08 連れて行ってあげるねって言うところだよ?
宿屋の支払いは、ニツバの領主にツケることにした二人。
店主にはワタが交渉。ワタなりに気を利かせました。
「領主さんには私の名前でってことにしておいて」
「え、君の名前でかい?」
「うん。約束してもらってるからだいじょーぶ」
依頼遂行前に、一旦キースの兵舎に寄ることに。
その車中。
「ワタちゃんさ、人の死を見ることを怖がってないように見えるんだけど」
「んー、血はもう慣れたかな。コボルトに食われてたキースさんのせいで」
「ははは、そりゃゴメン」
「だけどここってそういう世界なんだろうなって。ラノベの中にもエグイのあるから」
「……そっか「あぁー!」えっ!? 何!?」
突如キースを指差し、頬の膨れるワタ。
「今絶対、”こんな世界に送られて可哀想だ”とか思ったでしょ!」
「あ……はい」
「んもー! 私は私なりに異世界生活楽しんでるの! そーゆー心配はいらないから!」
「あっ、はい。……いやでもさ、ニツバでのこととか」「それも含めて!」
「私これでもラノベと妄想でいろんな世界見てるもん。バッドエンドものだっていっぱいね。とーぜん異世界チートもあるし、この本もそっち系だし」
「現実と妄想では違うと思うけど。……というか、『ネズミ』の件での落ち込みぶりが、やっぱり心配になるんだよ」
「気持ちはわかる。よぉーくわかるっ! ぶっちゃけ自分でもあそこまで落ち込むとは思わなくてびっくりだったし。だ・け・ど! それもこれもあれもどれもぜぇーんぶ含めて! 私は楽しんでるの!」
十字路で一旦停車し、ワタの目を見たキース。
そこにはしっかりと『この言葉は真実』と書いてあり、その鋼の心臓ぶりにはキースも舌を巻いた。
「分かりました。はぁ、ワタちゃんは強いね」
「能力チートですから」
「そういう意味じゃ……いや、それもあってなのかな? ははは……」
兵舎に到着。ワタは車内で待機し、キースだけ。
キースは慣れた足取りで、まずは辞令が張り出される掲示板へ。
すると同僚が話しかけてきた。
「おっ、キースさんじゃないっすか。おつかれさんです」
「どーもです」
「……これ、マジ?」
「マジ。当分は帰れそうにないから部屋の物を引き上げに来たんですよ」
「あー。おつかれさんっす」
「ははは……」
ちなみにこの同僚、年齢も階級もキースより上なのだが、平民上がりなのでこうやって接している。
だが卑下しているのではなく、一種の戯れだ。
キース自身がそのような階級差別を良しとしないので、みんな分かってやっている。
部屋に戻り片付け。
すると同室の二人が仲良く帰ってきた。
キースも含め、この部屋に入る四人は同年代なので、キースにとっては素が出せるひと時である。
「おっ! キースさんちーっす」「朝帰りおつかれー」
「いやーそれがチンチクリンなのと一緒になるせいで大変だよ」
「あの辞令かー。どんなの?」
「んー……14歳の女子。メガネかけてて、異世界から来たって」
「おーすげー異世界転移!」「やっぱり勇者様的な?」
「いやいやそれがすげー面倒な奴で――」
とまあ、同年代の同姓が集まれば話し込んでしまうわけですよ。
「んでさー「キースさん」はうっ!?」
はい。呆れ顔のワタ登場。
「あーえっとこれはそのそれでなんていうかえーと……」
「初めまして。キースさんにお世話になっている、御前崎と言います」
「あ、これはどうも」「こちらこそ」
挨拶をそつなくこなすワタに、このあと何かが起こるのではないかと気が気でないキース。一方同室二人はキースの話とは全く違うワタに、気が抜けている。
「……片付けに時間かかるなら、車に戻ってる」
「あー、すぐ終わるから。あと3分」
「うん」
部屋を出て、廊下で待機するワタ。
キースは全速力で片づけを済ませ、挨拶もそこそこにワタと合流。
車内は、またもや空気が重い。
「……怒って」「ないよ」
