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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章四句 授け与えるカタストロフィー・滝登りドームの警備
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第228話 恋バナ咲くカー

〇質の悪さが目立つ現場〇

 ライブ当日。夜が明けて間もなくカミナシ本部から章都しょうと礒報さがほう津賀留つがるが出てきた。


 正式な依頼のためミリタリージャケット(白と基調とし朱色の模様があり、立ち襟で前立てはジッパーとボタンがある。胸と腰に二つのポケットがありボタンで留めることができる。ウエストに絞り口があり、絞ってウエストを作っている)を着用している。

 章都しょうとはオリーブグリーンのガーゴパンツを。残りの二人は黒いスラックスを穿いていた。


 三人は本部敷地内にある駐車場に行き、カミナシマークのある白の軽自動車に乗り込む。

 運転席に座ったのは章都しょうとだ。ライトブラウンのふわふわ長い髪をかきあげる。いつもは適当に垂れているが、今日はしっかり整えられ艶々になっている。

 助手席に礒報さがほうが座り、その後部座席に津賀留つがるが座る。彼女達はいつもと同じ出で立ちであった。

 シートベルト着用を確認して。


 「さぁて、仕事だ」

 

 章都しょうとは車を発進させて会場へ向かった。




 すれ違う車の数は昼間に比べて半分以下。渋滞にハマることもなくスムーズに移動しているので予定時間に着くだろう。

 心に余裕が生まれた章都しょうとは「ふんふんふんふーん」と鼻歌を歌いつつ、バックミラーを確認して自分の顔を見てにやっと含み笑いをする。


 推しに会うので二年ぶりに化粧をしたら、思いのほかきれいに塗れた。糸崎からレクチャーを受けていた成果がでていると大満足である。


「化粧イイ感じだ。ユッキーに様々だな」


「ええ。よくお似合いですよ」


 褒める言葉で刺々しい雰囲気を発したのは礒報さがほうだ。愛想笑いを浮かべているが目が全く笑っていない。


「機嫌悪いなー?」


「いいえ」


 と礒報さがほうは否定するが、本音をいえば少し機嫌が悪かった。原因は出発前にオフィスでのやり取りだった。


 化粧によって気品漂う女性に変身した章都しょうとを見た一部の男性陣たちが色めき立った。そこに東護とうごも含まれた。彼はたまたまオフィスにやってきて章都しょうとの姿に目を見張った。章都しょうとも得意げに『似合うだろ』と呼びかけると、東護とうごは『綺麗な女性だな』と頷く。


 二人のやり取りを目撃した礒報さがほうはショックを受けた。

 

