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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第3エリア『混乱』
58/95

3-13:試練

 雨雲が去った後の空は青々と晴れ渡る。

 空の下、俺たちは簡易的に住めるログハウスの建築に取り掛かった。今回の土砂災害で家を無くした人の為の、仮の住まいにする為だ。

 ついでに崩れた山肌の補強工事もする。まぁそこは専門職の人が居たので、完全にそっち任せだけども。


「今後も崩れる可能性だってあるし、村の位置を少しずらしたほうが安全だろうなー」

「だよなー。今回被害に合わなかった家より手前側を、新しい家の建設場所にした方がいいよな」


 こんな調子で村を全体的に山から遠ざける案を、俺ではないこの村の村長に提案。

 以前から度々崩れる事は合ったらしいので、その案は快く受け入れられた。


 未だぬかるんだ地面に丸太を組み上げながら、村の様子を見渡した。

 沢山の人が総出で復旧作業に取り掛かっている。

 幸いというか奇跡というか、怪我人こそかなり出たが、この災害で亡くなった人は居ない。寧ろ災害前よりも、村の人口は一人増えている。ロブスさんにとって義理の甥にあたる赤ん坊だ。

 怪我人だってヒーラーの手に掛かれば一瞬で完治する。まぁ、衰弱していた人までは治せないが、それもゆっくり安心して休める場所があればあとは時間が解決しるだろう。

 その場所も既に出来上がっている。雨風を凌げる屋根と壁、忘れてはいけない床。それだけを備えたログハウスだけども……。


「まぁここは後々、集会場みたいにして使って貰えばいいんじゃね?」


 完成した一時避難所に、被災した人たちが入っていくのを見てフィンが満足そうに言う。今は鎧を外し、NPCが着ている様な服と同じ格好だ。

 他のプレイヤーも大体そうだ。ヒーラーや魔法で復旧作業している魔法職ぐらいはそのままの装備だが。

 こうして見ると俺たちもNPCも、別段違いなんて無いもんだな。






 夜になって、念のためだと言って山肌を警戒する為に何十人かのプレイヤーが村に残り、他はプレイヤー村へと帰っていく。


「じゃーロブスさん。俺たちはあっちの村に引き上げますんで」

「あぁそうかい。ゆっくり休んでくれ。君たちには本当に感謝しているよ。いや、感謝してもしきれないぐらいだ」

「ありがとうね、坊やたち」

「おいおいかーちゃん。冒険者に向って坊やは無いだろう」

「あら、そう? だってまだ若いじゃない」


 貴方も大概若作りなんですが?

 そう思いながら苦笑いを浮かべた。

 最後に生まれたばかりの赤ん坊の顔を見る。


「赤ちゃんって、こんな赤いもんなの?」


 熱でもあるんじゃないだろうかって心配になるほど顔が赤い。


「あー、そんなものだよ。逆に白かったり黄色人種特有の色をしてるほうが異常な場合もある」

「へー、そうなんだ。ってレスター、なんでそんな事知ってんだ?」

「もしかして既婚者? 子持ち?」

「えー、レスターって奥さんがいるのぉ?」

「い、居ないよ! 居る訳ないだろ」


 あからさまに焦る辺り、なんだか怪しい。まさか既婚者なのにアデリシアさんを好きに……って浮気じゃねーかっ。


「ボクの両親が産婦人科医なんだよ。だから小さい頃から赤ちゃんは見慣れててるだけさっ。本当だって、信じてよっ」

「医者の卵か」

「いや、それも違う。ボクは医者なんて目指してないよ。産婦人科医なんて産気づいた妊婦さんが来たら、休みだろうとなんだろうと関係なく病院にご出勤だからね」

「休み無しじゃん」

「そうだよ。だから家族旅行だって行った事ないし、学校行事だって……。だ、だからボクは産婦人科医なんかにはならない。というか医者にもならないよ。そこまで頭は良くないしね」


 おぉ、ぶっちゃけた。

 なんだ……レスターってちょっと鼻に付くとこあるけど、案外普通な奴なんだな。


「で、産婦人科医の両親を持つボクから一つ。さっさとここを出る。生まれて間もない赤ちゃんは、何かと感染しやすい状況なんだからね。ほらそこ、赤ちゃんに触ろうとしない」


