第309話 事件に携わる組織予想
「よぉし、礒報と合流してさっさと終わらせよう。数日で終わるといいなぁ!」
章都が急激な話題転換したので、
「そうですね! 急いで民を助けないといけませんね!」
津賀留がそれに全力で乗っかった。
「数日……?」
息吹戸は転化解除に日数がかかるのかと疑問符を浮かべる。
「数日かかることなの?」
「あいつら逃げ回ったり隠れたりするし数もまだわかんないからさー。現住所に住んでいる名簿も確認して死亡者の名前を照らし合わせて行方不明を探すって感じになるけど、でもそれはアメミットがやることだ! アンタは今夜だけでいい! それ以上は手を借りないから安心してくれ! だから今夜だけ頼むから!」
と章都が慌てて弾丸トークを放った。
顔こそ笑っていたが、血走った目にほんのりと苛立ちが込められている。
(……章都さんの目がマジだ)
余裕がないのが見て取れる。断ったらストリートファイトのゴングが鳴りそうだ。
余計な労力を使いたくないので、息吹戸は大人しく頷いた。
「ふぅ、よかった」
額に浮かんだ冷や汗を手のひらで拭う章都の横から、
「いえ。アメミットの結界がありますので従僕は出られません。結界を継続したまま人海戦術に移行すると思います。結界内地域及び、建物はアメミット及びサトゥルヌスが担当するはずです。なので私達は、四の境界にいる従僕の捕獲と転化解除になると思います」
津賀留が補足を加えると、「うんうん、そうなると思うぜ」と、章都が適当な相槌を打った。
(サトゥルヌスって……ローマ神話に登場する農耕神だったっけ)
息吹戸は新しい機関の名前を聞いて、神の名を思い出す。
ローマ神話に登場するサトゥルヌスは、自分の子に殺されるという予言に恐れを抱き五人の子を次々に呑み込んでいったという伝承がある。
自己の破滅に対する恐怖から狂気に取り憑かれ、自分の子を頭からかじり、食い殺す凶行を及んだ。
英語ではサターン。土星の神であり、ギリシア神話のクロノスと同一視されている。
「何を担当するの?」
と息吹戸が聞き返す。
「侵略により破壊された土地や建物などの復旧に携わる機関です。同時に従僕を保護してアメミットに引き渡してくれます。通称はサートです」
津賀留が淡々と一般常識を説明する。
一か月ほどこの状態なので流石に慣れてしまった。
(農耕神だから復興の意味合いで使われてるのね)
息吹戸が納得するその横で、章都が「そうそう、サトーって言うよな。サトーさん」と妙な省略をしていた。
「ほかにどんな組織が駆け付けてきそう?」
息吹戸が好奇心を込めると、津賀留はちょっと考えから指で数を数える。
「怪我人が多いため、医療組織のヤクシャが手配されるはずです。あと、死骸が大きいのでクリーブが禍神死骸解体及び従僕死骸の回収処分をするはずで。あとは、人に戻れない方の保護施設である藤見教も来るはずです。後は……もしかしたら屍処の痕跡を辿るためにネメアーが動くかもしれません」
(なるほど。藤見教以外は全部神様の名前だ)
息吹戸は一つずつ思い出す。
ヤクシャは薬叉で八部衆の一人。古代インドで阿修羅と同等の夜叉。災厄をもたらす一方で安産や病気の治療をもたらす神様だ。
アッシリアの有翼人面獣身の守護者クリーブ。
ケルビムとも呼ばれており智天使だ。人の顔・牛の顔・獅子の顔・鷲の顔がある翼は四つから六つで体はない。
エデンの園の東に回転する炎の剣とともにケルビムを置いて、罪人を命の木に近づけないようにした。
ネメアーはネメアーの獅子であり、この毛皮に包まれた者は不死を授かるという伝説がある。
(誰が名前考えているんだろう。菩総日神様の出身って地球なんだろうか? 絶対に関わりがあるから聞いてみたい。ここって日本をベースとしたラノベ異世界だよなぁ。面白すぎ)
息吹戸が考え込んでいると、津賀留が困惑したように見上げた。
「私、何か余計な事言いましたか?」
「ううん。そんな機関もあるんだなって思っただけ」
「そう、ですね」
津賀留がなんとも言えない表情を浮かべるその後ろで、章都が目を見開いて驚きを露わにした。
忘却術の強さに恐怖を抱き、彼女の身に何が起こったのかを想像する。最悪なことしか浮かばないうえ、何もしてあげることはできない。玉谷の指示に従うほかないと深いため息を吐いた。
「よし、話が大分逸れたけど礒報のとこ行こうぜ。寂しがってるはずだからな!」
気を取り直して、章都が津賀留の肩を叩く。
「ご案内します!」
津賀留が先導しながら歩き、章都がそれについて行く。
だが息吹戸はその場から動かず思案を巡らせていた。
(一体ずつの解除は面倒だ。範囲指定で一度に沢山解除はできないかなぁ? ファンタジーだと空に魔法陣浮かべて広範囲に攻撃とか回復とかあるから、こっちでもできるはずだよね。だってヒュドラの送還術も空に魔法陣を出現させてやったことだし。まぁあれは単体だけど、大きさ的には十分できるでしょう? やろうと思えばできると考えるけど……問題はエネルギー。私だけだと発動で倒れる。どこかでエネルギー補充が出来れば)
ふと、魔法陣に取り込まれていた伊奈美が思い浮かぶ。
(伊奈美様の供給のお陰で魔法陣はほぼ無限に稼働していた。あんな感じでどっかから常に供給できれば……供給……)
息吹戸はジッと津賀留の背中を見つめた。凝視しているため睨んでいるように鋭くなる。
背中にビシビシと刺さり、津賀留が生唾をごくりと飲んだ。目をギュッと閉じて覚悟と決めると、勢いよく振り返る。
「あの、なにか気になることがありますか……?」
声を震わせて聞き返すも、息吹戸は微動だにしない。視線だけがますます鋭くなっていくので、恐ろしくて津賀留の目が潤んできた。
「津賀留ちゃんの底力……って、応援すると対象者の神通力消費量が軽減するって話だったよね?」
「へ!? 底力!? え、は、はい!」
説教かと覚悟していた津賀留がひっくり返った声を上げる。
息吹戸が期待を込めて「よし」と頷くと、津賀留に近づいて、スッと手を差し伸べた。
「やってみたいことがあるから手伝って。上手くいけば、一度に沢山の人を戻せるかもしれない」
読んで頂き有難うございました。
次回は5/11更新です
物語が好みでしたら応援お願いします。励みになります。




