第35話 気まずさは気にしない
これはチャンスとばかりに、息吹戸はトトトと少しだけデスクに近づくと、近寄った分だけ遠ざかった彼雁と端鯨。彼らに会釈をしてから玉谷に本を見せる。
「本を読み終わったんですけど、どこに返せばいいのか分からなくって」
「そこの戸棚の開いているスペースに適当に入れておけ」
示された戸棚の列を確認して「はーい」と元気に返事をする。その姿に彼雁と端鯨は目を白黒させた。
息吹戸が戸棚を開けると、資料や本がぎっしり詰まっている。
(ほうほうほうほう! これはこれは! 面白そうな本が沢山! 『血系』とか『和魂の会得』とか『儀式入門』とか、ヲタ心くすぐられる!)
目をキラキラさせながら、次に読みたい本の目星をつけたところで、読み終わった本を隙間に刺していく。
ぱたんと戸棚のふたを閉めて、その隣も開けてみた。
(こっちは事件簿みたい。大量だなぁ。ええと、信歴二五九一一年一月、二五九七一年二月……。二五九九一年五月……うん、馴染みなし。分からん)
ぱたんと閉めた。次の戸棚のふたを開ける。
名札を付けて箱に入っているものが殆どだが、剥きだしの短剣とかしめ縄とか、御札とか置かれている。
(うん。呪具置き場っぽい空気がする。わからん)
ぱたんと閉めた。
そうして隣接する戸棚を全て開けて中身を確認したところで
(あ。私なにも持ってない。鍵もスマホも財布も。ここに置きっぱなしなのかも)
くるりと個人ブースへ移動する。一つ一つ覗いてみるが、見覚えが全くない。
どこが自分の席か分からずぐるぐると歩いていると、玉谷が立ち上がり、彼のデスクのすぐ前にある右側のデスクを示した。
「お前の机はここだ」
「あざーっす!」
救世主をみたとばかりにキラキラした目を送ると、玉谷は冷や汗を額に浮かべて頷く。彼雁は部屋の隅に慌てて逃げて、端鯨はそのまま固まってしまった。
「そちらのお二人は、私の同僚さんですか?」
奇行を気にせず話しかけると、二人は驚愕な表情になった。
玉谷も驚いたが、平静を装い彼らを示す。
「部屋の隅に居るのが彼雁雅。そこに居るのが端鯨誠也だ。二人ともお前の後輩だ」
「まじか! 私よりも年上っぽ…………。私何歳ですっけ?」
「今年二十二歳だ」
「若い!」
と叫んだところで、白目の彼雁と、目を見開いた端鯨をみて、咄嗟に両手で口を押える。
「すいません。お邪魔しました。私に気にせず話を続けてください」
「!?」
二人が驚いた石像のように硬直したが、オーバーリアクションに気にすることなく、教えてもらったデスクへ向かう。
「うーん」
パッと見て、汚い。
書類が溜まっている。筆記用具もつかったまま放置されている。ノーパソは充電が切れていた。
(うんうん、性格が大体分かった)
散らかっている物はあとで片づけるとして、今は鍵と財布とスマホ確保だ。
早速中身を漁るが、予想通り、引き出しの中もぐちゃぐちゃだ。
「わぁ汚い。後にしようと思ったけどダメだこりゃ。探しながら整理しないと」
思わず声に出すほど、酷かった。
紙の皺を手でなめしながら物別けをしていく。突っ込まれていたのは殆ど書類で、内容読んでも分からないが一応日付順に並べてみる。後日、誰かに聞きながら細かく整頓するつもりだ。今はザックリでいい。
「くっそおおお。まとめるファイルすらない。おおおおううう! こんな奥にゴミ突っ込んでるううう! デスクでこれじゃ、家の中も相当かもしれない。これは覚悟しとかないといけないぞ」
文句を言いながらもササッとデスクの中を整理する息吹戸。
普段の彼女からは想像もつかない行動に度肝抜かれ、三人は固唾をのんで見守っていた。
書類の整理を始めてから数分後、どんどん書類がまとまって整頓されていった。手際が良く片付け慣れていると伝わる。
なんでもかんでも引き出しに突っ込んでいた人間のやることじゃない。と三名は困惑したようにそれぞれ顔をみた。
その更に五分後、息吹戸は、あ、と声を出す。
引き出しの奥、丸まった書類の隙間から三つの鍵と財布、電子腕時計を発掘した。
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