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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章六句 授け与えるカタストロフィー・蟲毒フィールド
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第262話 歩きリアンウォッチ

 津賀留つがるが鼻を大きくすすりながら、はい、と返事をした。

 

 ライブ中にリミット乙姫三名から禍神まがかみが召喚、観客やスタッフの体内から従僕つじゅうぼくが召喚されたことから始まり、ドーム内で結界を展開して生存者と共に隠れていること。


 礒報さがほうは現在、生存者の位置確認と安全強化を行うため、単身で動いている事。


 章都しょうとは倒れて戦闘不能に陥っている事。同じ症状で倒れる人たちが居る事をかいつまんで述べた。


 息吹戸いぶきどは動いている交差点で青信号を待ちながら、なるほど、と頷く。


 車道誘導をしていたアメミット隊員が彼女の存在に気づき、赤色灯を振ってすぐに進行中の車を一時停止させた。

 早く通るように手で示されて、息吹戸いぶきどは小走りで横断歩道を通過した。


「それじゃあまず質問だね。津賀留つがるちゃんは転化した原因はなんだと思ってる?」


 津賀留つがるは動揺してたじろぐが、現場を見て感じた事を正直に述べた。


『スポットライトに当たったことです。光に……照明機材の中に呪具があったんだと思います』


章都しょうとさんはスポットライトに当たったのかな?」


『私は見ていないのでわかりません』


 章都しょうとはスポットライトに当たっていたが、それを知っているのは礒報さがほうだった。


「ふーむ。なら章都しょうとさんの服をすこしはぐって、体の状態を確認して」


『え!?』


津賀留つがるは驚きの声をあげた。


『ですが、初期転化でこの症状はでません。これは中度から重度の症状のはずです』


「程度は知らないけど、照明浴びて転化した人が続出したんでしょ? 苦しむってことは転化に抵抗していることじゃない? ボディチェックしろって言うのは転化進行を確認しろってこと」


『え!?』


「え。じゃなくて、転化起こしていると予想してるならさっさと対処しなさい。持っていった荷物の中に進行を緩めるようなアイテムないの?」


『わ、わかりました。回復護符は私では判断つきませんが、章都しょうとさんの状態をすぐに調べますので、通話切らないでください』


 津賀留つがるは素直に指示に従った。

 男性たちに見られないように気を付けながら、シャツの隙間を大きくしたらい、手で触ってみたりと、章都しょうとのボディチェックを始めた。


「なるべく早くね」 


 息吹戸いぶきどの前方に二の境界が見えてきた。一の境界と同じようにすりガラス状で、向こう側はうっすらと建物の色があるくらいしかみえない。


 息吹戸いぶきどは期待に胸を膨らませながら、走る速度を上げつつひょいっひょいっとガードレールを飛び越えていく。それは陸上競技、水濠のレースを行っているようにみえた。


 そこへ『確認しました』と津賀留つがるが声を上げる。


『狗の毛っぽい白いものが心臓から腹部に向かって生えています』


 章都しょうとが胸を掻いていたので、まず胸元のシャツを緩めてみた。肌からもさっとした白い狗の毛が生えている。転化の症状だ。


「ほかの人は?」


『少しだけお待ちください』


 津賀留つがるはすぐに四人のボディチェックを行う。胸元を中心に衣服を緩めると、全員の肌に白い狗の毛が生えていた。


『全員、心臓から腹部に向かって狗の毛っぽいものが生えています。他の方々はさておき、章都しょうとさんが拒絶反応でこのような状態になることは……変です。上手く説明できませんが、変だという印象です』


 津賀留つがるの顔が曇る。違和感を覚えるが正しく言い表せない。漠然と、いつもと何かが違うとしか感じ取れなかった。

 曖昧なことを伝えても仕方ないと思い、話題を変えることにした。


礒報さがほうさんは初期転化を解除することができるので、戦闘に復帰することは可能だと思います』


 息吹戸いぶきどは「そう」と淡白な相槌をした。

 二の境界がもうすぐそこにあるため、意識がそちらに向かい始める。


「そう、それじゃぁ」


 通話はここまでにして切ろうと思ったときに、


『あ、礒報さがほうさん! 息吹戸いぶきどさんと通信が繋がって』


 興奮している津賀留つがるの言葉にかぶさるように


礒報さがほうです。お手数おかけします』


 礒報さがほうが噛みつくように話しかけてきた。走って来たのか息が上がっている。

 息吹戸いぶきどは二の境界から五メートルの位置で立ち止まると、一言一句聞き逃さぬよう耳を傾ける。


『用件だけお伝えします。助言有難うございます。章都しょうとさんを含め全員が初期転化を発症しているため解除を試みます』


「まずは章都しょうとさん優先でお願いします」


 息吹戸いぶきどは戦力回復を最優先するよう念を押すと、礒報さがほうは当然と言わんばかりに即答した。


『もちろんです。まずは章都しょうとさんの回復に努めます。しかし専門ではないため時間がかかることをご了承ください』


 禍神まがかみの戦闘までに回復させるつもりだが、間に合わなかったらごめんなさい。と暗に伝える礒報さがほうに、息吹戸いぶきどは口角を上げた。


「気張ってください」


 戦力が増えれば局面が有利になるので絶対に間に合わせろ。という意味を込めた。

 礒報からもちろんと肯定の言葉が返ってくる。


「礒報さん。一点だけ確認させてください。章都しょうとさんはスポットライトに当たりましたか?」


『はい。彼女はスポットライトの光を浴びました。そして私と津賀留つがるさんも浴びました。しかし転化しているのは章都しょうとさんだけです。観客もスタッフも同様です。ライトに当たって転化する者、しない者、そして転化に抵抗するため倒れる者。さきほど確認しましたが、ライトに当たって転化したアメミット隊員は一人です。他の人は倒れることなく任務にあたっています』


「転化した人は、ライブ護衛に配属された人ですか?」


『はい。ライブ警備責任者の彩里弥静あやりやしずかです。数人の隊員が転化した姿を目撃しています』


 息吹戸いぶきどが「え、それ駄目じゃない」と素直な感想を告げると、礒報さがほうが「その通りです」と重々しく頷いた。


「あと、マネージャーの花尾さんも転化しました!」


 と津賀留つがるが付け加える。


「うーん。単純に考えたら、スポットライトだけが原因じゃなくて、別の要因があるってことか。その辺りは禍神まがかみを討伐してからにしよう」


 息吹戸いぶきどは問題を先送りにした。


「では、なるべく早くそっちに」


『お待ちください。もう一つお伝えしたいことがあります』


 と、礒報さがほう息吹戸いぶきどを引き留める。


従僕じゅうぼく天路民あまじのたみと弱った従僕じゅうぼくを食べており、禍神まがかみ従僕じゅうぼくを食べています。もしかしたら従僕じゅうぼく禍神まがかみの餌である可能性があります。このたびの禍神まがかみは成長するタイプのようです』


「なるほど食物連鎖がすでにできていると」


 息吹戸いぶきどは楽しそうに笑みを浮かべた。


『間違って……はいない気がします。なお禍神まがかみの正体は不明です。龍という形ですが記録にない個体です』


「記録にない。それはそれで楽しみ。ではまたあとで」


『道中お気を付けください』

息吹戸いぶきどさん気を付けて下さい!』


 津賀留つがるが礒報の言葉に割り込んだので、息吹戸いぶきどはおかしくて苦笑する。


津賀留つがるちゃんも気を付けてね」


『はい!』


 津賀留つがるの元気な声を聞いてから、息吹戸いぶきどは通信を切った。

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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