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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章三句 授け与えるカタストロフィー・仮室の脅迫状
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第222話 勝ち取った章都

 二人の行動に呆れた章都しょうとは「別物ねぇ」と含んだ言い方をした。

 別に息吹戸いぶきどにモノ言うつもりはなかったが、二人からはそう見えたようだ。ちょっと気になって彼女の様子をチラ見すると、息吹戸いぶきどは気もそぞろな態度で明後日の方向に視線を向けている。


 大丈夫だなと息をついてから、章都しょうと礒報さがほうの顔を人差し指で示した。


礒報しょうと。第一課はターゲットの屍処かばねどころを追いかける業務もあるから、そうガミガミ言わないでほしいぞ」


 礒報さがほうが涼しい表情で「わかっています」と即答したので、章都しょうとが「ほんとかよー」と気が抜けたように変な顔をした。


「ガミガミ言っていません。依頼された管轄を変えた努力を賞賛しているのです」


「賞賛という名の悪口だろー。やだー、こいつやだー、ユッキーみたくどばっと言ってくれた方がいいー」


 彼女たちの何気ない会話を聞き流しながら、息吹戸いぶきどは防衛組織についての考えをまとめていた。元の世界の基準に合わせるべきではないと思うが、理解するためには基準が欲しくなってしまう。


(つまりー、アメミットは警察や自衛隊っぽい立ち位置なのは間違いないとして。カミナシは警備会社っぽい立ち位置かと思ってたんだけど、どちらかといえば特殊機動部隊扱い? 管理する政の部署が違うだけで中身は一緒? うーん。分かんないなぁ。やーめたっと)


 そういうものだとザックリ捉えた方がいいと、降参した。

 気を取り直して、三人の会話に耳を傾ける。


「勿論、ターゲットの追跡に文句を言うつもりはありません」


 と前置きを述べてから、礒報さがほうが本音を口にする。


仮室けだいの計画は『びっくり箱』と言われます。驚かせることを好む性質なのに、わざわざ知らせるなんて理由がわかりません。何も言わなければ警備を強化されることはないのに……」


 普段と違うのではないか。と礒報さがほうが懸念を表すと、章都しょうとはスンとした表情になり肩をすくめた。


「血眼になって罠を探している姿を見て喜んでいるんじゃね? 性格の悪いやつがよくやるやつ。だから会場に罠があるとは思ってないぜワタシは。ライブ始まる前にアメミットの追跡隊が、仮室けだいだという証拠を発見できれば御の字だけどなぁ」


 章都しょうとが頭の上で両手を組み背中をそらしながら、

「とはいえ望み薄。当日に発揮する罠に決まってるぜ。見つかるはずないなー」

 と呑気な声をあげた。


「だから困るんですよ」


 緊張感のない章都しょうとの態度に一抹の不安を感じて、津賀留つがるが疲労困憊のような声をだした。



 彼女たちが屍処けだいに対して抱く、認識や感覚の差は大きい。

 

 防御や補助や回復メインの職員である礒報さがほう津賀留つがるは任務にあたっていくつかの禁止事項がある。


 まず禍神まがかみ屍処かばねどころを追跡してはならない。

 単独でアメミットと協力することはできない。

 どんな簡単な任務でも戦闘が予測されるため、必ず攻撃型職員と共に行動する。

それゆえ戦闘を回避できるような行動をとる傾向がある。


 逆に単騎攻撃型である勝木や東護とうご章都しょうとや糸崎、息吹戸いぶきどの五名は、屍処かばねどころの追跡を許されている。


 それぞれがターゲットにしている屍処かばねどころの情報を得ると、カミナシ第二課やアメミットの作戦に率先して参加できる。

 同じくアメミットにも屍処かばねどころの追跡を許されている隊員は、カミナシの作戦に率先して参加することができた。

 それゆえか、戦闘発生しても犠牲が出ても、致し方ないと割り切っている傾向がある。



 息吹戸いぶきど章都しょうとを見ると、彼女は「おっ?」と物珍しそうに見返した。


「なんだ息吹戸いぶきど。まだ会話に混ざってくれるのか? 有難いな」


津賀留つがるちゃんが関わるなら詳細知りたいと思う。つまり、仮室けだいの真偽さておき現段階で狙いは誰かわからないという事なので。会場内の人間全員を守るために礒報さがほうさんが呼ばれて、彼女の力を最大限に使用させるため津賀留つがるちゃんが呼ばれたと」


