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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
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第214話 従僕は素材にしません

 喉になにか引っ付いているアメミット隊員をみて、キラン、息吹戸いぶきどの目が輝いた。しゃがんで首元を見る。

 傷口を覆うフワフワした見た目の硬い繭は卵鞘のように思えた。それが五個から六個ほど引っ付いている。


 繭から孵化した虫が隊員の体をゆっくりとモシャモシャする映像を妄想して、「ふふ」と小さく笑った。


(蜘蛛かな? いやなんか繭だから蚕とか? でも傷が再生している感じだから蛆かな? でも蛆だったら繭作らないよね)


 繭の中身を見たい衝動が起こったが、治療を邪魔してはいけない。


 息吹戸いぶきどはグッと我慢してから上を見上げると、下を見下ろしていた礒報さがほうと視線があったので、隊員を指差しした。


礒報さがほうさん。この下に寝ている隊員をそっちに運んだ方がいいですか?」


「お願いします」


「わかりました」


 息吹戸いぶきどは隊員を肩に担いで、強靭な脚力を使いその場から垂直にジャンプした。


 手すりに足底をつけて着地すると、礒報さがほうも隊員も目を見開いて瞬きをした。身体能力が格段に向上していると礒報は舌を巻く。


 柵の上に立った息吹戸いぶきどは、ウッドデッキで横になっている隊員に目を止める。


「ここにも同じような人が……」


 息吹戸いぶきどが立つ柵の近くに寄せられて寝ているので、手すりを少し歩いて距離を取ってから、トン、と軽い音を立ててウッドデッキに降り立った。


「ではこれをー」


 怪我をした隊員を横抱きにすると、青い顔をしている隊員に贈呈する。彼は異形の者を見るような付きで固まっていた。


「どうぞ?」


「ど、どどどどどぃもぉ」


 隊員は恐縮しながらたどたどしい返事をかえして、気を失っている隊員を受け取った。そのまま繭を隠すように柵の近くに寝ころばせる。息があるのでホッと口元を緩ませた


 礒報さがほうは右手で左肘を触りながら、少しだけ息吹戸いぶきどに近づいた。


息吹戸いぶきどさん、状況はどうでしょうか?」


「そうですねー。ラミアだけではなく、ナーガもいました」


 そう前置きをしてから。

 端鯨たんげいが合流したこと、蛇語を用いて意思疎通に成功しナーガとラミアを送還したこと、魔法陣は自然に発生したものであること、送還拒否をしたラミアが逃げていることを告げた。


