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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章九句 授け与えるカタストロフィー・エピローグ
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第318話 滝登りドーム戦を振り返り

 滝登りドーム禍神まがかみ召喚事件から二日が経過した。


 この件はアメミット主体で捜査するため、上梨卯槌の狛犬(カミナシ)が得た情報は全て、あちら側と共有されることになる。


 ――と、彫石ちょうこくから開口一番にそう説明された息吹戸いぶきどは、「はあ」と間の抜けた相槌をした。


 ドアに入って真っ先に説明されてしまい、立ったまま聞く羽目になったうえ、深刻な表情のわりに話が短く、尚且つそれほど重要でもなかったため、肩透かしのような気分であった。


「……わざわざ、有難うございます」


 待ち構えていたという部分だけ、気持ちが一切籠っていない感謝の言葉を述べる。


「今日は昼過ぎまでの仕事と聞きました。なのでそれまでに、滝登りドーム禍神まがかみ召喚事件についての報告書作成をお願いします。提出次第、帰宅できると念頭に置いてください」


 アメミットにまとめて送るから途中で帰るな、とやんわり念を押されたので、息吹戸いぶきどはゆっくりと頷いた。先ほどの前置きがここで回収されたようだ。


 彫石ちょうこくが踵を返したので、息吹戸いぶきども移動する。


 オフィスは彼雁ひがん端鯨たんげい玉谷たまやを除く全員が待機していた。それぞれ担当している事件の事務処理を行っている。


 息吹戸いぶきども作業に混ざるべく、デスクから椅子を引っ張り出して座り、背もたれに背中を預けて、「疲れたー」と息を吐いた。





 滝登りドームから帰宅後、一木ひとつきに依頼をしたあとに加無木かむきに急かされるように医務室に向かった。


 そこで何故か、息吹戸いぶきどだけ、穢れ蓄積量の検査を受けることが決定されており、入った瞬間に検査開始となった。


 断って帰ろとしたタイミングで加無木から玉谷たまやの手紙を渡された。

 そこには検査を受けるよう説得の文面が重々に書かれており、そのうえ特別ボーナスの支給額も記載されていた。


 文面から玉谷たまやの必死さが伝わってしまい、頭痛のする思いであったが、息吹戸いぶきどは渋々受けることにした。


 内容は肉体の損傷、精神の損傷、穢れの蓄積量、神通力の残量などなど、人間ドックさながらの濃さであった。


 検査だけでひどく疲弊してきた息吹戸いぶきどだが、検査の合間に玉谷たまやがやってきて聞き取り調査を平行できたのが幸いであった。時折、席をあけながらの報告であったが、質問応答だけで優に一時間を越える。


 時間を無駄なく利用できたのは満足していたが、一つだけ不満があった。

 検査中は自宅に帰ることを許されなかった。そのまま医療室で寝泊まりする羽目になってしまい、あれよあれよと一日半が過ぎた。


 やっとオフィスに戻って来たと思ったら今度は書類制作である。






(うんざり……)


 内心毒づくものの、完成しなければ帰れないと言われた手前、這いつくばってでも終わらすしかない。


 気力を振り絞ってやる気を捻出する。

 パソコンを開き画面を見てメールチェック。フォルダを開いて、滝登りドーム事件討伐報告書作成をひらいた。本来なら空白の氏名欄に、『息吹戸いぶきど瑠璃』としっかり書かかれていて、うわぁ、と嫌そうな声を上げる。


 ざっと目を通すだけでも、記入項目が普段より格段に多い。なにより書記が半数以上を占めている。文章を考えるだけで時間があっという間に溶けていくため、メモ帳を出して行動を箇条書きにしつつ、時系列にまとめ始めた。


(ライブ会場に現れた禍神まがかみは今までに報告例がない異界の神だった……なんて知らないし。パパから色々聞いたけど、がいさいって呼ぶのがマズかったなんて言われても……。だって知っているから言っちゃうじゃない)


 息吹戸いぶきどがアレを『がいさい』と言っていた。


 ――というのは現場にいた人間は知っているので、素知らぬふりもできない。


 あれから各組織及び部署が再確認したところ、やはりがいさいは侵略した事のない禍神であった。

 それを知らず、迂闊にもがいさいの名を出した息吹戸いぶきどに対して、玉谷たまやが重点的に聞き取り調査をしたのは言うまでもない。


 否、彼は是が非でもそうしなければならなかった。


 菩総日神ぼそうにちしんに確認したところ、がいさい、で正しいと返事がきた。


 つまり『認識のない禍神まがかみの名を正しく口にした』理由は何故かと、各組織の侵略対策関係部署から質疑応答の催促がくる可能性がある。


 玉谷たまやが代弁することは問題ないが、それには詳細な情報が必要となってくる。二人の認識のすり合わせが、聞き取り調査で最も時間がかかった部分であった。


(瑠璃は上層部から呼びだれてもサボることが多いから、パパが代わりに説明することは不自然ではないって言われたけど、助かるけど、面倒なこと押し付けちゃった。それよりもサボる瑠璃の心臓はどうなってるんだか)


 上層部の命令に背を向けることができる。

 罰を受けても苛酷な任務に就いても、懲りる気配がないばかりか、期待以上の成果をだして相手の鼻っ面を折る。

 この辺りも『暴君』と呼ばれる一端であることを息吹戸いぶきどは知らない。


(今後はすぐ言わず、津賀留つがるちゃんにまず確認しろって……あの時は津賀留つがるいなかったし! あれ絶対に怒ってたよねぇ)


 会議室でやりとりした玉谷たまやの顔を思い浮かべ、息吹戸いぶきどは、ほう、と感嘆の息をはく。


(パパの顔は怖かったけど、怖くても絶頂カッコいいとか反則だよ……説教がご褒美の時間になった。ほんと至福だった。じっくり顔が拝見できるなんて……はぁ……推しは何をしても心の栄養になる。殺意マシマシな顔も見てみたいなぁ)


 悦びを噛みしめて、作成中の退屈を紛らわせた。

 高速で文章を打ち込みながら、ふと、意識が別のことを考える。


(あとは神鏡について聞かれたっけ。あれもバレたらマズイって言われてしまったんだよなぁ……いやだって、ちまちま面倒だから一気に出来るならやりたいのが心情だよねぇ)


読んで頂き有難うございました。

次回は6/11更新です

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