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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第1エリア『初心』
14/95

1-14:日課

 俺の【Second Earth of Synchronize Online】での日課を紹介しよう。いや、今日から始めるんだけども……。

 まずログインして町を散策。困っている人が居ないか声を掛けてまわる。時々不審者扱いされるが、繰り返していけば誤解も解けるだろう。

 ゲーム内が早朝だと意外と困っている人はいるもんだ。


「え? 何、手伝ってくれるのかい?」

「はい! なんでもお手伝いします!」


 本日の人助けその?

 開店準備中の喫茶店(?)のテーブルを店先に置く。


 STRのお陰か、テーブルもそれほど重いとは感じなかった。さささっと仕事を終わらせると、お店の人から大層感謝された。

 店員さんは女の子ばっかりだったので、この準備が大変らしい。


「きゃー、さすが冒険者さん。剣をお持ちって事は戦士ですよねー? 頼もしいなぁ」

「いやー、まだ駆け出しですから、それほどでもー」


 いつか勇者になる俺としては、こんな程度で感謝される訳にはいかない。お礼に――という話が出たところでさっさと逃げるようにして立ち去る。

 他にもパン屋さんに小麦の袋を運んだり、井戸端会議場だって所までおばあさんを背負っていったり、工房の職人に鉱石をお裾分けしたりと、立派に人助けをこなしていく。

 こうしてゲーム内の午前中を潰す。


 あぁ、なんて清々しい朝だろう。


 そして午後からは狩りに出る。レベルも上げて早く勇者ジョブを開眼させないとな。

 で、ソロ狩りで頑張ってみた結果……。


「誰とも会話しないで狩りするとか……寂しすぎる」


 という結論に達した。

 それでも銘柄レア武器『鏡彗のライトソード』が爽快だから、戦わずにはいられない!

 攻撃時、一定確率でダメージ二倍だったり、攻撃速度はデフォで三〇パーセント増しだったりで、かなり高性能なんだ。しかも攻撃力は店で売ってる同じ熟練度仕様のに比べると、かなり高い。

 これを使わずしてなんとするっ!

 そんな思いで狩りまくった。

 あと、レベル17になると町周辺のモンスターが格下になってしまい手応えは無くなるし経験値も減ったので、次の町目指して北上開始。

『ヒートスラッシュ』との愛称のいい地属性モンスターを探して戦うことにした。

 

 既にモンスターもノンアクティブなんてのは見かけない。今まさに見つけた地属性モンスターも、どうせ近づいたら勝手に襲ってくるんだろう。


-----------------------------------------------------------------------


 モンスター名:ラビットモール

    レベル:17

     種族:動物

     属性:土

     備考:兎のようにピョンピョン跳ねる特性を持つ土竜モンスター。


-----------------------------------------------------------------------


 跳ねる……のか。ってかモールってモグラだろ、兎かモグラか、ハッキリさせろよ。まぁ、見た目は完全にモグラだけどな。

 どんな風に跳ねるんだ? と思ってじっと見ていたら、俺のほうに向って物凄い勢いでジャンプしてきたっ!


「おいおい、今八メートルぐらい跳んだだろっ!」


 慌てて後ろに下がりながら叫んだが、当然答えるわけが無い。

 着地したラビットモールに備えて盾を構える。――が、勝手に昏倒してやがる。

 どうやら通常の行動じゃなく、特殊スキルを使ったみたいだな。

 プレイヤーがスキルを使っても、自身が昏倒することは無い。でもモンスターがスキルを使うと、たまに本人が昏倒する事があった。たぶん、全力投球して疲れきった、みたいなもんだろう。

 まさに今のラビットモールがその状態。

 開戦一発目に特殊スキル使ってこれかよ……かっこ悪すぎ。


 力が抜けてしまった俺は、構えていた盾を下ろしてゆっくりラビットモールに近づく。まぁ折角昏倒しているんだから、一方的に殴らせてもらいましょうかね。

 ――と油断していた俺に、天罰が下る。


 カッと見開かれたラビットモールの真っ赤な目。

 やばいっ。昏倒タイムが終了してしまった! シールドスタンより効果時間短いじゃねーかっ。

 後ろ足で前方方向、つまり俺に向って一直線に跳躍。

 顎を突き出すような姿勢は、あの出っ歯で噛み付こうってのかっ!

 そう思ったときには時既に遅し。

 俺は構えを解いていたせいで、モロに脇腹を噛み付かれてしまった。


「痛っー」


 盾によるダメージ半減も無く、かなりのダメージを食らってしまう。流石に格上か。

 再びラビットモールが空高く跳ねた。

 剣と盾を構え、予想着地点から少し離れる。

 ヤツは着地し、そしてまた昏倒。

 …………おいっ。またかよっ!