「そうですか」
「いやむしろ私が普通に挨拶したことに驚くべきでしょ?」
「あ、うん。ワタちゃんらしくないなっておどろ……いてないよぉー」
「だから怒ってないってば」
ワタは怒ってる雰囲気を醸し出しつつ、それにうろたえるキースを見て遊んでいるだけなのだ。
なお挨拶が出来たのはラノベ由来――ではなく、お爺ちゃん子であることの名残だ。
東地区に入り、依頼場所まであと少し。
周囲の建物は先ほどまでとは違い、壁が剥がれていたり、朽ちたまま放置されている。
そして人の姿や表情も違う。
うつろな目で座り込む男性には生気を感じず、客引きをする女性は鼻が曲がるほどの香水と槍でも貫けないほどの厚い化粧で武装している。
「……雰囲気違う」
「でしょ? だからここは名ばかりの王都とも言われる。人も多いし商業の中心でもあるけど、貿易の中心や、そして活気という意味では第二の都市が上回る」
「キースさんの実家は?」
「それがステージ王国第二の都市『ライオット』だよ。国の西部にあって、海に面している。機会があったら行けるかもね」
「……それはさー、連れて行ってあげるねって言うところだよ?」
「ははは、そうだった」
(実は行きたくないのかなー?)と疑うワタ。
一方キースの本音は、(こういう所が格好つかないからモテないんだろうなぁ)という恋愛に対する反省だけであった。
路地に入り、その奥にある広めのスペースに駐車。
するとキースは、真剣な表情でワタにお願い。
「ワタちゃん、悪いんだけどこの車が盗まれないような細工、できるかな?」
「そんなに危ないの? ここ」
「そんなに危ないよ。ここはもうスラム街に片足を突っ込んでいる。前にも話したよね?」
「うん。危なすぎて兵士さんでも手が出せないって」
「そう。だからこのままだと確実にこの魔車は盗まれる」
「……分かった」
車から降り、キースが周囲を警戒し、ワタがどうするか考える。
(うーん……あ、そうだ)
《魔車を入れる、入り口のない大きな鉄の檻》
「……なるほど」
「車が壊されたら直すよ」
「お願いします」
先輩にするように頭を下げつつ、(つくづく便利な能力だなぁ)と思うキースなのであった。
現場に到着。またもや廃教会である。
二人は念のため建物の陰に隠れて様子をうかがう。
「アルコール教って廃教会多いの?」
「だからアルトール教ね。……この教会はアルトール教のものじゃない」
「なんで?」
「アルトール教には……なんて話をしてる暇はなさそうだ」
さっそく全身黒尽くめで、顔まで隠れる司祭帽をかぶっている人物が一名出てきた。
周囲を見回しているので、どうやら見張りのようだ。
「いかにも怪しい宗教って感じだ」
「……怪しすぎる気がする。女の勘」
「罠ってこと?」
「かも」
(どーせ信じないだろうなー)と思っているワタ。
だがキースは即座にこれを信じるべきだと判断した。男の勘である。
「一旦引くよ」
「え? うん」
キースはワタの手を握り、一旦その場から離れた。
一方ワタはその理由が分からず困惑中。
一区画ほど離れた所で、キースは客引きの女性に声をかけた。
「すみません」
「はいいらっしゃ……じゃねーな。チッ、なんだい?」
「近くにある廃教会の連中、いつから住み着きましたか?」
「知らないね」
ワタがいるせいもあり、全く相手にされないキース。さすがに苦笑いです。
「キースさん交代。その知らないって、どっちの意味?」
「さぁね。商売の邪魔だから、分かったらさっさと消えな」
「んじゃーね、《金の指輪》これあげる」
「なっ!? ……あんたマジシャンかい? まーいいや。昨日の昼からだよ。いきなり大人数で押しかけてあそこに陣取りやがった。周りのあたしらには金をばら撒いて口封じさ。それ以上は本当に知らないよ」
「分かった。ありがと」
二人で目を合わせ、確信。
あの廃教会にいる自称新興宗教団体は、ワタとキースを狙う何者かの手先。
