表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第一章 馴染むところから始めます
30/360

第30話 貴方と私の関係

「ええと。誰だっけ? …………あ! 祠堂しどうさんって人」


(ずっとヤンキーお兄さんと呼んでいたから、危うく本名を忘れるところだった。危ない危ない)


 またしても玉谷たまやの目が点になる。


「……ビルの中で祠堂しどうに会ったのか?」


 彼の事だ、出会ったのは偶然ではあるまい。どうやって息吹戸いぶきどの動きを把握したのか。


 第一課も息吹戸いぶきどの足取りを追っていたが、中々掴めなかった。俄かには信じられない話だったが。


「うん。私の事をファウストの現身うつしみって言ってたよ。それが私の本名なの?」


 その名を言う奴は祠堂しどうだけだ。と玉谷たまやは確信した。


「それは二つ名だ。お前は二つ名が沢山在るが、そのうちの一つだ」


「二つ名か。ふふふ、中二病っぽい。かっこいい」


 息吹戸いぶきどはクスクスと楽しそうに笑う。

 名前で呼ばないことに腹を据えかねて静かに怒る、いつもの姿ではない。と、玉谷たまやは少し絶句してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「そうか……彼が協力したのか」


 恥をかかされた事を忘れない、絶対、目に物見せる。と、祠堂しどうが宣言したのはいつだったか。

 それ以降、任務中に勝手に割り込み、突発的に息吹戸いぶきどに勝負を挑むようになった。


 突然乱入してくるので正直迷惑だが、真っ直ぐな性格なので、正面切って正々堂々とやってくる。こそこそと裏で彼女を陥れるような真似はしないはずだ。


 だが、息吹戸いぶきどに協力する性格でもない。協力したという話自体が眉唾物まゆつばものだ。


「俄かには信じられない話だ」


「本当ですよ! 津賀留つがるちゃん助ける為に囮になってくれました! 頼りにさせてもらいました!」


 力説する息吹戸いぶきどを見て、玉谷たまやは頭痛がするように、先ほどよりも深い皺を眉間に寄せながら片手で額を隠した。


 あり得ない彼女の姿に、思考が少し悲鳴をあげた様だった。ついでに胃痛もするので、みぞおちを握りしめる。


 突然弱った玉谷たまやを見て、驚いた息吹戸いぶきどは慌てながら腰を浮かせる。


「だ、大丈夫ですか部長さん!? 顔色悪いですよ?」


 誰のせいだと言いたいが、今回は息吹戸いぶきどに落ち度はない。

 彼女の見慣れない態度に、玉谷たまやが勝手に頭痛と胃痛を感じているだけだ。


 「なんでもない」


 ため息交じりに答えると、玉谷たまや息吹戸いぶきどをじっと観察する。

 

 外見は彼の知る部下で間違いないが、内面は別人のようにしか思えない。彼女が演技をしていると仮定しても、その理由が皆無だ。

 ましてや純粋で世間知らずな雰囲気を出すのは、彼女の生い立ちを考えればまず無理である。


 何をどうすれば、あれだけ排他的な性格がこうも温和に変化するのか。


 話すだけで疲労困憊ひろうこんぱいに陥った玉谷たまやは、ソファーの背に体を預けた。


「嘘、ではないな」


「嘘ではないですねー。逆に嘘だったら楽ですわ~。こうやって部長さんに本当の事を言わずに、頃合いをみて一人で生きる選択肢もあった、かもだし」


「な……!」


 玉谷たまやがショックを受けたように目を見開いたので、息吹戸いぶきどは慌てて否定をする。


「あ。いや。今のは冗談というか、噓です。あってもやらないです。記憶無いので絶対にやらないです。頼らせてくださいお願いします」


 テーブルに両手をついて謝ると、玉谷たまやの胃痛が酷くなった。思考を空っぽにさせながら彼女を眺めて、「そういえば」と言葉を続けた。


「儂の事は最初から部長と呼んでいたが、それは何故だ?」


 息吹戸いぶきどは体を起こして背筋を伸ばす。

 

「あー、それも津賀留つがるちゃんの時と同じです。貴方をみた瞬間、頭の中で『父親のような部長』って浮かんだんです」


 そこまで言って、口を紡ぐ。


(ついでに、関係性を聞いておこう。今聞かないと後悔しそうだし)


 ほんのり胸に感じる淡い想いは、返答次第でなかったことに、今なら出来る。


「貴方は私の父親代わりだったんですか? それとも、接し方が父親みたいだったんですか? それとも、本当は父親?」


「……!」


 玉谷たまやは深くショックを受けたように表情が消えた。そのまま深く体を曲げる。


「それも、覚えていないのか……。そうだよな。質問に答えられないということは、そういうことでもあるか……」


 あまりにも落胆され、息吹戸いぶきどは「す、すいません」とどもりながら謝る。

 玉谷たまやは顔をあげて、悲しそうに微笑みながら首を左右に振った。


「儂はお前の父親ではない。義理の父親だ。まあ、養子に迎えていないので、父親というよりも後見人の立場だが」


「なんと!? 私の義理の父だったのですね!」


(やっぱりーーーー! そんな気がしてたあああ!)


 息吹戸いぶきどは内心絶叫した。

 向ける眼差しが妙に暖かかった答えが出て、嬉しいような、残念なような。

 


(この段階で分かって良かった! 恋の蕾はすぐ消せる!)


 と、すぐさまつぼみを握りつぶした。


(さようなら。恋しなくてよかった。危ない事はしちゃいけない)


 でもちょっとだけ、創作のネタになるかな? と思って脳内の押し入れには突っ込んでおく。


 もう少しここに慣れたらまた創作活動再開しようと心に決めて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