09 命が惜しければオレたちの仲間になれー!
国王の策略にはまり、即刻処刑を言い渡されたワタとキース。
二人は王城からの脱出を図る。
まずは謁見の間からの脱出。
だがこれはあっさりと行った。
キースが扉を蹴り飛ばした所、ちょうつがいが千切れるように壊れ、扉がそのまま倒れたのだ。
そこにいた兵士はこれに驚き、キースとワタを取り逃した。
「ワタちゃん能力「使ってない」了解!」
エンジンのかかったキースと、事態をしっかり理解したワタ。
前方から近衛兵がやってきた。
が、キースの奇策が炸裂!
「テロリストは謁見の間です。俺はこの子を保護しますので」
「そうか。おい、行くぞ!」
まさかの普通の兵士として接することで戦闘を回避。
てへペロをワタにお見舞いするキースに、ワタも笑って返す。
ちなみにこの策が成功した理由は単純で、相手がキースを知らなかったという、それだけの話である。
それでも続々と兵士が集まってきており、ついに「いたぞ!」と見つかった。
「走るよ!」
「レンジャー!」
「なんだそれっ!」
こんな時でも発揮されるワタの能天気ぶりに、キースは呆れつつ冷静になった。
階段までやってきた。
上ろうとしたワタの手を引っ張りキースは下へ。
「ここは二階だ。下を目指すほうが早い」
「それフラグ!」
ワタが怒った次の瞬間にはフラグ回収。丁度兵士が上がってきて鉢合わせだ。
あちらもキースの顔は知らなくとも、兵士と少女のコンビを見てこれが追っている人物だとすぐに気付く。
「貴様らがテロリストか!?」
しかし次はワタの能天気が、とんでもないアタリを引く。
「もう! 女の子を痛くさせるんだから、ちゃんと責任とってよね!」
「えっ……あ、えーと……」
ド直球でアレな意味にしか聞こえないこの台詞に、思わずたじろぐ兵士とキース。
しかしこれ、なんとワタの作戦だった。
「エロ同人の読みすぎだよバーカ!」
「あっ! 逃げたぞ!」
イケナイ空気を利用して、キースの手を思いっきり引っ張り反転、上層階へと逃げる。
幸い上から下への攻撃には適さない剣士だらけであり、ついでに格闘戦でも強いキースのおかげで突破口があっさり開いた。
階段を上り、四階まで来た。
ここで階段は切れており、さらなる上層階へは別の階段を使うしかない。
「ここって何?」
「検事や判事のオフィス、それと裁判室のあるフロア。ここより上は王室関係者の部屋だから、普段はここが一番警備が厳重」
「だけど今はスカスカだね」
「ああ」
「はぁ、はぁ。疲れてきた……」
「死ぬか走るか「分かってる!」だったら頑張れ!」
キースはちょっとだけ後悔中。ワタの選択どおり最初から上を目指せばもう少し余裕があったと考えているからだ。
突然キースがワタの服を掴み、とある部屋へと転がり込んだ。
「ったぁーい。キーむんー……」
口を手で押さえつけられたワタ。
キースはもう片方の手で口の前に人差し指を立て、シーっとワタに指示。
「……あ、あのー?」「ほぁっ!?」
変な声を出して驚いたのはキース。
それほど広くはない殺風景な部屋に、なんと先客がいたのだ。
「……ああああっ!!!」「シィーーーッ!!」
そして時間差でとんでもなく驚いたワタ。キースは強く黙らせつつ、ドアから外を覗き周囲を確認。
どうやら兵士には聞かれなかった様子。
問題はこの部屋の状況である。
「……あっ!」「あっ!」
キースも、そして部屋にいたもう一人も、相手が何者かを理解した。
まずはキースが確認。
「あなた、あの時レストランで泥酔していた?」