再び建物の影から廃教会を睨む二人。
「どうするかはキースさんに任せる」
「昨日の今日で、国王様まで話が上がる可能性は充分にある。だから国王様が仕掛けた罠だとは思えないんだ。……私情が大いに挟まってるけど」
「”思えない”んじゃなくて、”思いたくない”ってことね。じゃあ魔王?」
「その線を推したい……」
とはいえキースの中では、半分ほどは国王の罠ではないかと思っている。
しかしここでワタがとある作戦を思いついてしまう。
「私にいい考えがある」
「また失敗しそうな……。で?」
「ふっふーん。見てて」
《廃教会を占拠している人たちの服がなくなる》
次の瞬間、見張り役の服が一瞬で消滅。
突然のことに、思わず股と顔を手で隠す見張り役。
「……わお」
「どう? 見たことある顔?」
「あ、そういうことか。いや、残念ながら」
「だったら入るしかないよね」
「ワタちゃん。血を見る覚悟は?」
「本当は結構厳しい。けど、必要なら殺す」
「ははは、すげーな……。それじゃあカウントスリーで行くよ」
「おっけー」
ワタのこれは、精一杯の強がり。
しかし自分の進む道を、そして仲間の命を亡き者にする相手ならば、遠慮はしないと決めている。
能天気だからこそ、命の軽いこの世界を受け入れることができた。
「スリー、ツー、ワン……GO!」
走り出した瞬間に、キースはこれが失敗だったと気付いた。
なにせ、ワタのほうが足が速いのだから。
案の定ワタが先に見張りと接敵。
素っ裸の見張り役は反応が遅れ、拳を構えた時には既にワタは攻撃範囲内。
(まずい!)と焦るキースを尻目に、ワタは思いっきり見張り役の股間を蹴り上げた!
「ぬぉおぉおぉ…………」
「一人目撃破。ふひひ……」
断末魔の叫びを上げ、丸見えの股間を押さえて悶絶し意識を失う見張り。
振り返ったワタが見たのは、股間に手を当て震えるキースだった。
しかしこの断末魔で敵と、ついでに周囲の住民までもがこちらに気付いた。
「ちょっとまずいね」
「フラグ立っちゃった。でもこういう時は……ふひひ……」
また何か仕出かすと分かり、戦々恐々のキース。
するとワタは、大声でこう言い放った。
「みーなさーん! この廃教会の中にいる連中捕まえたらぁー、王様からお金もらえるんだってー!」
「マジか!?」「懸賞金出てるのかよ!」「オレがもらう!」「待てずるいぞ!」
一瞬で現場は大混乱。
当のワタは唖然としているキースの手を引き、その場を離れた。
「本当は逃げる時に使う手なんだけど、こーいう時にも使えるね」
「……恐ろしい子っ!」
「あはは」
ジョークと取り、笑うワタ。だけどキースは本気です。
報告義務もあるので、念のため最後まで確認しているワタとキース。
しかし、さすがは兵士ですら手の出ない地区の住人たち、みるみるうちに廃教会を制圧してしまった。
「逆の立場にはなりたくないね」
「うん。……これでいいの?」
「いいんじゃない?」
「あはは、私みたい」
すると、その中でリーダー格の男がキースに話しかけてきた。
「おい、こいつらどうしたらいいんだ?」
「俺たちは皆殺しの命令だったけど、あとは国王様に直接突き出してもらえばいいかな」
「分かった。しっかし皆殺しって……」
ぶつくさと文句を言いながら集団へと戻るリーダー格。
そのことにワタが違和感を覚える。
駐車場所まで来ると、能力で檻を消して、無傷の魔車に乗り込む二人。
緊張感は抜けないが、無事に東地区を脱した。
周囲に安全な空気を感じ、ワタは疑問に思っていたことをキースに問うた。
「ねえ、あーいうボーリョク的な人たちも皆殺しには反対なの?」
「……兵士の俺の口からは……まあいいか。ここ五年ほどで国王様の政策が大きく転換したんだよ。恐怖政治って分かる? 恐怖心を煽ることで民衆を陽動し支配する政治方法。俺たちはともかく、ああいう地区の人は正直だから、大きな反感を抱いているってわけ」
