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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第5エリア『討伐』
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5-5:増援と救援

 誰かが肉塊本体の事を「キメラクィーン」と命名した。

 キメラを産んでいるんだから、あながち間違いではないんだろうけど……なんとなくあれが雌だと思いたくない。


「まぁ深く考えすぎないでいきましょうよ。それよりほら――」


 カゲロウが指差す先、クレーターになった場所が見え始めた。


 結局、森の入り口での戦いは、最初の50匹ほどを討伐し終えると残りが敗走したので楽に勝利を収められた。

 クレーターまでやってくるのにも苦労はなく、何故キメラがここまで一頭も見かけなかった理由がすぐ目の前にある。


 肉塊――キメラクィーンを囲むように、大量のキメラがひしめき合っていた。


「これ、待ち伏せと捉えるべきやろか? それとも護衛やろか?」

「両方という線もあるよ、百花さん」

「いややわ〜。レスやんって思考が悪の幹部系やわ〜」

「……なんで……」


 百花さんに弄られ肩を落とすレスターを、隣でアデリシアさんがくすくすと笑いながら見ている。

 なんだかんだとアデリシアさんはレスターを頼りにしているようだ。よかったな。


「で、どうする。さっきみたいに釣ってみるかい? 大群を釣る可能性もあるけど」


 レスターの言葉に別のパーティーから意見が飛んだ。

 まず釣る前に『帰還』用魔法陣をそこかしこに展開させておいて、それから釣る――と。

 もし数百匹が釣れてしまい、処理しきれないと判断したら、即魔法陣に飛び込む。処理できそうな数が釣れたのなら、そのまま戦闘実行――と。

 判断はメイン盾三人に委ねられた。


 最初に『帰還』魔法陣がいくつも展開された。

 すぐにレスターが一本を矢を放ち、キメラを釣る。

 釣られたのは――


「これはこれで予想外だね……。まさか二匹だとは」


 怒りに我を忘れて突っ込んできたのは、たった二匹のキメラ。

 レスターに二矢目を頼んだが、こんどは一匹……。


「つまり、攻撃を受けない限りはノンアクティブ状態に近いみたいだな」

「こりゃレスター氏一人に釣りやらせないで、一斉に遠距離釣りはじめたほうがよさそうだぜ、村長」

「……そうだな」


 最初に釣ったキメラみたいに徒党を組んでいるのも居るので、範囲攻撃は避けて通常攻撃だけで弓職の釣りを開始。

 トータルで十五匹のキメラがやってきたが、これも難なく殲滅する事が出来た。

 そしてここから、持久戦が始まった。






 ある程度数が減った所でやや前進。

 キメラクィーンにはピンポイントでの攻撃を弓職が始め、キメラの処理を魔法職が開始した。

 当然飛んでくる閃光をヒーラーの魔法の盾が塞ぎ、更に前方にはダメージを軽減する魔法職の壁が展開して盾の消滅を遅らせる。


「なぁ村長」

「俺達って、用無しなんじゃね?」

「……そ、そこはあれだ。考えない方がいいと思う」


 ただ棒立ちになっている俺達メイン盾三人組。

 だって『挑発』なんか使った日には、残ったキメラが一斉に飛び掛ってくるし、タゲなんて取っていられない。

 じりじりだが、確実にダメージを与えていく後衛職の活躍。

 ヒーラーが増えたことで魔法の盾が消滅した後でも、回復が十分間に合う。

 今回は精霊使い(シャーマン)もいるので、単純に土壁を作って閃光を防ぐという手段もあった。

 更に、風の精霊が弓職の矢を確実にクィーンへと届けてくれているので、閃光に打ち落とされる心配も無い。


 あれ?

 これ、数の暴力で押せば余裕なの?


 クィーンのHPが5割も削れた押せ押せムードになっていた頃、背後から怒号が聞こえてきた。


「おい、誰か援軍呼んだのか? どっかのパーティーが来たぞっ」


 そう、後衛陣から声が届く。

 呼んだか? っと、辺りに視線を向けるが、誰も首を縦に振る人は居ない。

 いったい、誰が来たんだろう?


「援軍じゃない……皆、PKに気をつけてっ!」

「何言ってるんですか、モグモグさ――」


 そんな会話が聞えた後、俺達の頭上に無数の矢が降り注いだ。


「きゃあぁぁぁぁ」

「あいたたたたたたたたたっ。糞、どうなってんだ!」

「ソーマくん、あれは……彼らは洗脳されて南に飛んでいったプレイヤーだよ! カイザーが先頭にいるんだっ」


 なっ。カイザーさんが!?