「その通り」


「じゃあ、章都しょうとさんは何をするの?」


 途端に章都しょうとがニマニマと緩んだ表情になった。両手を腰に当てて、ふふんと得意げに胸を張る。


「ワタシはリミット乙姫の警護だ! 勝ち取ったぞ!」


 礒報さがほうが何とも言えない表情で眺めて「……ほんと、やりすぎです」と苦々しく呟く。


 本来ならばアメミットの班長クラスが警護する予定だったが、仮室けだいの名がでた瞬間、玉谷たまやに相談することなく、章都しょうとがアメミットに出向き力づくでその役目を奪い取った。

 その結果、護衛予定だった班長が長期入院になってしまい、後から玉谷たまやのフォローが大変だったという。


 そのことを玉谷たまやから秘密裏に聞かされた礒報さがほうは、頭が痛い思いだった。先ほど章都しょうとは『まだマシ』と否定したが、武力で解決しようとする姿勢をみればどっちもどっちである。


「アイドルの警護になったんだー……」


 息吹戸いぶきどは漂う暗い雰囲気を微かに感じてチラッと礒報さがほうを見る。渋い表情になっていた彼女と目が合うとすぐに視線をそらされた。それだけで、なんとなく、事の顛末が予想できる。


 「勝ち取ったってことは……もともとの護衛の人とどっちが強いか勝負して決めたとか?」


 冗談交じりで問いかけると、章都しょうとは「ああ!」と元気に頷いて肯定した。


「その通りだ! ワタシが強いからな! 勝ったぞ! ちょっとやりすぎて病院送りにしちゃたがなー!」

 

 その瞬間、息吹戸いぶきど礒報さがほうの渋い表情の理由を理解した。

 病院送りにするのはやりすぎだと。手数を減らすなと言いたいのだろう。直球で伝えても本人に全く伝わっていないようだが。


 そうか、と息吹戸いぶきどは言葉を濁した。章都しょうとに対して小言をするつもりはない。おそらく瑠璃も同じように動いていたはずだから。深々と頷くだけに留める。


「舞台袖で生歌聞けるんだぜー! やる気が起こる! いやぁもう詩織ちゃん可愛いからホントうれしいなぁ~。話しかけられる機会とかホントないから。知ってるかほら詩織ちゃんの髪は艶々していて光に当てると本当に綺麗なんだよなー。天女だよー。ほかのメンバーも可愛いんだけどワタシは詩織推しなんだよねぇ。はぁー」


 章都しょうとは破顔しながら惚気るような甘い声で語り始める。


 礒報さがほう津賀留つがるは何とも言えない表情になり、息吹戸いぶきどは完全に無視した。


 文章数桁分まで惚気たところで、章都しょうとのリアンウオッチに通信が入る。「失礼」と言いながら三人に背を向けた。「あ?」と小さく声を上げてから、肩越しに顔だけ振り向いて礒報さがほうを呼ぶ。


「ユッキーからメールだ。礒報に伝言ってさ」


 はあ? と礒報さがほうが生返事を返す。チラッと彼女もリアンウオッチを見たが、何も着信していない。あえて章都しょうとに言わせたいらしいと判断する。


「なんと言っていますか?」


「『この馬鹿、単細胞だから、礒報さがほうさんがしーーーーっかりと監視しないと使い物になりませんからね! 注意してくださいよ!』だってさ。ワタシの口から言わせたいだなんて、ユッキーも寂しがりやなんだから」


 章都しょうとは破顔一笑しながら、「じゃ」と右手を挙げた。


「ユッキーとちょっくら話してくるわ。ワタシ一人行動なの相当腹に据えてるみたいだ。えへへへ。ユッキーってば可愛いなぁ」


「はいはい。行ってきてください」


 さして感心もない礒報さがほうは、棒読みに近い声色で章都しょうとを送り出した。


「困ったなー」


 と呟きながらも章都しょうとの顔はデレデレしている。まるで拗ねている恋人の元へ行くみたいだった。



読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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