表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
閑話 討伐後から翌日までの三つのエピソード
332/362

第326話 治療に連行される

小話1 賭けを語る祠堂と雨下野

 禍神まがかみ討伐を行うべく派遣されたアメミット禍神まがかみ討伐本隊は、五十人でひと班の計六班である。

 四方から結界内に侵入して中心を目指したが、穢の影響を受けないよう境界に穴を開けつつ進んだため、滝登りドームに到着した頃には禍神まがかみが虫の息となっていた。

 祠堂しどうを依り代とした第二の禍神まがかみ降臨は、転化解除術成功により阻止することができた。


 そのため本隊は、討伐任務から実況見分に内容を変え、述べ三百人以上が割り振られた内容に沿って調査を行うこととなった。損傷範囲は半径三.六キロ。現場検証は数日かかると推測される。


 注意すべきは従僕じゅうぼくである。一体残らず捕獲して治療もしくは処分しなければならない。アレらは環境に適応してしまうと天路民あまじのたみを攫い、子を残そうと躍起になってしまうからだ。

 目撃の多さから従僕じゅうぼくは百を超えていると判断。全て捕獲するまで結界を維持することが決定した。





 禍神まがかみが降臨した現場及び、侵略で汚染された一帯を奔走している隊員たちの中を突っ切って、祠堂しどう火模露ひもろ班目まだらめ、他隊員七名と合流した。


 火模露ひもろ班目まだらめは傍にいた隊員に仕事を押し付けてから、こちらに近づいてきた祠堂の元へ全走力で駆け寄った。


「どこ行ってた!」

「どこ行ってたのよ?」


 開口一番に怒鳴ると、


「行くぞ」

「行くわよ」


 即座に祠堂しどうの両腕を掴んで連行した。


「え?」


 疲労困憊の祠堂はなす術なく引きずられてしまう。そのまま一番近い拠点であるバス停前の商業ビルにやってきた。入り口玄関は煌々と明かりがついており、怪我人がひっきりなしに建物を出入りしている。


「みこちゃんの治療を……」


 玄関から中に入り、斑目が近くの女性医療隊員に声をかけた途端、数人の若い女性医療隊員が満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。狙いは言わずもがな、祠堂しどうである。


祠堂しどうさん怪我していますね! こちらへ!」

「お疲れ様ですー! こっちで手当てしましょ!」

「ご安心ください、私が手当てしますー!」


 女性に囲まれそうになると、祠堂しどうはブンブンと顔を横に振って拒否した。ほぼ全裸ということもあり羞恥心が生まれる。逃げたかったが火模露ひもろと班目にしっかりホールドされてしまい動くに動けない。


「くるな! 男性医療隊員を呼んできてくれ!」


「照れない照れない。みんな男の全裸なんて経験あるわよ。ねぇ」


 治療で見慣れているという意味であるが、班目まだらめの言葉足らずで変な解釈をされてしまい、医療隊員の頬に朱が広がった。


「ほら、服を着てしっかり休めよ」


 火模露ひもろが腕を離して、持っていた服を祠堂しどうに押し付けるように渡す。


「ま、まてまて! まって! 急いで服を着るので待ってください! 俺も被害状況の調査と従僕確保を行います! だから待ってくださいっ」


 祠堂しどうはすかさず火模露ひもろの腕を掴んだ。

 縋る様な、必死な形相をみた火模露ひもろは鼻で笑う。


「お前はここで休めって」


「ここで休みませんっ!」


「功労者が何言ってんだ? 後の事は俺たちが全部引き受けるから」


「絶対に嫌だ! 一緒に行きます!」


 服を持ったまま走って逃げそうな空気を感じて、火模露ひもろが、ぽん、と祠堂しどうの両肩に手を置く。至極真面目な表情になると重々しく口を開いた。


「落ち着け祠堂しどう。周りをよーくみてみろ」


 真剣な眼差しに応えるように、祠堂しどうは真面目に周囲を見渡した。手前は医療隊員たちが笑顔で横一列に並んでいる。後ろの方では治療の順番を待っている隊員たちが地べたに座っていて遠巻きに祠堂しどうたちを眺めている。新人は尊敬のまなざし、熟練者は生暖かい視線であった。


「……見ましたが?」


 祠堂しどうが不思議そうに聞き返すと、火模露ひもろがニチャ……と卑下た笑みになった。


「イロドリミドリなんだから良いじゃないか。みんなお前の世話をしたいって顔に書いてるある。ご褒美だと思ってしっかり手当してもらえ。少々のお触りくらい大目にみてもらえるさ。はははは。羨ましいなぁ。ははははは」


 あからさまに女性に囲まれてデレデレしろと言ってきたので、祠堂しどうは目を丸くして絶句した。


「だっ!」


 だからそれが嫌なんだと反論する前に、


「はいみこちゃんいってら!」


 班目まだらめ祠堂しどうを押して二人の医療隊員にダイブさせた。見事キャッチした女性たちは「はぁい」「お任せください」と爽やかに返事をしながら、祠堂しどうの肩をガッチリとホールドする。


 医療隊員だからと甘く見てはいけない。絡め技と絞め技は大得意である。


「ちょ!?」


 祠堂しどうが泡を食ったように慌てるが、火模露ひもろ斑目まだらめは爽やか笑顔で手を振った。


「じゃあ。しっかり英気養ってこいよ」


「みこちゃんのことお願いね」


 医療隊員たちは「はぁい」と猫撫で声をあげながら、数人で強制的に臨時医療室へ連れていった。罪人のように引きずられる最中、祠堂しどうが振り返って「後で覚えてろー!」と叫んで、通路の奥へ消えていく。


「……いや。治療しないといけないだろフツーに」


 火模露ひもろが汗を浮かべながらツッコミするが本人に聞こえていない。聞こえたところで拒否する姿が目に浮かんで苦笑した。


「可愛い女の子ばっかり寄って来たじゃないか。男の夢だぞ。何が不満なんだか」


「うーん。男の夢はそれぞれだから。みこちゃんは何分ジッとしてくれるのやら。せめて治療が終わったから動いてほしいものだわ。不安でしかない」


 班目まだらめは冷や汗をかきながら、張り付けたような笑顔になった。


「ねぇ火模露ひもろサン。めーちゃんを先に迎えにいっていい? みこちゃんはあの状況を最後まで我慢できないかもだし。腹いせで私達に嫌がらせするかも」


「……嫌がらせか。事務を全部押し付けそうだな仕返しとばかりに」


 火模露ひもろが露骨に嫌そうな顔をする。

 辜忌つみき対策第一課では、借りを作ると事務作業を肩代わりすることが暗黙の了解になっていた。今回の禍神まがかみ討伐の業務はきっと半分以上こちらで引き受けることになるが、仕返しとばかりに全て流すかもしれない。


「わかった。班目まだらめは雨下野さんを探していいぞ」


「やったー! 少しサボれるー!」


 万歳と班目まだらめが喜んだので、


「よし俺が雨下野さんを見つけるからお前が従僕やってくれ」


 と火模露ひもろが交代を提案した。


「行ってきまーす! あとはよろしくねー!」


 そんな提案を飲むはずもなく、班目まだらめはさっさと出ていった。

 火模露ひもろは逆を言えばよかったと後悔しながらトボトボと建物から出る。そして後ろを振り返り、医療隊員がバタバタ動いているのを見ながら、「ほんと贅沢だなぁアイツ」と羨ましそうにぼやいた。


読んで頂き有難うございました。

次回は7/9更新です

物語が好みでしたら応援お願いします。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