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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→ライブ開始で騒動勃発
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第237話 不満タララ

〇ライブ開始で騒動勃発〇

 一階にある会場に続く通路の壁に寄りかかりながら、津賀留つがるはホッと息をついた。


「一枚余分に持ってきてて本当によかった……」


 ズタボロになったジャケットはカバンの中にしまい込んで、黄色い襟付きシャツの上に茶色い厚めのカーデガンを羽織っている。

 寒いかもしれないと一枚余分に持ってきたものが役に立った。


 今度から予備のジャケットがいるかも、と津賀留つがるの呟きに、礒報さがほうが相槌を打つ。


「そうですね。まさかジャケットがダメになるとは思いませんでした」


「う……」


 痛いところをを突かれて思わず首を垂れると、首からかけているスタッフ証が大きく揺れた。ぽんっと胸に戻ってきたので視線を落とし、スタッフ証を手に取る。


 これは事情を知った花尾が部外者と間違われないように用意してくれたものだ。


 嫌な顔一つせず、怪我がなくて良かったと笑顔で渡してくれたことを思い出す。


「でも、これをいただけて助かりました。とても親切な方ですね」


「ええ、仕事をきっちり行うタイプで助かりました。問題は……彩里弥あやりやさんです」


 礒報さがほうが両手を組んだまま苛立つように眉をひそめる。険が強くなったので、津賀留つがるが慌てて彩里弥あやりやのフォローする。


「確かに少し態度が悪かったように見えましたが。でも、元々は私が回避できなかったからでして……」


「それを踏まえてですよ」


 と、礒報さがほうはそう前置きをしてから


津賀留つがるさんは身代わりによって守られ難を逃れましたが、それがなければ重傷を負っていました。さらに言わせてもらえば、これがもしライブ中に起こったとしたら一般人に被害が及ぶのですよ? 彼らは強力な護符なんて持っていません。下手をすれば死にます。それなのにあんな態度で返してくるなんて、どれだけ傲慢か」


 表情こそ眉をひそめているだけだが、礒報さがほうの腕が怒りでプルプルと震えている。

 全身から伸びあがる怒りの波動を感じて、津賀留つがるは慌てふためきながら礒報さがほうの左腕を掴んだ。


「落ち着いてください礒報さがほうさん。彩里弥あやりやさんはあんな態度でしたが、もともとは私が不甲斐ないからです。きっと見直ししてくれるはずです!」


 礒報さがほうが白けたような目を向けて、呆れたように息を吐く。


「そんな器用な真似をするタイプではありませんから、貴女が取り繕わなくてもよろしい。私たちは私たちのやり方をすればいいだけです」


「そ、そんなこと言わずに、信じてみましょうよ」


そういいながらも、津賀留つがるから見た彩里弥あやりやの第一印象もそんなにいいものではなかったので、言葉に少し力がない。


「あれを信じる気にもなりませんね」


礒報さがほうさんたらぁ……」


 礒報さがほうを宥めながら、津賀留つがるは一時間前を思い出す。




 津賀留つがるが怪我を負ったその足で、三人はライブ警備責任者の彩里弥あやりやの元へ向かった。


 警備管理室に居てグミを食べていた彼女に対して、章都しょうとは挨拶もそこそこに『式神のコントロール不能により社員が怪我をした』とクレームをいれた。


 挨拶を疎かにして何を言うのだと、彩里弥あやりやは瞬きを繰り返すが、遅れて入って来た津賀留つがるの状態を見て眉をひそめた。


「式神が彼女を攻撃したなんて信じられないわ。しかも避けられなかったなんて嘘でしょ。もしかしてワザと怪我をしたのかしら? だとしたら最悪ね」


 津賀留つがるに一瞬だけ侮辱するような視線を向けてきたものの、


「彼女は非戦闘員です。上級式神の攻撃を無効化できるほど力はありません」


 最後に部屋に入って来た礒報さがほうが鷲の式神を投げ捨てると、ころころころ、と転がって彩里弥あやりやの足元へ到着した。


 翼と首をへし折られているので、本来ならば効力を失って元の護符に戻るはずだが、礒報さがほうはそのギリギリ手前でやめている。


「彼女の発言が信じられないなら、式神を解いてみて確認してください。明らかに不良品です。まさかとは思いますが、使われる式神のチェックはされていますよね?」


 礒報さがほうが静かな口調で述べると、彩里弥あやりやは足元に転がって来た式神を踏みつぶした。


 靴底からボフっと煙が舞ってから足を上げると、ぼろぼろになった一枚の紙片が落ちている。拾う事もなく、上から見下ろして術式を読むと制御の術式に誤りがあることを発見した。

 一瞬だけ顔色を変えたが、すぐに平静に戻る。


「あら? 制御のまじないが間違ってたのね。新人に任せたからミスが起こったみたい。あとでしっかり叱っておくわ」


 ぐりぐりと靴底で紙をぐちゃぐちゃにしながら、彩里弥あやりやは涼しい顔に口元だけ笑みを浮かべて、礒報さがほう章都しょうとを交互にみた。


「いう事はそれだけか?」


 章都しょうとが威圧的な態度をすると、彩里弥あやりやは笑顔の表情を少し引きつらせて津賀留つがるに顔を向けた。


 気に食わないという雰囲気を感じ取った津賀留つがるが、困ったように視線を泳がせてから彩里弥あやりやに合わせる。


「怪我、ごめんなさいね。こちらの責で任務に支障が出るところでした。再発防止しますので安心してください。それでももし、心配であれば章都しょうとさんか礒報さがほうさんの傍にいるといいでしょう」


 自分で何とかできないなら守ってもらえと、遠回りに注意される。


「そういえば、貴女は今日何をしにやってきたのですか?」


 居る意味なないからさっさと帰れ、と遠回しに言われた。

 侮蔑色が濃い眼差しが刺さるが、いつものことと流して、津賀留つがるは丁寧に頭を下げた。


「ご心配をかけてしまい申し訳ありません。私は礒報さがほうさんのサポートを行います。頑張りますね!」


 力強く見返すと、彩里弥あやりやは冷たい笑みを浮かべた。


「……それなら安心です」


 と、当たり障りのない言葉で締めくくって、すぐに津賀留つがるから視線を外して章都しょうとへ戻した。


 彩里弥あやりやの対応に章都しょうと礒報さがほうから苛立つような気配を感じて、津賀留つがるは内心慌てたが、言い合いになることはなく、本日の警備についての確認をして終わる。


 彩里弥あやりやの掲げた警備について、章都しょうと礒報さがほうが甘い点があると指摘し、警備の見直しと新人のミス防止について助言を行う。


 それを聞いた彩里弥あやりやの口元が歪み、不愉快そうな表情になった。


「考慮します。では、お二人共、任務についてください」


 こちらに構わないで欲しいと不満そうな雰囲気をだして、無理やり終わらせた。


 不満たらたらなまま警備管理室を出ると、今度は花尾を探して挨拶をした。


 その後、章都しょうとと別れた津賀留つがる達は、会場の様子を見回ることにして、今に至る。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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