第34話 お仕事を把握すればいっか
「これで最後」
上梨卯槌の狛犬社員用説明書を開いた。入社する際の説明みたいだ。
上梨(神成)卯槌の狛犬。
菩総日神の力を強く持った者を中心とした組織である。五つの市にそれぞれ拠点があり、対策討伐部、諜報部、開発部、医療部の大きく四つに分類される。
禍神の侵略・策略を妨害し、世界を守るのを目的とする(中略)時折、異界の住人が紛れ込むことがあり。
好戦的ではない場合は保護し、元の世界に送る為、逆召喚を行う事
アメミットは天路国家が所有する防衛組織。選りすぐりの精鋭で構成されている。
大規模な禍神の侵略時に率先して動く。連係組織の一つである(中略)
藤見教。禍神との共存と交流が叶う事を信じる組織。
菩総日神が保護した禍神および、アメミット・カミナシが保護した従僕を監視・日常生活を送るよう支援する役目も担う。
思想によっていくつか分類されている。(中略)
友好的な従僕が集まりやすいが、何かのスイッチが入ると侵略者に変貌することがあり注意が必要。連携組織の一つである
辜忌。反天路国組織。
祖が一人。幹部は七人という情報がある。
潜伏場所は特定されていない。一枚岩ではなく、何層か折り重なったような組織統制。天路の国を内側から攻撃する者達。
禍神の召喚を行う他、敵対する者の排除、天路の民を攫い、転化・召喚の材料・生贄など非道な行いをする。
把握している幹部名:燐木一族、普村一族、阿子木一族、久井杉一族。彼らは異界の神の血を継承した人間と言われているが真偽を確かめるすべはない
地界と死者の国。
死んだ魂が集う世界。
地界は通常の死を遂げた者が逝くとされ、死者の国は転化した人間が堕ちる世界とされる。
現世と繋がる入り口があり、稀に生者が紛れ込むこともある。現世に戻るのは可能であるが、長期滞在は死を招くので早々に脱出するのが望ましい
あとはカミナシの拠点やら就業時間やら休みやら保険やら色々書かれていた。
ここら辺はまぁいいかな。と息吹戸は本を閉じて、背伸びをして体をほぐす。
(んあー。兎に角、私はカミナシに所属していて、モンスター退治や降臨儀式の阻止をするお仕事をしているってことなんだね。今はそれだけわかれば十分か)
後は生活をしている内になんとなく慣れてくるだろう。若いんだし。と、気楽に考えながら、本を集めてトントンと揃える。
(今日はもう帰ろう)
会議スペースから出ると、玉谷のデスクの前で二人の社員が報告していた。先ほどの会話は彼らだろう。
一人は二十代後半の男性は彼雁雅。マッシュヘアの髪型。温和な形の顔をして優男という感じだ。身長は百六十九センチほど。細い体つきにぴっちりとしたスーツを着て茜色と白のジャケットを羽織っている。
一人は三十代前半の男性は端鯨誠也。カリアゲのアップパンプの髪型。イケメンというほどではないが、良い感じの顔つきをしている。身長は百七十二センチほどでスーツが少し草臥れている。こちらも茜色と白のジャケットを羽織っている
パタン。
会議室スペースのドアが閉まり、音に気を取られて二人は同時に息吹戸へ視線を向ける。バッチリ目が合った。
――瞬間に、二人とも顔色を青く変えながら、すぐに視線を外して報告を続ける。
(明らかに視線をそらされた。あれは近寄っていいものだろうか)
三人の話はすぐに終わるような雰囲気ではなかった。
(ありゃ。時間かかりそう)
まだかなー? と上半身を左右に揺らしながら待っていると、二人の背中がどんどん硬直していき、しまいにはカタカタと小さく震え始めた。
(寒いのかな?)
思わず空調設備を見上げる。丁度いい温度の風が流れていた。
「……デ、あるから、して」
「ええと、つ、つまり、ハハハハハ……ハが」
報告に身が入らなくなった彼雁と端鯨の姿を見て、玉谷は深いため息を吐きながら、息吹戸に視線を変えた。
「息吹戸」
玉谷から声がかかった。
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