたみは異世界と混じってできた副産物と言えるでしょう。だから、屍処かばねどころへの関与を最小限にして進化を待っている。この考えはいかがでしょうか?」


 菩総日神ぼそうにちしんは黙った。

 機嫌を損ねたわけではなく、伝えても良いかどうかの躊躇いからである。


 これは天路民あまじのたみに言える内容ではないが、『私』ならば問題ないだろうと判断して、菩総日神ぼそうにちしんは静かに肯定した。


「僕は、それも進化の一つだと思っている」


 息吹戸いぶきどはほんの少しだけ目を見開いた。だが、すぐに神の意向を汲み取って「なるほど」と呟いた。


「いつか耐性を持つ人間が出現するのを期待していますね」


 菩総日神ぼそうにちしんは楽しそうに口元を緩める。


「そうだよ。化身を打ち負かす人間が生まれる日を願っている。それが子孫を成し、増えれば、天路民あまじのたみは新たな段階に進むことができる。僕らの目的は干渉し合うことだからね。君ならすぐに閃くので先に言っておくけど、箱庭は命の生育場であり、神の実験室でもある。人間もまた、僕らにとっては実験の一つに過ぎないんだ」


「まぁ神様ですから、人類をどう扱ってもいいと思います」


 息吹戸いぶきどはさらっと述べてから、本題に戻る。


「それで屍処かばねどころが覚醒するタイミングやヒントは教えてくれますか? 進化の過程の邪魔になるから駄目ですか?」


 聞きたいことが全くブレていないと分かり、菩総日神ぼそうにちしんは大笑いした。


「そこまで笑うことないのに」


 息吹戸いぶきどが眉間に皺を寄せて、腕を組んだ。機嫌が悪くなり、ひやりと冷たい雰囲気になるが、神には通用しない。


 ひとしきり笑ってから、菩総日神ぼそうにちしんは「駄目じゃないけど」と告げると、すっと目を細めた。


「僕がやると少し難しいだけ。ミクロの生物にいる寄生虫は、取り出せたとしても傷口が大きすぎてしまう。死ぬか、後遺症が残るだろうね」


 菩総日神ぼそうにちしん息吹戸いぶきどを指し示す。


「民と同じ大きさと目線の『君』ならば、あるいは……」


「あるいは?」


 オウム返しに聞くと、菩総日神ぼそうにちしんがぱっと笑った。


「この件は半神に丸投げしているから、どうしてもやり方を知りたいっていうなら、紹介してあげる」


 息吹戸いぶきどは期待で胸がときめく。今すぐにでも紹介してほしかったが、ここはぐっと抑えて「お願いします」と恭しく頭を下げた。








 菩総日神ぼそうにちしんは荷造りが終わったと感じて、出発するかと声をかけた。

 息吹戸いぶきどは首を横に振って、もう少し時間が欲しいと告げたため、菩総日神ぼそうにちしんは首を傾げた。


「いいよ。何をするの?」


「パ……玉谷たまやさんに手紙を書きます」


 息吹戸いぶきどは適当な紙を引っ張り出して、簡単な置手紙をつくる。それを三冊のノートの上に置いた。


 そしてリアンウォッチを腕から外してロックを解除し、手紙の横に添える。


(これで中にある情報は自由に読める)


 息吹戸いぶきどにはここに玉谷たまやが来る予感があった。

 彼が息吹戸いぶきどを探すときまずGPSの痕跡を辿るはずである。起動したままにすれば自ずとここに足を運ぶだろう。


 息吹戸いぶきどは少しだけ切なさを感じて瞼を閉じる。


(瑠璃の気持ちを知ってもらえばいいな)


 祈るように唱えて、ぱっと目を開ける。


「あとはお金だ。手持ちはどのくらいにしよう」


「僕が全額負担するから問題なし」


「神様もお金持ってるんですか?」


 息吹戸いぶきどが驚いて目を見開くと、菩総日神ぼそうにちしんは当然とばかりに頷いた。


「現世では必要でしょ。給料として月々銀行に貯蓄している」


(まじか)


 余りにも俗っぽい発言に、息吹戸いぶきどは思わず呆れた。

 すると彼女の心境を読み取ったのか、菩総日神ぼそうにちしんが口をへの字にする。


「僕だって天路国あまじのくにで遊ぶんだよ。神様だから全部無料ってわけにはいかない。民の生活があるんだからね。そんなわけで旅費は考えなくていい」


「凄い!」


 純粋に褒めると、菩総日神ぼそうにちしんがやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。


「準備ができたら僕に声をかけて」


 まるでゲームのセーブポイントのような言葉だと、息吹戸いぶきどはこっそり笑った。


「はい。菩総日神ぼそうにちしん様。準備オッケーです」


 菩総日神ぼそうにちしんがちょっと考えるように腕を組む。


「待って。折角化けているのに名を呼んだらバレちゃう。僕に偽名をつけて」


「あ、そうですね」


 人間に化けるということは、周囲に神だと認識されたくないはずだ。どう呼べばいいかと息吹戸いぶきどは首をひねる。


「……シン君、というのはどうでしょうか?」


 『君』は男子や男性に対して親しみや軽い敬称であるが、王や自分が使える人を示す言葉であり敬意を表す言葉である。様をつけられないなら君をつけるべきだと息吹戸いぶきどは考えた。


息吹戸いぶきど、シンか。気に入った」


 菩総日神ぼそうにちしんは重々しく言った後、無邪気な笑みを浮かべた。


「なら僕は『お姉さん』って呼ばせてもらうね。姉弟みたいにふるまうのでそのつもりで。言葉遣いもラフでよろしく」


 威厳がまるっと消えて、少年らしい可愛らしさが前面に出ている。あまりの変わりっぷりに息吹戸いぶきどが訝しげに眉を顰めたが、数秒で慣れた。


「なんだかお忍びの旅みたいでテンションが上がります!」


「じゃ、行くよ」


 菩総日神ぼそうにちしんが玄関ドアを開けると――そこは何故か、空港が見える駅のすぐ傍だった。

読んで頂き有難うございました。

次回は5/13更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