 まさに赤ちゃんの頬を触ろうとしていたミケが、慌てて手を引っ込める。


「ちょっとぐらい触っても死にはしないわ。だって、この子は奇跡の子なんですもの」


 赤ん坊を抱く母親はそう言ったが、ミケはおっかなびっくりでやっぱり触れないみたいだった。


 一家に別れを告げ、俺たちは俺たちの家へと戻った。






 数日後、土砂災害にあった村の復旧作業も順調に進んだ。

 復旧作業自体はそれほど苦にはならない。なんたって生産扱いの作業が多いから、数分でいろいろと出来てしまうから。

 一番問題なのは――


「行きはよいよい、帰りは怖いだよなー」

「いや、怖くないだろ」


 間髪いれずフェンリルに突っ込まれる。だが彼女も俺の言っている事は理解できたようだ。


「確かに、行きは転送魔法で一瞬だけども、帰りはルイビスからの徒歩だからなー」

「だニャねー。陽が暮れ始めて帰ると、家に到着する頃には真っ暗だし」

「転送魔法が使えるかどうかの基準って、なんなんだ?」


 俺が尋ねるとフェンリルが首を傾げて「さぁ?」と答える。


「帰還は教会に入るだけでいいが、転送は場所の位置をメモしないといけないんだ。それもスキルだけどね」

「プレイヤー村のメモは出来ないと?」

「んむ。しようとしたらシステムメッセージで、メモ不可能な位置です。と出る」


 復旧作業で疲れた体を引きずり、徒歩で家まで帰るのは地味に辛い。

 これは他の村民も同じだったようだ。


 夜、飯を食ってさぁ寝るぞっていうタイミングで建築家が尋ねてきた。


「遅い時間に悪いね。実はさ、ちょっと建てたいものがあってね」

「え? 建てたい?」


 なんだろう。

 いや、寧ろ建てたい物があるなら相談なんかしなくっても――。

 と思ったが、どうやら妙な事が起きているとか。


「建てようと思って材木を用意したんだけどさ、いざ作業に取り掛かると、許可がありませんってメッセージが出るんだ」

「許可……この前までそんなメッセージ出なかったぜ?」


 フィンの言葉に建築家の人も頷く。


「そういえば、村が完成してからログハウス建てはしてませんね」

「うん。カゲロウ君の言う通りなんだ。で、ちょっと気になってね。復旧作業してる村の村長さんに聞いたんだ。村の中に家を建てる場合、許可がいるんだろうかってね」


 その答えは、もちろん村長の許可が要る。という事らしい。大抵どこの村でも同じようだ。

 つまり――


「ソーマ村長。許可をください!」

「……あ、俺の職業、まだ村長が付いてる……」


 この前と変わらず。村長になった騎士のままだった。


 まぁ許可程度なら幾らでも出すけど、何を建てるんだろう。

 それを聞くと、教会を建てるのだとか。


「なんでまた? クリスチャン?」

「いいや、強いて言えば無宗教かな。帰還魔法用さ」

「え、帰還?」


 話はこうだ。

 教会を建てる。誰かを司祭として立てる。

 これで帰還魔法が使えるようにならないかと言い出したプレイヤーが居たと。


「それだけじゃ当然ダメだってのは確実に解る。で、言いだしっぺが人身御供になってログアウトし、運営に問い合わせフォームから嘆願書を送るって言ってるんだ」

「人身御供……」

「といっても、明日も朝が早いから落ちるだけなんだとさ」


 なんだ。初めから落ちる予定でのログアウトか。

 でももし運営が動いてくれたなら……プレイヤー村に教会が出来て帰還魔法が有効になったら皆喜ぶだろう。

 この合宿イベント後も、この村を拠点にして動く事もできる。


 そうなるといいなぁ。




『ではここで皆様に試練を与えましょう』




 それは唐突に始まった。

 何の前触れも無く聞えたアナウンス。


『これより、プレイヤー村大規模襲撃イベントを開始させていただきます。村民と同じ数だけのボスモンスターを召喚させて頂きます。同時に召喚する数は三〇体。これを夜明けまでに全て倒してください。更に追加条件で、討伐と同時に村長宅を死守する事ができましたら、プレイヤー村への教会配置を認め、帰還魔法の使用を可能とさせていただきます』


 え?

 マジかよ。

 もしかして人身御供ログアウトの人の嘆願書がもう届いたのか。こっちと現実とじゃ時間の流れも違うし、それも有り得るな。


 そう思ったとき、僅かに床が揺れた。


「まさか、もう始まったのか?」

「外に出よう」


 慌てて飛び出した俺の視界には、薄暗闇に浮かぶ巨大モンスターの姿が映った。

 その数はざっと見ただけでも一〇以上……。



この章が終わりましたら、人物紹介ページを挟みます。


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