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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章二句 授け与えるカタストロフィー・園児救出作戦
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第205話 連携するの大事

 息吹戸いぶきどはポンっと手を叩いた。


「そういえば聞いてなかった。敵はラミアだったね。とりあえず降りて移動しながら聞く……あ! 礒報さがほうさんは案内だけでしたか?」


 礒報さがほうはシートベルトを外した。


「私も園児たちの保護を任されています。途中までは同行します」


「そうなんだ。目的違うから別行動ですね」


 守る能力に特化しているから討伐よりも保護優先なのだろう。そして別行動でも問題ないくらいには攻撃能力があるということだ。


「ですが現場までご案内します。ついてきて下さい」


 礒報さがほうはドアのロックを解除する。カチャと音がしたので息吹戸はバックドアを開けた。すぐに小便のような匂いが鼻腔を刺激する。


(んー。犬猫がどこかで粗相したのかな?)


 きょろきょろと周囲をみるが犬猫の姿がない。そして奇妙なほど人の気配がなかった。


礒報さがほうさん。ここで事件起こったんですか? 誰もいないんだけど……」


「正確に言えばあちらの林の中です」


 指で示されたので公園を見る。入り口にはバイクや車が侵入しないようにポールが二本立っていた。中は地面がむき出しで遊具が五つほど置いてある。

 そこから東側に大きい林が広がっていた。境目を作るように背の高い木が等間隔で並び、その間に花壇があり、控えめに野草が伸びている。


「夏には子供たちがキャンプできるような施設がありアスレチック用の遊具も置いてあります。この近くに園があり、その子たちが被害に遭ったとのことです」


「住宅が傍にあるけど、野次馬どころか誰もいないね」


 息吹戸いぶきどが不思議そうに周囲を見渡すので、礒報さがほうは公園を丸で囲うような指の動きをした。


「ここからここまで、人払いの結界が張られていますので誰も近寄りません。林には一般人が入らないよう進入禁止の結界も張られています」


「えー? 結界あるんですか?」


 息吹戸いぶきどは目を凝らしてみるが何も見えない。裸眼で見ようかと思ったが、そこまでしなくてもいいかとフレームから手を放す。


「うーん……見えない」


 息吹戸いぶきどが腕を組んでいるが、礒報さがほうは驚きを隠せない。忘却範囲の広さに一瞬言葉を失った。しかしすぐに気を取り直して説明をする。


「人払いの結界は目に見えないものですから」


「もしかしておしっこの匂い?」


「え?」


「さっきから犬とか猫のおしっこの匂いが鼻につくんだよね。これが人を寄せ付けない効果かなって」


 礒報さがほうは不可解そうに眉をしかめつつ、ゆっくりと緊張をはらみながら否定した。


「違います。音です。危険を知らせる音を発しています。天路民あまじのたみに警告音として心に刻まれている。今もほら……」


 今度は息吹戸いぶきどがしかめ面になった。


(わからない)


 何も音が聞こえないのだ。

 しかし礒報さがほうの態度をみると、聞こえないのはマズイと感じた。後で玉谷たまやに聞こうと思いながら、適当に「そうですね」と相槌を打った。


「でも匂いもするんですよ」


 匂いの事も再度も付け加える。


「わかり、ました」


 礒報さがほう息吹戸いぶきどを鋭く見つめていたが、ゆっくりと息をはいて肩の力を抜いた。彼女がしかめ面をしたときに、そんなことは分かっていると怒鳴られ、攻撃を放つかもしれないと身構えていたが。どうやら杞憂に終わったようだ。


「匂いは分かりませんが、何かの残り香かもしれませんね」


 礒報さがほうが警戒を解いたので、うまく誤魔化せたと息吹戸いぶきどは心のなかで汗を拭った。


「アメミットの治安安全課では対応出来なかったようですので、早く合流しましょう」


「あれ? アメミットなんですか?」


「ええ。そうですよ? ヘルメースの采配がそうするようにと」


 当然のように言われたので、息吹戸いぶきどは苦笑いしながら頬を掻いた。


「えーと。ヘルメースってなに?」


 礒報さがほうは目を丸くした。こんな基礎知識すらもごっそり抜けている状態を垣間見て、心臓が凍えた。楽観視していたが、彼女に深刻なダメージがありそれが回復していないのではと不安が過る。

 治療方法がいくつも頭を駆け抜けたが、軽く頭を振って振り払った。今は任務が優先である。


「平たくいえば、カミナシとアメミットのオペレーター機関です。各地に点在しています」


「うーん。警備局とかな感じかな?」


 息吹戸いぶきどの呟きに、礒報さがほうは小さく首を傾げた。


「その例えは分りませんが……。ヘルメース機関は市民からの通報を受け取り、内容を把握して、有事の内容や対応レベルの条件に合う者を現地に派遣するようカミナシとアメミットに伝達します。辜忌つみき関連は町全体が被害に遭うことが多いのでアメミットがメイン。それ以外の小規模はカミナシに割り当てられます。ただし実力に応じて割り振られることが多いため、一概には言えません」


「ヘルメースは……あー。もしかしてヘルメスかな」


 息吹戸いぶきどが思い浮かべたのは、オリュンポス十二神の一人で神々の伝道師、ヘルメスである。



ヘルメスとは、ゼウスの使いで旅人や商人の守護神。万物流転の神ともいわれている。超自然的な杖をもっており、これを印として冥界・地上世界・天界を往復する。多面的な性格をもつ神なので、複数の神々と同一視されることが多い。



(オペレーター機関だから、作戦や戦略や軍略とかのイメージが強いのかも。カミナシやアメミット以外にも防衛に関わる組織が色々ありそう。今度調べてみたいなー)


 思考の海に漬かっていたが、礒報さがほうが歩き出す音で我に返った。

 説明は終わったとばかりに礒報さがほうは駆け足で現場に向かう。息吹戸いぶきどはその背中を追いかけるため駆け足になった。

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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