 今度は即効で駆け寄る。シールドスタンをお見舞いしてやるぜっ!

 と思った瞬間にラビットモールの目が見開かれる。早すぎる。さっきより回復が早い!

 再び一直線にラビットモールが跳躍してきたが、今度は盾で防ぐ事ができた。


「同じ手を二度も食らうかよっ!」


 盾で防ぐと同時に『ヒートスラッシュ』の体勢に入っていた俺は、きつい一撃をヤツにお見舞いしてやった。

 かなり効いたらしい。『ピギャッ』とか叫びながら、ラビットモールが倒れこむ。

 だが戦闘はまだ終わらない。ラビットモールの頭上にHPバーがある限り、倒せていないのだから。


 むくりと起き上がったラビットモールが三度目の大ジャンプを披露する。

 着地の瞬間、どうせまた昏倒するんだろう。今度は無闇に近づいたりしないし、むしろ背後で待ち構えてやるっ。

 俺はヤツの予想着地点の先まで走って行き、ヤツの背後になるであろう場所で待機した。

 着地したラビットモールが、やはり昏倒する。

 ……。

 …………。

 おいっ! もう一分は経ってるんだぞ? なんで起きないんだよっ。

 だがうかつには近づけない。どうするんだよ、この状態。

 そう思っていたら、通りすがりのプレイヤーが救いの手を差し伸べてくれた。 


「おーい、そこのあんた。そいつの昏倒は演技だぞー」

「背後に立ってるならそのまま攻撃すれば安全ですからー」


 え、演技って……モンスターが演技するのかよ。

 いつまでも起き様としなかったラビットモールが、周囲を伺う様にキョロキョロし始めた。

 俺を探しているようだが、真後ろにいるのには気づいていないらしい。遂には起き上がって小首を傾げて、頭を掻き出した。


「てんめぇー、騙しやがったなっ!」


 俺が怒りの声とともに、奴を本物の昏倒へと誘う。

 その後は演技に惑わされる事なく、無事にラビットモールを倒すことに成功した。






「おつつー。あいつムカつくだろー」

「俺たちも初対戦のときにアレやられて、かなり苦戦したんですよ」


 俺の戦闘が終わるまで、どうやら助言してくれた人たちは見ていたようだ。

 一人は俺と同じヒューマンで、大きな剣を背負っている。両手剣だな、たぶん。

 もう一人は獣人で、シベリアンハスキーのような顔をした弓手だ。茶色系っていうのがちょっと珍しいかな。口調が地味に丁寧なのも、なんか雰囲気でてる。


「教えてくれてありがとう。まさかモンスターが騙してくるとはなー。まぁ昏倒の回復が早いなとは思ってたんだ」

「そうそうっ。目をギラーっと光らせて、ドヤ顔で突っ込んでくるんだぜ!」

「そうそう。兄がそれをモロに食らって目を回したんですよ」


 兄? ってことはこの二人兄弟なのか。全然似てないな……。


「こいつ酷いんだぜ。俺が倒れてるのに、ゲラゲラ笑いながら平然と弓で攻撃してるし」

「えー、倒してやらなかったら、もっと兄さんは頭突き食らってただろー」


 そう言ってシベリアンハスキーは得意気に尻尾をぶんぶん振り回していた。

 どちらかと言えば犬派な俺は、ちょっと胸きゅんする。目だって人懐っこそうなつぶらな瞳だし、相手が男だと解っていても可愛いと思う。

 

