表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→最初から不利な戦闘
291/362

第285話 こっちに来なくていい

 息吹戸いぶきどは広場の方に体を向ける。町の方からぽつぽつと、従僕じゅうぼくが走ってやってきていた。あれは全て修正可能な者達である。


 次にドーム側を見てみる。コンクリートの亀裂から顔をのぞかせる従僕じゅうぼくは修復不可能な者達だ。


(ふむ。体に入ってくる穢れの蓄積量は一体で約二十体分ってとこか。気持ち悪いけど酷い胃腸炎とでも思えば耐えられる。考え方一つで気分も変わるもんだなぁ)


 息吹戸いぶきどははトントンと鉈の背で肩を叩きながら、どこから手を付けようかと悩んだ。


(蟲毒システムに近づくには、がいさいに近づかなきゃいけないけどまだ無理だな。従僕じゅうぼくを相手して向こうの負担を減らしてあげたいけど、はてさて、どっちを主にするべきか……)


 ドーム側の従僕じゅうぼくはがいさいや隊員を目指している。息吹戸いぶきどは広場側の従僕じゅうぼく達に鉈を向けた。


「あっちにしよう」


『おぎゃあああああ!』


 人面虎のあつゆが一声鳴いて大ジャンプした。走行距離を大幅に短縮して一呼吸で目の前に迫ってくる。


 息吹戸いぶきどははスッと横にずれて、あつゆの胴体を蹴り上げた。

 バキャという音と共に胸郭が粉砕され、あつゆが『ギャ』と鳴いた。


 蹴りの勢いで弾き飛ばされて地面にバウンドすると、白目をむいて気絶した。仮に目覚めたとしても、胸骨や肋骨が粉砕すればまず動くことはできない。


「打撃による骨粉砕か……」


 息吹戸いぶきど野狗子やくしの振り下ろしをかわしながら回り込んで背中に飛び乗り、頸動脈をしっかり押して六秒で失神させる。ぐでっと弛緩する体を地面に転ばせると。


「首を絞めて失神させるかだけど、これはすぐに意識戻るだろうから」


 倒れた野狗子やくしの胸を踏み胸骨と胸肋関節を粉砕した。


「内臓を守る骨を壊せばまず動けないから、これでいこう」


 方向性が決まったので、バス停からこちらに近づく従僕じゅうぼくを順に仕留めていった。


 重い一撃を受けた従僕じゅうぼくがどんどん地面に沈んでいく。最初は数を数えていたが、百を超えた時点でやめた。


 これだけ動けば息が切れるだろうと思いきや、息吹戸いぶきどに肉体疲労はほとんど感じていない。


 従僕じゅうぼくたちは巨体で重量があるのにも関わらず子供用ボールを蹴っているようだ。百を超えて攻撃してもまだまだ体力や気力が有り余っている。

 あまりにもタフネスなため『私』も驚きを隠せない。


(これは体力馬鹿すぎる。アタッカーとタンクとクラウドコントロールを兼ね備え、場合によってはヒーラーだなんてチートすぎる)


 移動しながら倒しているためいつのまにか広場を越えて道路の手前まで来ていた。この辺りもどこを見ても従僕じゅうぼくがいる。


(うーん。まだ途切れないなぁ。この辺はイベント会場やショッピングモールが多いから人も多いよねぇ。それが仇となってる。とはいえ、そろそろ面倒になってきた)


 息吹戸いぶきどは二百体を越えたところで飽きてきた。


(蟲毒を調べたいんだけど、でも、この状況を放置するわけにも……)


 がいさいと戦っていてはこの数をさばき切れないだろう。手一杯の隊員達に余計な負担を与えると一気に敗北する可能性がある。


(任務失敗に繋がると分かることは極力やりたくんだけど、周回ゲームみたいで飽きてきたぁ。何か刺激がほしい)


 突進してきた人面牛ことあつゆの背に乗って、ふわぁ、と欠伸をする。

 背中から振り落とそうとあつゆは闘牛のように跳ねまわったが、息吹戸いぶきどの太ももがガッチリ挟み込んでいるため尻が浮くこともない。


 他の従僕じゅうぼくがあつゆ諸共仕留めようとするので、しばらくロデオ状態を維持しながら、息吹戸いぶきどは拳を振るって従僕じゅうぼくの頭蓋骨を叩き折った。


 襲ってくる従僕じゅうぼくがいなくなったところで、乗っていたあつゆの頭頂部を拳で砕いて失神させた。


 地面に着地した息吹戸いぶきどは腕を組みながら、広場で気絶している二百体の従僕じゅうぼくを眺めた。


「せめて全体の数が解ればなぁ。終わりがあるとやる気がでるんだけど……」


 そう愚痴っていると、大きな影が頭上に降ってきたので見上げた。

 牙だらけの大きな口が落下している。


「わぁお!?」


 口が閉じる寸前、息吹戸いぶきどはバックステップで逃げる。

 カパン! と口を閉じる音と、風の塊が全身に響いた。


(この距離も範囲内だったんだね。どのがいさいだ?)