「…………ごめんなさい」
「だと思った。んー……脅して言う事を聞かせる政治になったって感じ」
「あ、まんまこの依頼だ」
「だね。ついでに言えばこの転換に異を唱えている人は多い」
「キースさんも?」
「まあ、それが俺が兵士になった理由のひとつでもある。けど、これ以上は喋りません」
「えー?」
頬を膨らませたワタ。キースは笑いながらも、結局深くは語らなかった。
―――――
一方その頃。
「……ふわあぁあぁ……あぅっ!? また貴様か」
「申し訳ございません。作戦に失敗いたしました」
「失敗? またか。状況は?」
「それが……突然服が消え裸になり、住民に襲われたと。例の二人に関しては、少女が見張り役の股間を力一杯蹴り上げただけとのことです」
「それ絶対に痛い奴だ!」「めっちゃ同意します!」
「んんっ。結局のところ、能力の詳細は不明なのだな?」
「はい。しかし裸になったことやイカス渓谷での橋など、恐らくは物質を操る類の能力なのでしょう。そしてそれを応用し、人の傷も治す」
「……どちらにせよ、我々にとって厄介な相手であることは間違いないであろう。後は私自ら動く」
「承知致しました」
―――――
そんな悪巧みがあるなど知らず、二人は報告前の腹ごしらえ。
兵舎から貯金も持ってきているので、余裕はないが飢えることはない。
とはいえさすがのワタも気を使い、お昼は大衆食堂の安いランチメニュー。
ワタもキースも同じものを食べているのだが、ワタがおいしいと食べているのに対し、キースは心の中で、このランチを40点と評価。
ワタはほぼ毎日コンビニ弁当生活だったのに対し、キースは名家の出なので舌が違うのだ。
「……ん? 何?」
「あーいや、おいしそうに食べてるなーと」
「前も言ったけど、ウチはママも私も料理しないから」
「家族は誰も?」
「うん。だからコンビニ弁当かパン。学校行く時に二百円もらって、それで済ませる。たまにご飯抜いてお小遣いためて、こーいう本を買ってた」
「……ごめん。不憫に思った」
「あははー、分かるよぉ」
おどけるワタに、余計に心を抉られるキースだった。
食事も済み、王城へ。
朝と同じ場所に駐車し、朝と同じように謁見の間へ。
「今回は二人一緒でも大丈夫だよね?」
「おっけー」
緊張の色が抜けたワタ。
キースもそれに安心するが、次の瞬間ワタは緊張しているほうが良かったと思い直し、自身が緊張してしまう。
扉が開き、二人並んで王の御前へ。
片ひざをつき、キースから切り出す。
「国王様、東地区にある新興宗教団体の制圧任務、完了いたしました」
「……ほう?」
頬杖をつきながら、あざけるように放たれた一言。
キースは疑惑がどんどんと濃くなるのを感じ、警戒態勢へ。
一方ワタは気付かない。
「今しがた、東地区で騒ぎがあったと報告が入った。そのことか?」
「……はい」
「そうか」
「……しかし、私はそのような命令を下した覚えはない」
(来たか)と身構えるキース。一方これでもワタは気付かない。
「民衆を陽動しこの国に動乱を巻き起こそうとするその行い、私とこの国への背反行為である!」
「国王様!」「黙れ反乱分子め!」
顔を上げたキースは、とあることを確認し、疑惑を確信へと切り替えた。
「……国王様、何故このような……」
「ふんっ、マーリンガムの者とはいえ、所詮一兵卒の貴様になど教えてやる義理はない」
キースは横目でワタを確認。
未だに分かっていない様子で頭の上にハテナマークを乗せているワタに、少し救われる。
「ステージ王、アーヴィン・ガーネットが命ずる! キース・マーリンガム及び能力者の少女を、処刑せよ!」
アーティファクトにより城内全域へと放たれた国王命令。
キースはこの命令を聞き届け終わる前に動き、ワタの手を強く握り駆け出した。
一方ワタは、引きずるように振り回される。
「……あ、裏切られた!」
よく気付けました。