「っなっな。レベル上げしてるのか?」


 人懐っこそうなのはハスキーよりヒューマンだったみたいだ。そんな相棒の背中を苦笑いで捕まえているのが、ハスキーだった。


「あはは。ごめんなさい、俺たちずっと二人だけだったから、他の人とのパーティーに餓えてるんだ」

「そうそう。今ならなんと、こいつの肉球付きだぜ?」


 そう言ってヒューマンのほうがシベリアンハスキーの手を差し出してくる。――が、そこに肉球は無かった。


「詐欺だっ!」


 俺が叫ぶと、二人は同時に笑い出す。釣られて俺も笑った。

 そういえばミケにも肉球は無かったな。


「残念。この世界の獣人に肉球は無いんだぜ」

「ごめんね。もしかして犬好き? 肉球期待してました?」

「どちらかと言えば犬派。期待したっていうか、条件反射?」


 そこでもう一度俺たちは笑った。


「俺さ、フィン・オリベって言うんだ。物理特化の火力職目指してる。暇ならさ、夕方まで一緒に遊ばね?」

「俺はカゲロウ・オリベ。あ、ちなみにレベルは17です」

「同じレベルだ。俺はソーマ・ブルーウッド。丁度夕方までレベル上げしようと思ってたんだ。オリベって同じ苗字って事は――」


 俺の質問に二人は見合って、それから視線を戻しにっこりと笑う。


「赤の他人だ」

「双子なんです」


 二人が同時に口を開く。言っている内容はバラバラだ。でも理解できる。この二人は双子なんだと。






 双子のオリベ兄弟は俺と同じ、正式サービス開始からのプレイヤーだった。兄弟で種族を分けたのは、ゲーム内でも同じキャラメイクをして同一視されるのが嫌だから、それならまったく見た目の違うものにってことで。


「兄はブルドック好きで、でも自分がブルドックになるのは嫌だからって」

「そもそもブルドックフェイスが無かった」


 それで弟のカゲロウがシベリアンハスキーになったのか。まぁ、キャラ的には合ってるからいいんじゃないかな。ブルドックも見てみたかったが。


 物理攻撃職オンリーパーティーとなった俺たち三人は、フィンも火属性攻撃を持っていたのもあって、ラビットモール狩りを続ける事にした。


 カゲロウが遠距離攻撃でラビットモールに気づかれる前に攻撃。

 ラビットモールは敵との距離が八メートルになると大ジャンプをする特性を持っていると教えてもらった。

 その通り、カゲロウの攻撃を食らって駆け出してくるが、ある程度の距離まで来るとジャンプ。

 着地と同時に昏倒するんだが、既に俺とフィンはラビットモールの背後に回りこむ。カゲロウはジャンプ中にバックステップで距離を取り、弓弦を引き締めて待機。

 俺がシールドスタンで本物の昏倒を見舞いしてから、フィンが『火炎斬』を叩き込んだ。

 カゲロウの遠距離通常攻撃でダメージも蓄積していたラビットモールは、ここで絶命する事が多い。僅かに倒しきれなかった場合は、俺が通常攻撃一発で沈めた。

 たまに出る二倍ダメージが、俺のテンションを上げてくれる。それを見ていたフィンが、目を輝かせて俺の剣に詰め寄ってきた。


「っな! それってもしかして、ネームド産か?」

「う、うん。解る?」


 ちょっと得意気な俺。

 鍔の中央には名前の由来になってる鏡みたいな物がはめ込められていて、もちろん鍔の正面にある物を映しだすことも出来る。刃はクリスタルかってぐらい、青みがかった半透明で神秘的な武器って感じだ。

 それをじっくり眺めるフィンは、溜息を吐いて「俺もほしい」と連呼していた。

 でもこれ、俺が既に装備しちゃってるから、装備ロックが掛かっているので譲ることは出来ないんだよな。出来たとしても譲らんが。


「うおぉー、羨ましいっ! ネームドに遭遇した事すらないぜ」

「へぇ、そうなんだ。やっぱ遭遇率って低いもんなんだな」

「低いですよー。エリア内に数種類しか居ないし、一度倒されればリアルで三日間沸かないし」


 ゲーム内で十八日沸かないって事だもんな。

 俺、倒してないけど遭遇しただけってのも合わせれば、もう三体見てるんだよなぁ。最初のは一発でKOさせられたけど。


「じゃー、誰もまだ行ってない場所とか行けば、確実に会えそうじゃないか?」


 何の気なしに言った訳だが――双子の目が爛々と輝いているのが見えた。


「そうだよ、そうだ! 鉱山に行こうっ! ついでに鉱石もザックザック」

「そうだね! あそこのボスってまだ見つけた人居ないってwikiにもあったしっ!」

「こ、鉱山?」

「「そう! 鉱山ダンジョン!」」


 ダンジョン!?

