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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→惨劇の監督VS玉谷
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第332話 なんでバレたのですか?

 夕闇の空に青い大鷲が二羽、飛んでいる。

 天路あまじ中央区の上空を旋回しているどの式神よりも二回りほど大きい体をしているが、パッと見て地味な印象であった。

 下から見上げても気づかないほど気配が薄いことから、隠密系の式神であると想像できた。


 その二羽の大鷲の背に、人間が片膝をついてしゃがんでいる。


 一人は二十代の黒軍帽子と軍服を着ている男性で、背丈は百七十六センチで細身ながらもがっしりとした体つきである。

 日に焼けた肌、散切りした黒髪、儚さを漂わせた少年のような顔立ちだった。帽子の鍔から見える赤い目は鋭く、下界を見下ろして目標を探している。


 もう一人は二十代前半で黄色い着物姿の女性である。背丈は百六十センチほどで中肉中背。ブラウン色の髪をハーフアップのお団子にしている。

 甘く華やかな顔立ちをした穏やかな顔であるが、赤い目を鋭くさせてキツイ印象を与えている。女性も下界を見下ろし目標を探していた。


「!」


 二人の目が一点を凝視した。


 滝登りドームから東に七キロの位置にあるモダンな建物が並ぶ地域で、古びたテナントビルがいくつか並んでいる。その一棟、七階建てのテナントビルの屋上に結界があった。


 戦場ではない場所、そして建物全体ではなく屋上のみ、更には結界のほかに目隠しの細工までされており、一言でいえば奇妙であった。


「あそこか」

「あそこね」


 アスマイドの力で結界が作られていると気づいた二人は、アイコンタクトで作戦実行の意思を伝えた。


「アドリシュタパラ・アーカーシャ!」


 目標の上空に差し掛かった時、女性がテナントビルに二回りほど大きい結界を張る。

 無事に結界が発動したのを見て、男性が『主』に伝達した。


「発見しました。命令を実行します」


 男性は腰を浮かせると、なんの躊躇いもなしに大鷲から飛び降りた。

 屋上までの距離は高さ四十メートル。そのまま着地すれば命はないのに、あろうことか体をくるりと半回転してわざわざ頭を下にする。


 降下速度をあげて一気にコンテナビルの屋上を目指す――が、侵入を防ぐように防壁結界が立ちふさがった。

 目下に広がる煙模様の防壁に激突すれば、全身打撲で即死となるだろう。


 しかし男性は怯むことなく、右腕を突き出しす。


俺の前に壁はなし(クータスタ・カルマ)!」


 パリン、と音がしてガラスが割れるように防壁が崩れていき、更にそのまま結界をも拳で貫いて破壊した。


 結界の欠片がさらさらと紙吹雪のように舞う中で、男性はくるりと半回転して両足から屋上に着地した。

 顔を上げて、空調と電圧設備の横にある屋上出入口ドアの前に佇む人物を睨む。


 そこにはほっそりとした女性が立っていた。

 年齢は四十代で、背丈は百五十センチ。ショートボブで儚げな顔をしている。二重の垂れ目が眠たそうに瞼を開けたり閉じたりしていた。

 春色のワンピースに厚手のニットのポンチョを羽織っていて体の線は見えないが、袖から覗く手足に肉がないことから、極度の痩せた体をしていると分かる。


「うわぁ……まさか見つかっちゃうなんて。あと一撃で結界破壊するなんて最悪」


 女性は突如着地した男性に驚くわけでもなく、横髪を耳にかけながら口をへの字にして不快感を表すものの、


「でもまぁ、計画潰れそうだから憂さ晴らししとくかなぁ」


 目に嗤笑の色を濃くして儚げに嗤った。

