表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→ 出張から呼び戻した職員
360/362

第354話 休暇の予定を組む

 滝登りドーム事件から五日後。

 本日午後十四時に菩総日神ぼぞうにちしんの降臨が決定。

 手が空いたものは所属部署に戻るよう、指令が下った。その為、一課職員全員がオフィスに揃い、業務を行っている。


 玉谷たまや彫石ちょうこく礒報さがほう東護とうごはデスクでアメミット共同捜査に情報を整理。

 章都しょうよと糸崎、端鯨たんげい彼雁ひがんはファミリー席で一課で捜査中の情報を整理。

 息吹戸いぶきど津賀留つがる、勝木はオフィス内にある会議室で、辜忌つみき事件の書類修正チェックをしている。


 神降臨まで残り三十分になると彼雁ひがんは浮足立ってきた。

 菩総日神ぼぞうにちしんが滞在するとほぼ侵略がなくなるため、この期間は長期有給休暇を得ることができる。

 常日頃から命のやり取りをおこなっているため平穏には飢えていた。今か今かと待ち焦がれるのも無理はない。


端鯨たんげいさんはお休みの間、何をされるんですか?」


 作業の合間に話題を振ると、端鯨たんげいはプリントを下ろした。

 その顔をみて彼雁ひがんが不安そうに眉を下げる。端鯨たんげいの目にクマがくっきり浮かび肌の血色が悪い。体調は悪くないと言うが、ひどく疲れているように感じた。


 彼雁ひがんの心配をよそに、端鯨たんげいは「そうだな」と一呼吸おいてから、

 

「数日ほど実家の帰省が決まっているだけで、それ以外、特に予定はないよ」


 そう端的に述べてから、「彼雁ひがんは?」と聞き返す。


「今回は友人と遊ぶために二週間ほど地元に戻ろうかなと思っています」


 彼雁ひがんから感情が籠っていなかったため、端鯨たんげいは首を傾げた。

 いつもであれば「親に会いに里帰りします」と言って、嬉しそうな笑顔を向けていたはずだ。今回は少しだけ影が差しているような気がすると感じて、もう少し深く踏み込むことにした。


「ご両親に会いに行かないのか?」


 案の定、彼雁ひがんは表情を曇らせた。

 目を泳がせて迷う様な仕草をするものの、隠しても仕方ないことだとため息をついてから、苦笑を浮かべる。


「ええまぁ……その、去年、父が死んだので。戻っても居場所ないっていうか。気を使うっていうか……」


 彼雁ひがんが言いにくそうに口籠る。

 端鯨たんげいは驚きで目を見開いた後に、憐憫を向けた。


「知らない事とはいえ大変失礼した。ご病気かなにかで?」


「まぁ過労死……ううん、老衰です。百近いのに頑張り過ぎちゃったようで」


 隣のファミレス席に座っていた糸崎が、後ろを振り向いて彼雁ひがんに呼びかける。


彼雁ひがんの御両親はたしか『健やかな泉』を管理していた人よね」


「はい、そうです」


 彼雁ひがんは座る位置を少しずらして振り返ると、章都しょうとが「マジか」と残念そうに呟いてから頬杖をついた。


「百を軽く超えてたのにずっと九十九歳と言い張っていた名物爺さんのつくもさん。亡くなったのか。面白い爺さんだったのになぁ」


「入浴マナーにうるさかったから、健やかな泉はいつも綺麗で客層も良いのよ」


 糸崎は頬に手を当てながら、宿泊した記憶を思い浮かべる。


 健やかな泉は真南にある温泉施設である。

 神力が溶け込んだ水に負傷者や戦死者を投げ入れると復活すると言い伝えられており、実際に傷の治療効果が高かった。


 大怪我を負っても一週間以内に完治するため、一課では誰もが一度はお世話になっている温泉であり、つくも爺さんこと彼雁慶次と顔見知りの職員も多い。


「残念だ」

「ほんとになー。」

「きっと美味しい創作料理もなくなったのよね」


 と口々に残念がる声を上げる中、


「で? 過労死の可能性があるってどーいうことだ?」


 章都しょうとが真顔で質問を飛ばした。

 鋭いと感じて彼雁が口を閉じると、章都しょうとと糸崎から「さっさと話せ」という圧がやってきたので、すぐに観念した。


「まあその。周辺に従僕じゅうぼくが湧いたそうで。アメミットに任せればいいのに、一緒に討伐頑張っちゃったみたいなんですよね。温泉を守るのが生きがいみたいな人だったんで……。その日の夜に力尽きたのかぽっくりと」


 それはそれは目に見えるようだ、と章都しょうとが苦笑いを浮かべる。


「だったら今は誰が管理しているの?」


 糸崎は口元に指を添えてから首を傾げると、彼雁が「二人の姉です」と答えた。


「俺はカミナシがあるから稼業できないし、潰すわけにもいかないしってことで、家族引き連れて戻って来たんだ。上の姉が社長で下の姉が経理担当だったかな」


「ん? お前、姉が二人もいたのか?」


 章都しょうとが興味津々で聞き返すと、彼雁ひがんが肩をすくめた。


「二人とも父の最初の奥さんの子供。俺が生まれた時にはもう嫁に行ってたので、殆ど他人だけど。それでも再婚した母を気にかけてくれて、時々会いに来てくれたから面識はある感じです」


 長生きあるある複雑人間関係を聞いて、糸崎があららと口元手を添える。


「なるほど、つくも爺さんはお盛んだったわけだ」


 章都しょうとが明後日の方向に納得したので、糸崎が身を乗り出して彼女の頭を叩いた。

 彼雁ひがん端鯨たんげいがびっくりして目を丸くすると、糸崎が椅子に座り直し「ごめんね」と両手を合わせて小さく謝った。


「あ、いえ……ありがち間違いではないので。その、父は温泉存続に命賭けていた人だったので、子供が沢山欲しかったみたいなんです。最初の奥さんが病死したあとすぐに二人目を迎えたんですが、性格の不一致で子供三人を連れて離婚したそうです。そのあとに母と結婚して……俺は八十過ぎの父から生まれた子です」


 糸崎が「複雑ね」と呟くので、彼雁ひがんが不思議そうな顔になる。


「そう……かもしれませんね?」


 複雑と言われてもしっくりこないようだと、彼の表情で悟った糸崎は「そう、教えてくれて有難う」と話を切った。


「そうだったのか。御両親は高齢だと伺っていたが、そんなに親子の歳が離れていたとは驚いた……」


 端鯨たんげいの目が点になっているので、彼雁ひがんは笑った。


「そうそう大抵の人はビックリします。父は神の血がとても濃くて肉体の老化は緩やかだったんです。しかも俺を産んだ時、母は二十代……もう年の差婚ってレベルじゃないから教えるの恥ずかしくって。人前では父を祖父って言っちゃいます」


「よくそんな若い嫁がくるな。ワタシならお断りだ」


 章都しょうとが首を左右に振りながらお道化た仕草をすると、糸崎が再び立ち上がり、章都しょうとの頭を叩いた。茶々を入れるな気を使えという意思表示のようだ。


 彼雁ひがん端鯨たんげいはまた驚いて動きを止めるも、すぐに会話を再開する。


「そうか。彼雁ひがんは健やかな泉の関係者だったのか。驚いた」

読んで頂き有難うございました。

次回は10/19更新です

物語が好みでしたら応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