第283話 隊員と合流
祠堂はドーム入り口広場の中へ駆けこむ。
数体の従僕が新たな獲物に気づいて、にやり、と口角を上げた。
「波動」
こちらに視線が集中したと気づいた祠堂は、鳥の和魂を呼び出してかまいたちを放った。風の刃がブーメランのような軌道をえがいて、隊員を避けながら従僕たちを次々切り裂いていく。
『オギャアアアアア!』
『ガルゥアアア!』
頭、首、胴体が割れ、血しぶきを上げながら飛んでいって地面に転がった。
あっという間に従僕が討伐されたのを目の当たりにして、隊員達は一斉に攻撃が来た方向に注目する。
「祠堂課長が到着した!」
祠堂をみて希望に満ちた笑顔になり、ワァ! と歓声が沸き上がった。
「彼がきたら鬼に金棒だ!」
「もうすぐ他の課長たちくるかもしれないぞ!」
「飛行タイプに強い班がくるぞ! きっとくるぞ!」
踏ん張り続ければ応援がやってくる。そして勝つことができるという期待が隊員の心に生まれていく。
「まだまだやれる!」
「もうひと踏ん張りだ!」
「耐えきってみんなで帰る!」
希望が見えれば闘志が戻ってくる。隊員達の攻撃に切れ味が戻ってきた。
「これで全員か!?」
祠堂は一番近くにいる隊員に呼びかけた。
「はい! 居島のお陰で九割到着しています。しかし佐久名と登千が先ほど禍神に……」
隊員が悔しそうにがいさいに捕食された仲間の名を呼んだ。祠堂は冷静に「見ていた」と告げた。
その時、切り刻んだ従僕たちの生命活動が停止して光が浮かび上がる。その数は百を超えていた。予想以上の数に祠堂はゲッと表情を歪める。
「あの光は……うわわわ大変!」
大戸村が祠堂の前に立ち蝶の和魂を出現させ進入禁止結界を張る。
「マズイ、結界!」
枝本が祠堂の斜め前に立ち防御及び光属性反射結界を構築する。
流れ星のような速度でやってきた穢れは大戸村と枝本の結界を軽々とすり抜け、祠堂に降り注いだ。
「っ!」
祠堂の肉体に穢れの量が一気に蓄積される。
四の境界付近とは比べ物にならないほど濃く、今までとは違う異質な感触がした。
ドクン、と心臓が跳ね上がり左腕に痛みが走る。
「って!」
反射的に左腕を押さえる。
もふっとした手触りに驚いて左腕を見ると、破けた服の隙間から白い毛が生えていた。厳密にいえば肘から下、指先まで人狼の腕に変化している。腕の直径は二倍となり十五センチほど長くなっていた。
祠堂は己の腕を掲げて目を丸くする。戦闘に加わる前に転化解除を受けなかったら一発アウトの可能性があった。
「中度転化だ。一気にここまでとは……ハッ!」
咄嗟に息吹戸を確認すると、彼女はドームを眺めていたてこちらには無関心のようだ。賭けの継続にホッと胸を撫で下ろすが、喜べない気持ちも同時に沸き起こる。
「ひっ! 祠堂課長の腕が!」
「転化起こしている!」
祠堂の転化を目の当たりにした隊員たちが事態に驚いてパニックになった。先ほどの従僕ですら手に余るのに、それを倒せる彼が敵になれば全滅確定だ。
「どうしよう。解除できるやついない」
「マズイマズイマズイ。これはマズイ」
オロオロ右往左往する彼らも中度転化している身である。
人のことより自分の心配をしろと、祠堂は舌打ちをしてから隊員たちに呼びかけた。
「落ち着け! まだ大丈夫だから気を引き締めろ!」
喝を聞いた隊員達はピッと背筋を伸ばし「はい!」と声を揃え、すぐに冷静を取り戻し整列する。
「まだドームの中だな」
祠堂はがいさいが出てきてない事を確認してから、横に並んだ隊員の顔を見て「あれ?」と眉をひそめる。
「っていうか、喜熊はどこだ! いないのかよ!」
喜熊は辜忌対策第二課の課長である。ハイエナのように狡猾に動く彼が転化影響により離脱したとは考えられない。逃げたか、と祠堂から大きな舌打ちが飛んだ。
一番左に並んだ隊員が恐る恐る挙手をする。
「喜熊課長は三の境界内で調べものをするそうで……きておりません」
「蟲毒と分かって逃げやがったな! 部下だけに前線任せやがってあの腑抜けが!」
祠堂は憤慨して地団太を踏んだ。
枝本は荒ぶる彼を落ち着かせようと近づいて、どうどう、と手を伸ばす。両手が人狼になっているため爪で傷つけないよう気を付けた。
「落ち着いてください祠堂課長! ここには課長補佐が二人います! いますから!」
「お前らが甘いから喜熊がちゃらんぽらんなんだよ!」
祠堂は枝本の肩を掴んで引き寄せて怒鳴った。十も年上の男性だとしても遠慮はしない。
「もっとしっかり教育しろ! こんな事態に逃がすんじゃない!」
「返す言葉もございませんー」
と震える声で枝本が謝る。
「枝本さんを責めないでくださいー」
枝本の隣に立っていた大戸村ぎおんがのたのたとやってくる。
「大戸村も甘いから喜熊がつけあがるんだぞ! もっと締め付けろ!」
祠堂は牙を向けながら怒鳴った。十ほど年上の女性だが遠慮の文字はない。
「あとで文句いいに行くからな! 罵倒する言葉しっかり考えてろ!」
「わ、わかりました」
「よし」
パッと離されたので枝本はしょんぼりしながら深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。毎回毎回……喜熊課長が空気読まなくて……」
「本当にごめんなさい」
大戸村もパッと頭を下げた。
それを見て祠堂は攻めるべき相手を間違えたと何とも言えない表情になる。
「いや。言い過ぎた。悪いのは全部喜熊だ」
二人とも性格が穏やかすぎるため喜熊にいいように扱われているのは知っている。彼ら当たってしまった後悔を、そのまま喜熊への怒りに加算した。
「全員。生き残って喜熊に文句を言う! わかったな!」
祠堂の言葉に隊員達が困惑した。
「え……」
「いや……どうかな」
「う、うーん」
うやむやにしたい空気が流れてきたので、祠堂が怒りマークを付けながら怒鳴った。
「わかったな!」
「はい!」
勢いに負けて隊員達の声が揃ったので、祠堂は満足して頷く。
「ではこれより俺が指揮する。全員、接近は捨てて遠距離攻撃に切り替えろ」
読んで頂き有難うございました。
次回は2/9更新です
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