 会話は一言で終わり、東護とうご玉谷たまやと会話を始めたのだが、礒報さがほうの目には『東護とうご章都しょうとに関心を持った』ように映った。


 普段はガサツな女性の意外な一面、ここに堕ちる男性もいる。

 女性として着飾った章都しょうとを邪険にするのは筋違いだとわかっているが、どうしても気に食わない。


「うっそつけー。東護とうごさんがワタシの姿を褒めたのが気に入らないんだろー?」


 「うっ」

 と礒報が言葉を濁した。章都しょうとが不機嫌の原因に気づいていると分かり、バツが悪そうに視線を泳がせる。


「図星だな。短くても濃い付き合いだからなー。分かるぜー」


 礒報さがほう東護とうごの挙動で一喜一憂する。いつものことなので章都しょうとは気にもしていなかった。


「本当に今日の章都しょうとさんすっごく綺麗です! 陶器肌ですしアイシャドウの色合いもよく似合っています!」


 化粧の会話に入った途端、津賀留つがるがキラキラした眼差しを章都しょうとへ向けながら称賛の声をあげた。

 熱い視線を感じた章都しょうとは破顔する。


「だよなぁ! ワタシもそー思う! めっちゃ綺麗になってねー?」


「凄く羨ましいです! 私は化粧が下手なので羨ましいです」


 津賀留つがるは化粧下地だけつけている。化粧をすると老けて見られると指摘されて以来、あまりしない。


「ワタシも化粧下手だからさー。これユッキーの力なんだぜ。今度津賀留(つがる)もさ、一緒にユッキーのメイクテク受けようぜ」


「よろしければぜひ!」


 津賀留つがるが期待に胸を膨らませ、祈るようなポーズで前のめりになる。章都しょうとは彼女の食いつきの良さに爆笑した。


「あははは! いいね! 自分磨きは最高だ。いやそれとも、綺麗な自分を魅せたい奴がいるのかな?」


「え!?」


 予想外の切込みに驚いた津賀留つがるは、背中を座席に引っ付けた。特定の誰かに魅力を伝えたいわけではないため、すぐに首を左右に振った。


「ち、違いますよ! 自分の気分を上げたいだけです」


 章都しょうとは「おや?」と不思議そうに首を傾げた。


「そっかー? 意中の相手とかいるんじゃねーの? それか告られてその気になってるとか」


「告っ!? いませんよ!」


 恋バナを振られた津賀留つがるはびっくりして目を丸くする。

 章都しょうとはハンドルを握る右手を離して前髪を撫でた。


「えー? マジかー? 誰にも告られてねーの? 根性なしばかりだな」


「あの……?」


「アンタのカレシの座狙っている奴もちらほらいるってことだ」


 津賀留つがるは顔を赤くしながら「は、初耳です!」と叫ぶ。


「そっかー? ほら、彼雁ひがんとかわかりやすいぞ」


「え、えええええ!?」


 津賀留つがるの動揺が強くなる。彼雁ひがんは頼れる先輩であって、恋愛対象ではない。


「あとはえーと、第二課の天歩田てんぽた満保みつほ。あとは新人の奴……名前なんだったかな? 津賀留つがるが気になってるってさ。アメミットでも人気あるぜー」


「そ、そんなまさか」


 津賀留つがるはすぐに否定するが、正直なところ悪い気はしない。自分に好意を寄せている人がいると思うと嬉しくて胸が高鳴って、ちょっといい気分になった。


「いやいやー。知らぬは本人ばかりってやつだなー。」


 津賀留つがるは赤い顔で固まった。どう切り返せばいいのか迷っていると、肩越しに振り返った礒報さがほうと目があった。彼女が困っていると気づき、礒報さがほうは口出しをする。


章都しょうとさん。確証のない発言はやめてください。津賀留つがるさんを悪戯に動揺させます」


 章都しょうとが残念そうに「ちぇ」と舌打ちをした。楽しかったのにと横目で訴えると、礒報さがほうが睨んできた。


「はいはい。止めますよっと。どのみち津賀留つがるに告るんならボディガードを懐柔する必要があるからなぁ」


「ボディガード?」


 と津賀留つがるが聞き返すと、章都しょうと礒報さがほうは目でアイコンタクトを行う。口を開いたのは礒報さがほうだった。


息吹戸いぶきどさんのことです。貴女に告白するならまず彼女に認められないと無理でしょうね」


「え! 息吹戸いぶきどさんが!?」


 章都しょうとが「そうそう」と続けた。


津賀留つがるにちょっかいだそうとしても、息吹戸いぶきどの一睨みでスゴスゴしっぽを丸めて逃げる男よく見るからなぁ。なんだかんだ言ってあいつは津賀留つがるの保護者やってるようなもんだ。あ、もしかしたらカレシ気取りかもなー」


「本人が聞いたら怒りますよ」


 礒報さがほうが唇を緩ませながら軽く戒めると、章都しょうとが鼻で笑った。


「図星刺されて怒りだすとか?」


「見てみたいですね」


息吹戸いぶきどさんが、私の彼氏……」


 津賀留つがるが呟くと、二人は顔色を変えて後部座席に振り向いた。


「それを本人にいうなよ! どつかれる!」


「だめですよ津賀留つがるさん! それは比喩というか例えですから、息吹戸いぶきどさんに言わないでくださいね!」


章都しょうとさん! 前見て!」


 津賀留つがるが慌てていうと、章都しょうとは「おっといけね」とすぐに正面を向いた。直線道路で、前方に車がいなかったので事故は免れた。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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