「……そうですよ。あなたのせいで今から死刑を言い渡される人ですっ! ……でも? あれはわたしの自業自得ですから? 恨んでなんかいませんよ?」
「恨んでるじゃん」
希少な、ツッコミを入れるワタ。
そう、この部屋にいた先客とは、昨日レストランで二人に絡んできた、酔っ払いの女性剣士である。
この国では酔った上での迷惑行為は重罪。
この女性は王都中の酒場に悪名が轟く人物なので、一発死刑は間違いないのだ。
しかし本来この部屋は罪人の控え室などではなく、ただの資料室。だからこそキースはここに飛び込んだ。
実はこの女性、裁判室までの移送中、緊急事態を告げた国王のアナウンスを聞いた兵士に、近場にあったこの部屋に放り込まれてしまったのだ。
兵士を擁護するならば、手錠と足かせがしてあるので、このまま逃げるのは不可能との判断である。
「でも昨日の今日って早くない?」
「ニツバから罪人が一杯来るからって早回しにされたんです。どうせわたし死刑確定だし……」
「あー……心当たりあるぅー」
「それもあなたたちのせいなんですか!? んもう……はぁ……」
酔って暴れて翌日には死刑なのだから、相当に落ち込んでいる女性。
するとワタが目線でキースに何かを指示。
キースは大きなため息をつきつつ、ワタに耳を貸した。
「やっぱりお酒だけで死刑って変だと思うんだ」
「……うん、まあ」
「でね、この人あの時、自分は強いって言ってたでしょ?」
ワタの考えていることが分かり、苦々しい表情になるキース。
その表情の変化をワタは了承のサインと捉えた。
「ねえお姉さん、取引しようか。これは私たちにとっても、お姉さんにとっても悪くない話だよ」
「……なんですか、いまさら」
つんけんした態度だが、女性も何を言われるのか、予想はできている。
「お姉さんさ、私たちの脱出を助けてくれたら、死刑なしにしてあげる」
「ふふっ、まあそう来ると思いましたよ。……だけど、今のわたしには剣も鎧もない。あるのは手錠と足かせ。それでどうやってそちらを助けろと? 剣士の魂を失ったわたしには、もう……」
《このお姉さんに相応しい、すごく強い剣と格好いい鎧》
「……はいっ!!??」
「あははー。さて、どうしますか?」
目の前に突如として現れた剣と鎧に、女性は目を丸くし理解ができないでいる。
――しばらく固まっていたが、扉の向こうで兵士の声がしたので、二人はもう時間がないと判断。
そして女性もその声で我に返り、生唾を飲み込む。
女性の目の前には、まっすぐに伸びた鋭い剣。いわゆる両手持ちのロングソードであり、丁度この女性もロングソードの使い手だ。
鋭い刀身は切っ先まで鋭く伸び、その中央には赤く彩られた溝がある。つばは小ぶりで金色、柄の先端には丸い宝石が添えられている。
また鎧だが、レストランで見た時は飾り気の全くない鉄板だったが、こちらは白を基調として随所に金の装飾がある、見た目に高そうな鎧だ。
「これはつまり、甘んじて死刑を受け入れるか、あなたたちと共に脱走して、このアンフェアな法に抗うかという選択……ですよね?」
「……ごめん、難しい」
「お二人さん、話の途中で悪いけど早く決めて。兵士がこのフロアを捜索し始めた」
ドアに耳をつけて外の様子を探るキースからの警報。
《お姉さんの手錠と足かせが消える》
女性は一瞬で消滅した拘束具に少し驚いたが、すぐにこの状況に順応した。
「……5分待って」
「40秒で支度して!」「よんっ!?」
言いたいだけのワタだったが、このネタ、当然ながら異世界の人は分からない。
もうそれはそれは大急ぎで鎧を着る女性。ワタもなんとなくお手伝いしています。
