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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第六章一句 マレビト秘密裏の来訪・出張組帰還
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第346話 ひやひやの晩御飯

 残念だと首を振る比良南良ひらならに、磐倉いわくら金合歓きんごうかんが「当然です!」と声を揃えて非難する。


「あの野菜めちゃくちゃ汚染されてたよね! 一目見ただけで分かったよね!? 明日詳しい調査するけども、サンプルとして持ち帰るか、ここで焼却だってば! 美味しそうでもダメですからね!」


 金合歓きんごうかんが焦ったような表情を浮かべて捲し上げるので、比良南良ひらならは少々ムッとしながら「わかってる」と頷いた。


「それで鍋はまぁよしとして、このお湯は大丈夫?」


 鍋で沸騰するお湯を示した金合歓に対して、磐倉いわくらが大丈夫だと返事をする。


「水質検査で異常はない。いまも何も視えないから問題ない」


 磐倉いわくらが言うなら間違いない、と金合歓きんごうかんは安心する。


「ならよかったー! インスタントみそ汁でいいですよねー!」


 腰を上げて食料が入っている箱に向かった。箱は部屋の隅に置いてある。


「それにしても。よく鍋を使おうと考えますね。俺にはできないことです」


「使えるモノは使っただけよ」


 磐倉いわくらは言葉に皮肉を込めたが、比良南良ひらならは得意げに胸を張った。苛酷な戦場を生きてきた彼女にとって、その辺にあった物を使う、無ければ自分たちで作ることは当たり前であった。


「ところで薪はどこから調達したんですか?」


 磐倉いわくらが不思議そうに聞くと、比良南良ひらならは裏口を示した。


「囲炉裏があるなら薪もあるだろうと思ってね。裏を覗いたら案の定、薪が干されていた。ここは生活感が残っているから、日用品や消耗品もあると思っていたよ」


 そうでしたか。と磐倉いわくらが頷いた。

 家を一周して様子をみていたが、術の有無ばかりに気を取られ、薪の存在をスルーしていた。

 他にも役立つ物がないか探索しよう、と脳内業務リストに追加する。


「俺も明日調べてみます」


「お前は都市勤務が多いから見つけられるかどうか」


「おまたせ! みそ汁と缶詰持ってきた」


 金合歓きんごうかんが三人分の夕飯を持ってきたところで、話題終了となった。


「お湯入れてやるからこっちに置きな」


 比良南良ひらならが右手でパンパンと脚の横を叩く。


「はいはいー」


 金合歓きんごうかんはカップ入り生味噌タイプのみそ汁の封を開けて、中に材料を入れ、比良南良の横に三つを一列に並べて置いた。


 比良南良ひらならは囲炉裏鍋のお湯をおたまで掬い取るとお湯を突っ込む。

 少々勢いが良くて周囲に水滴が散らばった。


「待って、こぼれてるー!」

「荒い」


 金合歓きんごうかん磐倉いわくらのブーイングするが比良南良ひらならは無視して、割りばしで味噌を解くと得意げに「できた」と言い、金合歓きんごうかんに持っていくよう指示を出した。


 仕方ないなという表情をして、金合歓きんごうかんは二人分の味噌汁を持って磐倉いわくらの傍に行く。


 ピーッピーッ


 そのタイミングで何かの音が鳴った。

 聞き覚えがある音だ。

 そんなことを思いつつ、磐倉いわくら金合歓きんごうかんは音の出どころに目を向けた。


 テレビの横に三合炊きの炊飯器があった。白い湯気をプシューと出している。

 よく見ればポータブル電源に炊飯器のコンセントが差し込んでいる、と見て分かったが。


 なぜこんな場所にあるんだ。と二人の眉間にしわが寄った。


「おお、ご飯が炊けたよーだ。タイミングが良かったな」


 比良南良ひらならがぱぁっと笑顔になる。炊飯器をセットした犯人は彼女であった。


「はあ!?」


 何やってんだという意味を込めて磐倉いわくら金合歓きんごうかんが叫ぶ。


 それを尻目に、比良南良ひらならは膝歩きで炊飯器に行くと蓋を開けた。熱い蒸気がふわっと上がり、米の炊けた良い匂いが鼻腔をくすぐる。思わず唾液が出てきたので飲み込んだ。


「ほっほっほー。美味しくできたようじゃのー」


「なんで……米を炊いている……のですか?」


 よりにもよって敵地で。と呟きながら、理解できないとばかりに磐倉いわくらは瞬きを繰り返した。


 調査中の食事はさっと食べることができて、常温で保存できるレトルト食品や缶詰がメインである。

 捜査に集中するためは勿論のこと、食事による隙や油断を最小限にする目的もある。

 にも関わらず普通に米を炊くとは、流石に予想すらしてなかった。


「やったー! 炊き立てごっはーん。センセー、俺のご飯大盛でー!」


 固まる磐倉いわくらを余所に、金合歓きんごうかんは万歳と両手を挙げて喜びを表すと、膝をついて炊飯器に向かう。


 比良南良ひらならが「たんと喰え」と、使い捨てどんぶり容器にこれでもかと米を盛った。


 ほくほく顔で座る金合歓きんごうかんを、磐倉いわくらは信じられないモノを見るような視線を向ける。


 金合歓きんごうかん比良南良ひらならの食のこだわりを知っているのでもう驚かない。それどころか「ケンキももらえって。美味しそうだぞ」と勧めてくる。


 磐倉いわくらはイラっとして眉間に深いしわを作るが、比良南良ひらならは彼の苛立ちを笑い飛ばした。


「はっはっは。水質に問題なし。ポータブル電源があるなら米炊くわい」


 磐倉いわくらは不安になり表情を曇らせた。


「まさかと思いますが……ここに置いてあった炊飯器を使っていませんよね? 流石そんなことしませんよね?」


 比良南良ひらならがドヤ顔をする。


「当たり前だ、持ち込んだに決まっておろう!」

読んで頂き有難うございました。

次回は9/21更新です

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