3-15:最後のアモンリアキング
戦闘→休憩を何度も繰り返し、ようやく数時間が経った頃。
「そ、そろそろ日の出だよな。東の空は――」
目の前の敵と交戦しつつ横目で東側を見ると、空の代わりに嫌な物を発見してしまった。
丸い頭と胴。
猫のような縦長の黒目を持つまん丸な瞳。
鋭い牙が無数に顔を覗かせる口。
俺たちの家を二度に渡って破壊した、あのアモンリアだ。
だがサイズが可笑しい。
せいぜい俺たちの膝上サイズだったアモンリアだが、逆に俺たちがあいつの膝上ぐらいでしかない。
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モンスター名:『最後のアモンリアキング』
レベル:60
種族:悪魔
属性:闇
備考:悪戯好きなアモンリアの王様。
悪戯が好き。
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ネームドかよ!?
いや、それにしてもサイズがでかすぎる。
誰かが言ってたレイドってやつか。
だがこいつの名前……最後ってもしかして?
「こいつがラスト召喚のボスじゃね?」
「奇遇だなフィン。俺もそう思ってた所だ」
けどレベル60って……。廃人レスターだってレベル51になったばかりだったんだぞ?
現状、あのレベルと対等に戦えるプレイヤーって、何人いるんだよ……。
倒せる気がしない。だが倒さなきゃいけない。
「誰か、西の高レベル陣に助っ人頼みに走ってくれ!」
誰かが返事をしてくれたのを確認して、俺はアモンリアキングと対峙した。
「悪戯好きの王様とか、国民にとっては迷惑でしかないんだよっ!」
そう『挑発』すると、アモンリアキングは腹立たしげに叫んで俺のほうに走ってきた。
真っ直ぐ突っ込んでくるので剣を構え一閃する――当ったっ。
「レベル差あっても当ってるぞ」
「こっちもだ。ただダメージが壊滅的にヤバイ」
そう。
俺だけじゃなく、高火力のフィンやミケの攻撃すら、奴に一〇〇ちょいのダメージしか出せてない。
そんな俺たちを嘲笑うかのように、アモンリアキングがずんずん前進する。
目的地は俺たちの家――村長宅だ。
足止めにと『シールドスタン』で昏倒させようとするがミス。
スタン持ちが駆け寄ってきて一斉に打ち込むが、元々東側で戦闘していたメンバーのレベルは低い。五〇以下ばかりだ。
スキルミスが目立ち、当ったかと思ったら昏倒が付与されない。
状態異常系がことごとく効果を現さないようだ。
こっちの攻撃は通じないが向こうの攻撃は容赦無く飛んでくる。
奴が両手を天に向って突き上げ、手の先が異次元空間のように歪む。そこから黄色い何かを大量に取り出し地面へと放り投げた。
「ってバナナの皮かよっ!」
こんな間抜けな罠に誰が引っかかるってんだ。
と思ったら、足の踏み場も無いぐらいにばら撒かれては踏まざるを得ない。
恐るおそる足を踏み出し、俺はバナナの皮をそっと踏んだ。
踏んだぐらいじゃ普通こけないよな。こけないはずなんだ。
「なのになんでこけるんだよっ!」
確実にこける。
皆がこける。
代わりに奴は意気揚々と俺の家に向って行く。奴だって踏んでるのに、なんでだよっ。
くそうっ。バナナを踏まずに奴に追いつかなきゃ。
何か無いか、何か――
俺の視界に映ったのは丸太の山。
いつでもログハウスの増改築、そして増設ができるようにと材料だけは切ってあちこちに置いてあった。
見ればその上で戦っている遠距離職もいる。
あの上が安全地帯なら、あれを地面に転がして道を作る!
「丸太を転がせ! その上を走って奴に追いつくんだ!!」
俺が叫ぶと早速取り掛かるプレイヤーが居た。
その間にもアモンリアキングが前進するが、プレイヤーの人数も少なくない。奴の進路上に立ったまま待ち構えるプレイヤーが、なんとかして時間を稼いでくれている。
次々と丸太が投げ込まれ、誰かが転がらないように支え、その上を次々に前衛職が渡っていく。
向こうのほうでは、畑を耕すための鍬でもってバナナの皮を押しのけている人も居た。ナイスだ。
使える。
そこかしこにある物が道具として使える。
なら――
「攻撃がゴミでも、足止めだけはやってみせる!」
俺は剣を盾に収め、その盾を背負ってから丸太を両手で抱えて持ち上げた。
そして奴に特攻する。
俺の家まで一〇〇メートルも無い。
ここでなんとか食い止めるんだ。
もう教会だの転送魔法だの、そんなのどうだっていい。
今こうして一つの事になって皆と協力し合っている。
だから負けたくない。
だから勝ちたい。
だから、これ以上奴を一歩も近づけさせない!
両手で持つ丸太でアモンリアキングの腹を押す。
俺の横ではフィンが同じように丸太を持ってやって来た。
押し返される俺の背をミケが支える。
「村長! 俺たちも続けぇー!!」
「おっしゃー、押せーっ」
何人もが丸太を持って奴の前進を阻む。
攻撃が飛んでこようが、誰一人として一歩も下がらなかった。
「日の出が近い……塵も積もればなんとやらだ。後衛職は攻撃し続けろ!」
俺は丸太に全体重を掛けつつ叫んだ。
誰かがそれを後ろへと伝えていく。
無数の矢が飛ぶ音が頭上から聞こえる。
更に頭上を明るく照らす魔法のエフェクト効果が見えた。
そして――
「後は任せろ!」
頼もしい声が聞こえてきた。
振り返るとカインさん率いる高レベルプレイヤーが駆けつけてくれていた。
東の空がオレンジ色に輝き始めた時、最後のボス、『最後のアモンリアキング』が倒れた。
奴が倒れたのと同時に大量の箱が転がり落ちる。
「おぉ、まさか大盤振る舞いのレアアイテムボックスとか?」
そう叫んでフィンが箱に近寄ると、突然蓋が開いてバネ付きのグーパンチが飛び出してきた。
もろにそれを食らったフィンが仰け反る。
まさか倒れる時にまで悪戯を置いて行くとは……。
見ると、フィン以外にも何人かの人がパンチにやられて打ちひしがれていた。
まぁ、地味に精神ダメージでかいよな。
「最後の最後でこの仕打ちかよ。クソ〜」
「でも兄さん。きっとアモンリアキングは喜んでるよ」
「モンスターに喜ばれても嬉しくねー!」
明るくなり始めた空に向ってフィンが叫ぶと、周りからが笑いが起こった。
『プレイヤー村の皆様お疲れ様でした。これにて夜明けといたします』
そうアナウンスが入ったのは直後の事だった。