「……っできた。いつでも行けますっ」
「よし。……もう下には行けそうもない。出たら左、十字路を右。それで上への階段がある」
「これ以上階段を上っても」「それしか道は無い」
真剣なキースの目に、ワタと女性は頷いた。
試し斬りとばかりに、女性が扉を一撃で真っ二つにした。
それを合図にキースもワタも走る。
「ってすぐいた!」
「そりゃそうだ」
「ここはお任せを!」
女性が先頭を走り、まるで舞い踊るかのように滑らかな動きで兵士を攻撃。
逆に兵士たちは二人が相手だと思っていたら三人に増えているし、しかも剣士が混ざっていることに困惑して、初手が遅れた。
「あれ全部腹で殴ってる!」
キースの言葉どおり、女性は斬りつけるのではなく殴って兵士を気絶させ、進攻している。
「すごいこと?」
「めっちゃすごい!」
「おー!」
ワタも女性の強さを認識。
十字路まで来た所で、前後左右の全てを塞がれてしまう。
「大人しくしろ!」
「やーだねー! キースさん、やっちゃって「ダメ!」はぁーい……」
キースは彼らが同業者であることと、ワタ自らが人を傷つけることに抵抗を感じている。
(ちょっと羨ましい)と、そんな二人のやり取りを見ていた女性。少し頬がニヤけている。
「というか貴様は何者だ? 女!」
「酔っ払っただけで死刑にされそうになったので、お二人に協力して一緒に逃げることにしました。一言で言えば、二人の仲間です」
「凶悪犯を脱獄させるとは、やはり貴様らはテロリスト!」
「だーかーらー! ……んもうめんどっちぃー!」
「ふふっ。ならば面倒事を片付けましょう!」
十字路の右側、つまり上り階段のある側を向く女性。
女性が強く構えると、どこからともなくそよ風が舞い込んできた。その風は女性の長い髪をかすかに揺らす。
(まさかっ!?)とキースは気付き、ワタの頭を掴み、強引に姿勢を下げさせた
「……ふぅ。行きます! 剣技《エアブラスト!》」
大きく、かつ目にも留まらぬ速さで振り下ろされた剣。
その風圧でなのか、前方に向かって衝撃波が走り、一直線上の兵士たちが吹き飛ばされた!
「なっ!?」「スキルの使い手だとっ!?」「あれが……」
目の前の光景に驚愕し、手が止まる兵士たち。
しかしその光景を見そびれた兵士たちが集まってきてしまい、減るどころかむしろ増えた。
一方こちらは、ワタにキースも女性の使った謎の技に固まっている。なので女性がワタの手を引き走り出し、キースも一瞬遅れて付いていく。
階段を上り七階まで来た。
しかしここで階段終了のお知らせ。ここが王城の最上階だ。
後ろからは兵士がぞろぞろ。前方からは来る気配がないのだけが救い。
「どうすんの?」
「とりあえずそこ!」
扉を叩き破る勢いで入った部屋。そこはなんと国王の寝室。
金ピカ調度品や天蓋つきベッド等など、ものの見事に『王様の部屋』である。
思わず見とれるワタ。
一方女性はこの部屋に何のリアクションもなく、どう逃げるべきかを考えている。
開け放たれたドアから見える廊下では、キースが最後の抵抗をしている。
その光景がワタには、異世界の冒険がここで終わるのだと、何者かにそう見せ付けられているように思えた。
兵士が振った剣を避けたキースが、そのままの勢いで部屋へと飛び込んできた。
キースはワタを無理矢理抱えると、女性に「飛んで!」と一言。
キースは止まらず左腕で顔を守り窓を破壊! 手すりに飛び乗ると、躊躇なくベランダから飛び降りた!
「マジですか!?」と驚く女性だが、まるで大きな力に導かれるかのように、同じくベランダから飛び降りた!