 いつに無く真剣なモグモグ氏の声は、そういう事だったのか。

 振り返って確認すると、こちらのパーティーの後衛陣の奥、射程ギリギリの所にカイザーさんは居た。

 彼の周囲には50人ばかりのプレイヤーの姿が見える。


「ど、どうするの、ソーマくん?」

「村長!」

「流石にPKはできねーよ。だって、俺達だって運が悪けりゃあっち側にいたんだからよ!!」


 っく、まさか襲ってくるなんて……。いや、神になるとかふざけた事言ってた社長なら遣りかねないか。

 プレイヤーを使って、プレイヤーを襲わせるなんて。っ糞。


 前方からは閃光が。後方からは矢や魔法の雨が降り注ぐ。

 どうする。これまでか?

 前後の攻撃を防ぎながらキメラクィーンを倒せるのか?


「村長!」

「出直そう。こちらの人数を増やして、四方から攻撃すればなんとかなるかもしれない。洗脳されたプレイヤーは、倒せないから」

「っち、せっかくここまで順調だったのによー! バカヤロウ!!」


 隣に立つもっさんが後ろに向って叫んだ。

 洗脳されて俺達を攻撃し続ける、カイザーさん率いるプレイヤーに向って。


「まだだよ! まだ、可能性はあるよ!」

「皆さんの耳を塞ぎます! 無音になりますが、精霊魔法の効果なので慌てないでっ」


 モグモグ氏と、近くに居たシャーマンが叫んだ。

 途端、音という音が消えて焦る。焦るけど、これは彼女の魔法による効果だって事を理解できるので、直ぐに落ち着けた。


 そして信じられない光景が広がる。

 ぱたぱたと洗脳されたプレイヤー達が倒れていく? なぜ?

 モグモグ氏のほうに駆け寄って、どうなっているんですか? と尋ねたが、まだ声が出ない。

 口だけをパクパクしていると――


「――で声が出な……あっ、モグモグさん、どういう事なんですか? 誰が彼らを攻撃して――」

「うん待ってね。ボクも誰が援護してくれてるか知らないんだ。でも、精霊の声が聞こえたんだよ」

「はい、私にも聞えました。きっとシャーマン全員が聞いてます。『援護するから待って』と」


 援護?

 いったい誰が?


「そんな事より、今の内に眠ってる彼らに解除コマンドを使おう。レジストした人もいるから、護衛が必要だよ」

「え? 眠ってるだけ?」

「そうです。眠りの精霊の魔法ですよ、あれは。でも相当高位のシャーマンでもなければ、あんな広範囲の魔法なんて使えないはず」

「そうだねー。ボクでも五人同時が精一杯なのにー」


 そういいながらモグモグ氏たちは準備を整えている。

 防御に徹して盾を構えている。

 眠っている。それを聞いて安心した。

 誰も傷ついていないのなら――


「もっさんはそこに待機しててください! トーチロウさん、眠ってるプレイヤーに解除コマンド実行させるんで、シャーマンたちの護衛を!」

「俺も行きます。オっくんを連れていくんで、コマンド実行中の護衛はできますから」


 カケロウが珍しく短剣と盾を持ってやってきた。

 レンジャーになってから盾の装備も出来るようになったらしく、多少は硬くもなったと。


「よし、行こう。仲間を取り戻すんだっ!」

「「おー!」」






 眠りの魔法をレジストしていたプレイヤーは多くは無かった。僅か七人足らずだ。

 その中にカイザーさんも居たが、俺達が彼らの元に到着する前には踵を返し六人を連れて逃げてしまった。

 反撃される危険性も無いまま、眠ったプレイヤーの洗脳を解除し終えた。


「間に合って、よかったです。ふふふ、お手紙の効果はありましたか?」


 全員の無事を確認していると、突然背後から声を掛けられた。聞き覚えのある声だ。


「ライラさん!? さっきの眠りの魔法って、まさか貴女だったんですか?」


 こくりと彼女が頷いた。

 ハーフエルフのライラさんだ。

 そして後ろには、まさかのロイド。


「ようっ。生きてたか?」

「ロイド! なんでこんな所にっ」

「なんでって、南の討伐隊パーティーに入ったからに決まってるだろう。ライラがこっちの方で精霊の力を感じるとかいうからよー、ちょっと来て見たんだよ」

「よい精霊使いがいるみたいですね。ところで、ソーマくん。あのクィーンキメラを倒すつもりなのですか?」


 クィーンキメラ……順序は逆だが、どうやら名前としては正解だったみたいだな。

 っと、プレイヤーを助けられた事と再会とですっかり忘れてた。


「あぁ。あいつを倒す」

「そうですか。では――」

「うっしゃ。俺達も協力するぜ」

「あぁ、頼みます」

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