 なんて心トキメク単語なんだ。

 俺とオリベ兄弟は目を輝かせて、どこかの山をじっと見つめた。鉱山、あっちなのか。


 上がりそうだったレベルを三人とも18まで上げ、一度町に戻って準備をしてから鉱山に向かう事にした。

 即席の物理パーティーでどこまで行けるか。

 でも……道端で出会った人とこうしてパーティー組むなんてなぁ。MMOってこういう出会いがあって楽しい。


【ファーイースト】から【ファーノーブル】という町にやってきた俺。まずはセーブ、そしてアイテム整理。

 オリベ兄弟と揃って倉庫に行き、とりあえず防具を揃える事にした。


「あ、よかったら胴と足の装備は俺が作れるよ?」

「え? マジで。カゲロウって鍛冶やってるのか?」


 ハスキーが嬉しそうに頷く。


「ソーマは何をやってるんだ?」


 フィンに尋ねられ、俺は苦笑いを浮かべるしか無かった。だって、何もやってないから……。

 やっぱり何かやるべきなのかなーっと意見を求めると、


「いやいや、やらないならそれでもいいんじゃね?」

「そうですっ。プレイヤー全員が生産やってたら、お客が居なくなって面白くないですし」

「あー、そうだよな。職人はお客が居てなんぼだもんな」


 そう言うと、二人で真剣な顔して頷いた。

 じゃ、俺は素材集めて職人に買い取ってもらう人になろう。俺にとって職人はお客だな。


 折角なんで、倉庫に貯めまくった素材を持って製造をお願いする事にした。

 防具には彩色機能もあるらしく、こっちはカゲロウが素材と交換で提供してくれる事に。

 

「あのさ、俺、生産の事まだ何にも知らないんだけど……よかったらちょっと教えて貰っていいかな?」


 おずおずと尋ねてみると、双子は顔を見合わせて驚いている様子だった。

 そこで俺は、自分がオンラインゲーム初心者である事を打ち明ける。フェンリルにも言われたように、誰でも初めは『初心者』なんだ。だから気負う必要は無い、と心に言い聞かせる。

 その事を効いた途端、双子の顔がぱぁっと明るくなった。


「なんだ、そうなのかよー。それにしては戦闘もスムーズで、上手いじゃないか」

「気づかなかったですねー、全然普通ですよ」

「そ、そうかな……。足手纏いになってなくて、ホっとしたよ」


 照れくさいような恥ずかしいような。頭をかきつつ言うと、二人は同時に「足手纏いじゃねー(じゃないです)」と叫ぶ。この辺りはさすが双子、息ピッタリだ。


「よしよし、それじゃーこのフィンお兄さんが生産とは何たるかを教えよう」

「ははー。よろしくお願いいたします」


 工房にやってくると、誰も使っていない作業台にカゲロウが座った。インベントリからハンマーやペンチみたいなのを取り出し、俺が渡した鉄鉱石を溶鉱炉内に投じていく。


「ここはお金を払えば誰でも使える工房です。生産職の中でも、装備に関係するものが作れるんです」

「他の生産はまた別の所なんだけどよ、とりあえず生産ってのは、ゲームで必要になるいろんなアイテムを作る、サブクラスの事な」


 装備だけじゃなく、料理やポーションを作ったり、他にも畑を耕したり家畜を飼育したり、そういったのも生産職になるらしい。

 生産職のレベル上げは戦闘職の場合とはまったく異なっていて、生産を繰り返す事でしかレベルが上がらないという。

 面倒くさそうだな……これなら素材売り専門でいいわ。


「俺たちは二人して鍛冶屋をしているんだけど、俺が武器専用で――」

「俺が防具専用なんです」


 役割分担してるのか。兄弟ならではだな。

 講義の間にもどんどんカゲロウの作業は進む。

 鉄鉱石が鉄インゴットになり、銅が銅インゴットに。この二つを更に叩いたり伸ばしたりして……なんで鎧の形になるんだって感じで変形していった。

 出来上がったのは胸部を守るのに特化したブレストアーマーと、ショルダーガード。もちろんセット物で、色は青に塗って貰った。


「ブルーウッドだから青?」


 というカゲロウの質問に頷いて見せたが、実のところは勇者=青っていうのが俺のイメージだから。まぁ、名前にも二つ『あお』が入ってるけどね。

 あとは同素材の同色のブーツも作ってもらえた。これにマントでもあれば完璧だな。残念な事にマントは裁縫という生産か、もしくは課金アイテムらしい。今度プレイヤーが開いてる露店でも見てみるかな。


「よし、俺とカゲロウのも出来上がったし、ポーションを買い込むか!」

「物理パーティーだからポーション必須です」


 確かに必須だ。ヒーラーが欲しい所だけど、お互いそんな知り合いは居なかった。俺に関してはいるんだけど、でもレベル差が……。早く追いつくよう頑張ろう。

 そんな訳で、三人で露店巡りをして少しでも安いポーション店を探し買い溜めした。

明日の更新も17時台を目標に。

尚、書き溜めの方は結構先のほうまで出来上がっております。

ストックが切れると不安なので、多めに溜めました。

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