通常よりも高い屋根を持つ王城の七階なので、一般的なビルに換算すれば十階以上から飛び降りたことになる三人。
「いいいやあああーーー!」
「ワタ! 力使って!」
「おおおっけえええーーー!!」
《でっかいエアマット!》
するとボフンッ! といういい音と共に、マンションの救助現場で使われるような特大のエアマットが地上に出現。
見事に中央に二人が落ち、その後に少しずれて女性も落ちてきた。
「……ぅうぅ~……目が回るぅ~……」
「ワタちゃんしっかり。逃げるよ」
「こっ……これは……」
「それは後で説明しますから」
「分かりました……っとああっ!」
三人とも立ち上がろうとして足元がおぼつかず、女性は剣を支えに立とうとしたのだが、エアマットに穴を開けてしまった。。
ともかくこれで三人とも無事で済み、七階からその様子を見ていた兵士たちはみんな、何が起こったのか理解できずにただただ困惑していた。
無事着地し、ワタが能力でエアマットを消した。
さて逃げようとした所でキースから指示。
「そっちの二人は北門へ。俺は車を取ってくる」
「私が作るよ?」
「ニツバ様から頂いたものだから、そうは行かないよ。じゃ、お願いしますね」
「はいっ」
ここは北西の位置。そして駐車場は南西だ。
キースは走り、駐車場へ。
幸いワタと女性が囮になってくれているようで、キースの側には兵が来ない。
ちょっとだけ(悪いなぁ)と思いつつも、ありがたくも思っているキース。
城の周囲は庭園になっているので、花壇には綺麗な花が沢山。
本来は北門から入ると、その外周をぐるりと迂回するようにして駐車場だ。
駐車場に到着し、さっそく――とは行かなかった。
キースの乗るはずの魔車を、四名の兵が既に囲んでいた。
「……四人か。弓無しではさすがに……」
どうにも手が出せないキース。
さてどうしようかと周囲を探るも、駐車場なので遮蔽物がない。
「おい」「ぃっ!?」
突然後ろから声を掛けられ、固まるキース。
「こっちを向け」
万事休す。仕方なく言うことを聞く。
――と、声をかけてきたのはキースの知る人物だった。
「あれ?」
「あれじゃないですよ。全く、何したんすか?」
「いやぁ……」
どう言おうかと目を逸らすキース。
声をかけてきたこの人物、なんと兵舎で同室の、午前中には会えなかった最後の一人だった。
キースは一か八か、この彼を口説き落とすことにした。
「……もしも、国王様が乱心したと言ったら、イスル君、信じるか?」
「乱心? まさか……」
「まさか。とはいえ。俺たちはもう薄々……。それにさっき、謁見の間で国王様は剣を右に置いていた」
「左利きの国王様が、右に剣を……つまり、元からキースさんを消すつもりだったということですか」
「そういうこと。はめられたんだよ、俺たちは」
じっとキースの目を見るイスルというこの兵士。
キースの目に嘘がないことを確認した彼は、キースが何をしようとしていたのかと、壁際から駐車場へと顔を覗かせる。
「……キースさん。ウチの家系は古くからマーリンガム家に仕えてきました」
「ああ、知っている。君のご家族には常々お世話になっている」
「そんな家系に育った俺ですよ。……あの魔車ですよね?」
「すまない。恩に着るよ」
キースは彼に魔車の鍵を渡し、先に北門へと向かう。
彼は鍵を握り締め、深呼吸をひとつして魔車へ。
「何者だ!」
「すみません、一般兵です。ははは」
作り笑いでその場をどうにか和ませようとする彼。そんな彼の視線は、魔車に付いているシンボルマークへと向いた。
そのマークは王冠の俯瞰図に、中央に剣。ニツバの領主、セルウィン家の紋章だ。
「あーえっと、先ほどニツバの領主様から、魔車を返してほしいと連絡がありました。それでお付きの方が取りに来られるので、ここから移動させろと。なので私が……はい」
「おっ、魔車の免許なんて珍しい。……手配犯ではないですね。分かりました、どうぞ」
「すみません。ご苦労様です」
彼、イスルもまた、マーリンガム家に仕える将来を想定して、免許を取得していたのだ。
車に乗り込み安全第一で移動。
その途中でキースを見つけ、運転を交代。
「ありがとう。無事に済んだら、たっぷりとお礼するよ」
「それ別の意味に聞こえますよ? 俺は国王様がご乱心なさったという話を調べてみます。まあ、本家には勝てませんけど。んじゃお元気で」
「そっちも」