 話を聞いていた礒報さがほうは表情を引きつらせた。まさかナーガまで出現していたとはと肝を冷やす。


「把握していた現状よりも、かなり悪かったみたいですね。穏便にナーガを送還出来てよかったです」


「会話できたからね。なるべく無益な戦闘は回避したい」


 息吹戸いぶきどがさらっと言ったので、礒報さがほうは耳を疑った。これは夢かもと一瞬思い、頬をつねってみる。痛かったので現実だ。


「ラミアがあちこちにいたのは魔法陣から無限湧きしてたっぽい。壊したから新しいのもう出てこないはずなので、残りを狩ったら終わり。もうちょっと楽しみたかったなー」


 息吹戸いぶきどが残念そうな余韻を含めるので、礒報さがほうはジト目になった。


「いたぶらず素早くお願いします」


「まぁ。そうですよねぇ。でもラミア戦とっても楽しかったんですよねー。名残惜しい」


「……楽しかった、のですか?」


 理解できない。と礒報さがほうは異形な生き物をみるような目つきになる。息吹戸いぶきどは薄く笑って頷いた。


「そうですよ。だって目玉取るだけで大人しくなるから楽勝! あ、でも。ここに来る途中で蜂と戯れるラミアいたんで、あれは鉈で斬りました」


 礒報さがほうがきょとんした表情になったので、息吹戸いぶきどはすぐに付け加えた。


「蜂に近づきたくないですよー。でもラミアを放置できなくて。刺されないように気を付けて斬り殺したんです。そしたら蜂が紙になって……」


 礒報さがほうバッと手を伸ばし掌を息吹戸いぶきどに向けた。

 息吹戸いぶきどが首を傾げたので、手をゆっくりと下ろす。


「ちょっと待ってください。目玉を取るってどーいうことですか?」


 動揺が走る礒報さがほうを眺めて、息吹戸いぶきどはおもむろにポーチを開けて、目玉の入った透明なビニール袋を取り出した。

 礒報さがほうが「ひぃっ」声を上げて仰け反る。


 ラミアは遠距離攻撃が当たりにくく近接攻撃が強いタイプだ。

 蛇の反射能力をもつラミアの懐に入り、攻撃を一切受けることなく眼球だけ取ってきたなんて。どんな反射速度をしているんだと叫びたい衝動が起こる。


 息吹戸いぶきどが得意げにズイッと差し出したので、礒報さがほうは悲鳴を飲み込むべく両手で口元を隠した。


「ラミアの目玉は取り外しできる。目玉ないと動けなくなるって本当だったよー!」


 神話の通りだったという意味だが、それを知らない礒報さがほうは「は、はぁ」と曖昧に頷いた。

 数歩後退してから自身を落ち着かせるように口元から手を離すが、指が小刻みに震えていた。


「動けないとは、無効化したということでしょうか?」


「そうだね。眼球入れないと眠ったままだから無効化でいいかも」


「ラミアを生かしておく理由はなんですか?」


「何かに使えるかと思って?」


「何か……とは」


 聞き返されて息吹戸いぶきどは考えた。



 この世界は従僕じゅうぼくの素材で武器や防具を作ることはしない。


 人と違う構造をしている従僕じゅうぼくでも加工できる部分といえば骨と皮と爪くらいだ。

 安定して供給されるほどの量はなく、加工しても案外脆い。地域の特産、お土産品レベルで終わる。


 金属や石、植物でできているなら兎も角、所詮はタンパク質の塊だ。処理を行わなければ日持ちせず腐るだけである。

 従僕じゅうぼくの多くが体内に毒素を含んでいるため肉を食べることもしない。


 天路国あまじのくには牛や豚や鳥などの畜産業を行っているので、従僕じゅうぼくの肉を加工処理して食べる文化はなかった。


 素材を使わず食用にも向かない従僕じゅうぼくは、殺傷したあとすぐに廃棄することが求められる。放置すると異界の不気味な虫が大量発生するから、その前に焼却処分になる。

 特殊な火葬場で灰にしたあと特定地域の地面に撒いて地界に送っている。



「ラミアって素材として活用されないんだ」


 残念そうに呟くと、礒報さがほうが困惑しながら聞き返す。


「素材とは、どのようなことをお考えでしょうか?」


「蛇皮が何かの素材に使えそう。例えば、財布とかバックとか、弦楽器とかの材料になるとか。縁起もよさそうだから、お財布入れたら金運アップかな。鱗はレアアイテムだったりするけど、ラミアの眼球も何かに使えるかな!」


 キラキラした眼差しで眼球を示す息吹戸いぶきどを見て、礒報さがほうは冗談で言っているのではないと分かり、めまいを覚えた。


 ラミアを材料として……単なる蛇と認識している。


 女性の蛇型従僕(じゅうぼく)であり、異界の怪物だということをすっかり忘れているようだ。


 骨や牙を寄せ集めて加工すればナイフぐらいなら作れるかもしれないが、戦闘向きではない。そして眼球は材料になる気がしなかった。


「いえ……申し訳ないのですが、何も使えないと思います」


 ゲームとは違うなぁ、と息吹戸いぶきどは唸る。


「何も使えないのか」


 残念そうに呟くと、礒報さがほうが躊躇いがちに頷いた。


「ほぼ無傷なのに実験とかにも使えないのか。勿体ない」


「……そうですね」


 大昔に捕獲したラミアを人体実験した記録が残っている。体の構造や種類、弱点が書かれていた。標本も残っている。


 現在は殺傷処分でよい従僕だということは黙っておこうと決めた礒報さがほうは、一つ前の話題に焦点を戻す。


「ところで、生きているラミアは何匹ですか?」


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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