表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
閑話 討伐後から翌日までの三つのエピソード
334/364

第328話 内緒でする話

 雨下野うかのは小さく頷く。同意というよりは祠堂しどうの真意を量っているような動作であった。


「最近の息吹戸いぶきどさんの様子に違和感を覚えます。もちろん、こちらにとっては大変都合が良く心身穏やかに過ごせるため歓迎はしております。それについてはどう思われますか?」


 祠堂しどうは眉間にしわを寄せたまま、首を傾けた。人の往来を目で追いながら「ここでは気が乗らない」と呟く。


「気が乗らない……つまり私に何か報告があるんですね」


 と雨下野うかのはカマをかけてみると、


「っ!」


 祠堂しどうの顔が真っ赤に染まった。


 戸惑いながらも喜んでいる雰囲気が伝わり、これは良い出来事があったと雨下野うかのは察した。

 ネタとして観察しているので彼の心境の変化は手に取るようにわかる。


 雨下野うかのは眉をひそめて、祠堂しどうの肩をツンツンと指で押した。


「急にご機嫌になりましたね。息吹戸いぶきどさんについて気になることがありつつも、喜びいっぱいでそれどころじゃないといった具合でしょうか?」


 祠堂しどうは手で指を払いながら「なんでわかるんだよ!」と低く呻いた。


 雨下野うかのは肩をすくめると、


「あちらの方に人がいません。小さな防音術も張りますのでそこでお聞きする。どうでしょうか?」


 一つ向こうに建つビルを指し示す。


 祠堂しどうは無言で立ち上がると、指し示された方角に足早に向かう。喜びを隠すためにムッとした顔になっている。


 雨下野うかのはこっそりと笑いながら、後ろをついて歩いた。







 ビルの裏に回り路地を歩く。

 人が居ない事を確認した二人はスペースをあけて壁に寄りかかった。


 雨下野うかのが「お聞きしましょう」と見上げる。

 催促するような眼差しを避けるように祠堂しどうは斜め上を向きながら口元を手で隠し、間を開けてから小声で呟いた。


「賭けに勝った」


 雨下野うかのは驚きのあまり「うそ?」と本音を口にしてから、小さく拍手する。


「お見事です! 『クソガキ』から『男性』に昇格おめでとう御座います。それで告白は?」


 祠堂しどうの顔が曇ったので、雨下野うかのは期待外れとばかりにため息をついた。


「土壇場で臆病風に吹かれましたか」


「ち、ちげーよ! その、言おうと思ったけど、腰に服巻いただけで裸だったし、章都に邪魔されたから」


「そういえば医療隊員がそんなこと言ってましたね。転化の影響で服が破けて裸だったと。そうですか全裸で告白をしようと……馬鹿ですか? 変態で下心満載と思われますよ。止めてくれた章都しょうとさんに感謝しなさい」


 変態と言われて、祠堂しどうの心に矢が刺さった。ダメージを受けその場にしゃがみ込む。


「賭けに勝ったのなら告白はいつでもできます。気を落とさないでください」


 雨下野うかのが一応フォローを入れると、祠堂しどうは遠い目をしながら頭を掻いた。


「気落ちするさ……ファウストの現身うつしみは記憶喪失だから賭けのこと覚えていない」


 雨下野うかのはぴたりと動きを止めた。


「今、なんと……記憶障害を起こしている?」


 祠堂しどうはのろのろと立ち上がると、困ったように眉を下げた。


「ほら。ここ一か月……ゲンムトウビル降臨事件からあいつの態度が変化しただろ?」


「ええ。戻ってきたときに祠堂しどうさんが怯えてましたものね。『優しくされて怖い、明日暗殺されるかもしれない』と恐れおののいていましたからよく覚えてます」


「忘れろ、いますぐ忘れろ!」


「気が向けば忘れることにします」


「それ絶対に忘れる気がないだろう!? まぁ、話を戻すけど、違和感はあったから俺ができる範囲で、異常がないか、呪いはないか、傀儡とか幻覚とかかかってないかとか。見かけるたびに調べていたが、なんの痕跡もなかった」


「私も何度もやりましたが、異常ありませんでしたね」


 息吹戸いぶきどの態度には疑問しかなかったため、雨下野うかのも会うたびに自分ができる識別判定をしていた。特に何もヒットしないためますます疑惑が深まるばかりであるが。


「それで、業を煮やしてぶっ飛ばされる覚悟で本人に直接聞いたんだ。そしたら五年分の記憶がないと言ったんだ……初めましてと言われてしまったんだ」


 祠堂しどうの顔から色のが消えて、燃え尽きたような表情になった。


「そんな……」


 雨下野うかのの顔色が悪くなった。

 記憶が戻ったら薄いBL本について小言がとんでくるかもしれない。回避するには口外しない旨をかいた契約書にサインをしてもらうしかないと算段する。


 祠堂しどう雨下野うかのが動揺していると気づいて驚いた。

 彼女はきっと悪い方向に考えていると想像して、落ち着かせるべきか迷い、少しだけ手を右往左往させた。


「まぁ、お前の言いたいことは分かる。そんな状況とはいえ能力の変化はありえないよな。だが、過去に何度かこのレベルの記憶喪失はやってたし、あいつ変わってるから色々あるんだろうよ」


 雨下野うかのは視線を左右に揺らしながら、曖昧に返事をする。


「え、あ、そうですね。はい。能力の変化も気になりますが……それよりも重大なことが……」


「ほかに何かあるのか?」


 祠堂しどうが不安そうに聞き返すと、雨下野うかのはハッと我に返る。

 

 BL本の主人公モデルに気づかれてはいけない内容である。話を誤魔化すべく思考をフル回転させてから、スンとした表情になった。


「はい。記憶がなくて賭けの内容が曖昧になっていると知ったため祠堂しどうさんが踏み出せないでいる。これは重大な問題かと」


「そこ!?」


 話しが飛んでしまい祠堂しどうが目を白黒させる。


「そこ関係ないだろ!」


 雨下野うかのは可哀そうな人を見るような目になった。


「関係あります。チャンスを利かしきれなくて残念に思います」


「……なんで雨下野うかのが残念がるんだ?」


 祠堂しどうが訝し気に聞いてくるので、雨下野うかのは憂いを帯びた顔になりそっと胸に手をあてた。


「あれは四年前の五体同時禍神(まがかみ)討伐で上梨卯槌の狛犬(カミナシ)本部討伐一課と共闘した時です」


「ちょ!?」


 祠堂しどうが驚きで目を見開くが、雨下野うかのは無視して当時の出来事を語り始める。


読んで頂き有難うございました。

次回は7/16更新です

物語が好みでしたら応援お願いします。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