そしてキースは、一転大急ぎで芝生や花壇も踏み越える豪快な走りを見せたのだった。
「……なるほど、あの人らしくない」
一方こちら、北門。
分かりやすい二人が目印になっているので、次から次へと兵士が押し寄せる。
だがそのことごとくを剣士の女性が相手しており、まるで演舞でもしているかのように無双を繰り広げている。
そしてワタだが、こちらも一応は抵抗しているのだが、その姿は滑稽の一言。
例えるならば”大切な場面で狙った秘密道具が出てこない某ネコ型ロボット”のように、大焦りで色々なガラクタを出しては兵士の頭上に降らせている。
まさに”わたわたする”ワタである。
「まだ元気?」
「まだまだ!」
「おー!」
というこちらも、女性同士だからなのか、馴染んできている。
ちなみに兵士の中には強い者も混ざっているのだが、一対一になれない混雑した状況ではその実力を発揮できず、一般兵士とそう大差なくなってしまっている。
そしてもうひとつの理由だが――。
「俺が先だ!」「どけ!」「何を!」「貴様には負けん!」「我を前に出せ!」「ヤツラになど負けてたまるものか!」
という、兵士同士、部隊同士での小競り合いが発生しているのだ。
なにせ目の前にいるのは女性二人組みだし、テロリストですからね。仕方ないでしょう。
そんな現場に響く『ピょ~』という間の抜けたクラクション。
キースが庭園を突っ切って登場だ。
何だ何だと混乱する兵士たちを尻目に、そのまま先頭の兵士を轢き飛ばした。
「乗って!」「ほいきた!」
「わ、わたし「あんたも!!」はいっ!」
ワタも女性も後部座席へ。魔車は左ハンドルなので、助手席が兵士側にあるためだ。
二人乗り込みドアを閉めると、即座に全速力で北門から去るキース。
「あーばよーとっつぁーん!」
ワタは窓から顔を出し、こんな場面でもしっかりと能天気振りを発揮していた。
―――――
こちらは謁見の間。
剣を片手にため息をつく、ステージ国王アーヴィン・ガーネット。
「……はぁあうっ!? っと。どうなった?」
「申し訳ございません……」
「どいつもこいつも使えない奴ばかりだな。
彼の前に現れたのは、頭部に二本の角を持ち、爬虫類のように横方向に瞳孔の閉じる目を持つ『魔族』の男性。
「全く、この先どうするべきか頭を抱えてしまうではないか」
静かに立ち上がり、魔族へと近付く国王。
「奴へはどれほど話が行っている?」
「いえ。アーヴィン様のご指示の通り、スリーエフ様への報告は止めております」
「そうか。唯一の救いだ、なっ!」
剣を振り抜いた国王。
そこには先ほどの魔族の頭が転がっていた。
「……あ、失敗した。奴に後任を寄越せと連絡しなければ。おい! 誰かいるか! この機に乗じて魔族が侵入してきたぞ?」
―――――
日が陰ってきた頃。
こちらは王都を脱し、現在は最も王都に近い宿場に到着した所だ。
「……はぁ、さて「泊まる?」違うっての」
相変わらずの能天気女子中学生。
そのやり取りに、女性も笑っている。
しかし、停車した所ですぐに降りようとした。
「それではわたしはこれで」
「あれ、お姉さん降りるの?」
「ええ。……え? 王都から脱出するまでという意味では?」
「えぇー! ねえキースさん」「言わなくても分かる」
「えーっと……そうだな。あなたは俺たちの秘密を知ってしまった。生かして返すわけには行きません。さ、どうしますか?」
「……そんな口調で言われてしまっては、危機感の欠片も抱きませんよ」
ぶっきらぼうに脅したキースに、笑って返す女性。
「どうやらわたしは、とんでもない方々に助けられてしまったようです。こうなってしまっては逃げようがありません。さあ困ってしまいました」
そしてぶっきらぼうな口調で反撃する女性。
笑いつつ、その判断をワタに委ねるキース。
「んー……あ。そうだー、私たちも困ってるんだー。困ってる同士一緒になったら、どうにかなるかもね」
「ワタちゃん、もうちょっとストレートに行くべきじゃない?」
「えー? んー……じゃーね、命が惜しければオレたちの仲間になれー!」
「結局脅しですか!」「あっはっはっ!」
大人二人、これには大笑い。
「まあそうですね。ここで降りてもすぐに捕まって、今度こそ死刑でしょう。それはさすがにわたしもイヤなので、ご一緒させていただきます」
「やったー!」「んじゃ俺もやったー!」
「あはは!」
こうしてこの女性が仲間に――そうだ。ワタちゃん、名前聞いてませんよ?