 耳をみると黄色だ。

 黄色耳がいさいは残念そうに目尻にしわを寄せつつ、首をくいっと上にあげる。


(これはチャンス!)


 息吹戸いぶきどは鉈に神通力を籠めて刃渡りを広げた。


(とりあえず狙うは目!)


 目を狙って一閃すると、黄色耳がいさいは素早く瞼を閉じて顔をそむけた。

 鉈は眉間に当たって、カァン、と弾かれる。

 分厚い毛が盾になり薄皮一枚ほどしか切れていない。


『ぎひゃ!』


 ダメージはほぼ無いように見えたが、黄色耳がいさいが悲鳴を上げて急上昇すると、あっという間に上空に昇っていく。流石に十メートル以上では歯が届かない。


 ドームの方へ逃げていく黄色耳がいさいを見上げながら、チッ、と舌打ちした。


「空飛ぶの反則じゃん。術式もちゃんとみれなかったし……」


 嘆く息吹戸いぶきどの側方から赤耳のがいさいが地面スレスレを飛び迫ってきた。

 大きく口を開けて噛みつこうとするので息吹戸いぶきどはステップしてかわした。

 空を切った口は直線状にいた従僕じゅうぼくを数体ほど口に入れて、満足そうに上昇してドームに戻って行く。


 青耳がいさいが息吹戸いぶきどのすぐ上を旋回した。動きを止めた瞬間、首を伸ばして噛みついてくる。ステップで避けても、何度も何度も、執拗に噛みついてきた。


(実写版のワニワニパニックみたい。ただ……あいつらにとっては私じゃなくてもいいみたいね)


 狙いを外しても地面に倒れている従僕じゅうぼく達が食われている。この場合はどっちが狙いだったのかと首を傾げるほどだ。


 バラバラと血しぶきや肉片が散らばっていくので、折角死なないように倒したのにと息吹戸いぶきどは不快感を露わにした。


「努力を無駄にすんな!」


 鉈の刃渡りを大きくする。

 次に噛みついてきたら、頭に飛び乗り斬ってやるつもりだった。

 上空を飛ぶ青耳がいさいが狙いを定めて滑空してきた。首を伸ばして大きく口を開けたので、息吹戸いぶきどはジャンプするため足に力を入れる。


(もう少し近づけば)


 タイミングを計っていたところへ、息吹戸いぶきどの前に滑り込むように祠堂しどうが走ってきた。


「ちょ、も!」


 思いっきり出鼻をくじかれて息吹戸いぶきどはタイミングを逃した。


「うたう! いけ!」


 祠堂しどうの号令のもと、鳥の和魂にぎみたまががいさいの口の中に突っ込んだ。


 青耳がいさいが反射的に口が閉じると、ごぉん、と頭が大きく揺れる。これは鳥の和魂にぎみたまが空気の刃を放った衝撃であった。


 本来なら従僕じゅうぼくを真っ二つにできるほどの威力であるが、がいさいの体内はとても頑丈なため細かい傷しかつかない。となると、同じ場所に連続攻撃をすることでダメージを与えていくに限る。


『グルァ』


 青耳がいさいの頭がゴンゴンと左右に大きく揺れ、口から赤い血と涎をまき散らした。痛みから逃げるように青耳がいさいが上空へ飛び上がる。


 祠堂しどうは青耳がいさいの様子を確認しつつ、喉ではなく口腔内で集中攻撃の指示を念じた。


 鳥の和魂にぎみたまは翼を模ったガラスのような風の塊をいくつも創り出すと、ピョロロロと甲高く鳴いた。


『ンガァ!?』


 口腔内で旋風が発生したため、青耳がいさいは目を大きく見開いた。

 すぐに口を大きく開けて頭を振るが鳥の和魂にぎみたまを追い出せない。


 ピュロロロロと可愛い鳴き声が上空に木霊すると、青耳がいさいの口の中から赤い竜巻が現れた。


読んで頂き有難うございました。

次回は2/16更新です

物語が好みでしたら応援お願いします。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