 線の細い女性から漂う気配は禍々しいものであり、滝登りドームで暴れている禍神よりも強い瘴気を漂わせている。


「この気配、間違いない」


 男性が獰猛な眼差しで立ち上がった。

 唐突に、肌が胡桃色に変化する。上と下の八重歯が伸びて唇から少しはみだし、帽子の唾を少し上に向けると額から三つの小さな角が生えていた。

 男性は荒魂である。種類は鬼だ。


屍処かばねどころ、覚悟せよ!」


 神通力で構成した苦無を両手に持ち、鬼は構えた。


 線の細い女性――屍処の一人、仮室来名けだいきなは、パッと目をあけると鬼を指差しした。


「あああーアンタ見覚えがある。玉谷たまや荒魂あらみたまだ。名前はなんだったかな? ええと何世代ぶり? 十年以上だっけ? たぶん二回、いや三回ほど遭ったね。私もスパン早いから避けてんだけど、今回は遭っちゃったかー。あの馬鹿どこにいる?」


「御託はいい、その首もらい受ける!」


 鬼は駆け出した。屋上は四百平方メートルほどなので、今の位置から三百歩で仮室に到着できる。

 つまり一分足らずで苦無を突き刺すことが可能であったが、数歩進んだところで地面が輝いた。


「アスタロトの末裔が餌の地へお招きします」


 魔法陣が赤黒と交互に色づくと色が分裂し始め亀裂を生んだ。下から異界の風が吹き上がり二人の衣服が風に遊ばれる。


――ウオオオオオオオ


 亀裂の隙間から獣のうめき声が近づいてきた。

 一瞬だけ狙いに迷いが生じたものの、鬼は当初の予定通り仮室けだいに狙いを定めて走る。


 亀裂から色とりどりの異形の手が伸びて、鬼の足を掴みにかかってくるので、避けるためにジグザグに走った。


「早い早いめっちゃ早」


 一呼吸ですぐ近くまで接近した鬼に対して、仮室けだいは喜びを表すように手を叩いた。すると、手の平からぶわっと白い煙が立ちあがった。


 煙は生物のように全身を包み込もうとするため、鬼は急ブレーキをかけて横に避ける。

 

 空気が腐り、吐き気を催すような悪臭がまとわりついて鬼の顔が歪んだ。更に煙が触れた地面がジュっと音を立てて溶ける。


 煙が明後日の方向へ向かったのを横目でみながら、鬼は踵を返して再び仮室けだいに接近した。

 頭部と胸を狙って苦無で突くが、空を切る。

 さらに追撃するも、仮室けだいはひらりひらりとステップを踏んで踊るように避けた。


「あらあら当たらないね」


 嗤うその目が最初とは違っている。瞳孔が五芒星に変わり星屑を拾ってキラキラと光っていた。

 未来予知能力。少し先の未来を視ることで鬼の攻撃を避けることができている。


 そのまま攻防を続けること二分、ついに悪魔達が亀裂から這い出てきた。

 けたたましい咆哮があちらこちらから聞こえてくる。


 赤青黒緑色というカラフルな肌色をしており、頭は動物か頭蓋骨、巻いた角や真っすぐな角、二つ四つかそれ以上の眼、背が高いから低いまで、細いから太いまで。共通しているのは裸で背中から蝙蝠の羽があり、矢印の尻尾があること。


 これらはランク中位の悪魔である。知能があり、上位の命令に忠実な者達だ。


「あちらの相手をしてあげて」


 仮室けだいの呼びかけに応じて、二十匹の悪魔が一斉に鬼を見る。表情が読み取れない者が多かったが、血走った眼が殺意を物語っていた。


『テキ、メテシ、ル、クセロコ!』


 悪魔はどこからともなく取り出した武器を握って一斉に飛び掛かってきた。分が悪いと感じて鬼が引くと、悪魔も追いかける。


『サァ、コチラヘ』


 距離が開くと、仮室けだいの前に羊顔の大きな悪魔が飛んできて首を垂れた。


「運んで」


 襲撃者を相手にするつもりはない仮室けだいは、逃走を計った。


読んで頂き有難うございました。

次回は7/30更新です

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