「あ、そうだった。ねえお姉さん、名前は?」
「そうですね。仲間になったからには名乗らなければ。わたしはクインキュート・アンダーフィールド。クーと呼んでください」
「なんがすごい名前。私は御前崎私。14歳ね。ワタって呼んで」
「俺はキース・マーリンガム。19歳です」
「……二人とも若っ!」
改めて。こうして旅の仲間に、クインキュート・アンダーフィールド。愛称『クー』が加わった。
――クインキュート・アンダーフィールド。
バラのように赤い髪、腰に届きそうなほどの長いポニーテールが目立つ彼女。
背はキースよりも少し高いほどの長身で、しかし残念ながら胸はない。
きっと胸の分が身長に(この第三者視点は斬り殺されました)
「全く! ってあなた……キースでしたか。マーリンガム家の方なんですか?」
「そうですよ。というか、そっちこそその名前、どこかで聞いたことがあるんですけど?」
「ははは……。実はですね――」
――彼女、クーの正体。
実はクーは、過去に消滅した『セント・フィリス王国』という小国のお姫様なのだ。
とはいえこの話は20年以上も昔、キースが生まれる前の話である。
なのでクーにとっても既に遠い過去の笑い話であり、今更国家再建などは全く考えていない――。
「20年以上前って、クーさん今何歳?」
「女性に年齢を……とは言ってもワタも女性ですね。わたしは27歳です」
「おー! そういえば私、ずっとお姉ちゃん欲しかったんだ」
「ならばわたしがお姉ちゃんに「やったー!」なんちゃって……って言えなくなっちゃった。あはは……」
――ちなみに何故国が消滅したのかというと、彼女の祖父が膨大な借金を重ね、しかも国庫から勝手にお金を持ち出して使い込んでいたことが判明したため。
気付いた時には国庫はカラッポ、小国なので借金も返せなくなり経済破綻。
唯一の救いは、隣の大国と友好関係であったために、その隣国が併合し借金を肩代わりしてくれたので、国民生活には響かなかったということ――。
「それでよく殺されなかったね」
「ワタはド直球で来ますね。祖父母は現役の王だったので断頭台に上がりましたが、両親と私と弟は全てを剥奪され、国外追放されただけで済んだんです。まあ……」
と、クーはうなじを見せた。
そこには焼印で、天気記号での天候不明や地図記号での警察署のマークのように、丸の中にバツ印がある。
「国に戻れば殺すという意味の印です。ターゲットマーカーという奴ですね。これがある限り、わたしはあの国には入れません」
「ふーん。……私だったら消せるけど?」
「いえ、これは一種の戒めであり、最早わたしの一部なので」
「そっか」
「あ、それじゃ、あのなんかすごい技ってなに?」
「すごい……ああ、剣技ですか。それはですね――」
――剣技とは?
有り体に言えば、魔法の剣バージョンである。
神の力を借り受けることで発動する技であり、人によっては岩をも砕く一撃を放つことが可能。
当然ながら熟練の剣士のみが使える技であり、それだけでクーがどれほど強いのかがうかがい知れる。
ちなみにだが、剣技が存在するのは剣だけ。
キースは弓に格闘術も出来るが、どちらにも剣技は存在していない。――そもそも”剣の技”ですし。
そしてルビを振るのが面倒なので、今後はカタカタで表記します――。
「だから俺としてはすごぉーく、羨ましい」
「ふふっ、それでは今度からは精一杯自慢しますね。えっへんっ!」
「うわぁーワタちゃんが二人になったー」
「なにそれっ!?」
頬を膨らませるワタに、二人とも大笑い。
この宿場では食事だけ。
三人は当面の目的地をニツバと定め、車を走らせるのだった。
「居眠り運転しそう……んふわぁあぁ……」
「わたしは野宿おっけーな人ですよーなんちゃって」
「いよぉーし! ここをキャンプ地とする!」
「マジ!?」「マジ!?」
「えへへー」
どうやら言いたかっただけのようです――。
今年分はこれで打ち止め、次回投稿は1月2週目以降となります。
それでは良いお年を。




