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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第1エリア『初心』
13/95

1-13:新職業にクラスチェンジしました

 意識が戻ったのは猫パンチによるもの。尤も、肉球は無かった。

 後頭部がずきずきする……なんでだ?

 いつの間にやらフェンリルも皆と合流していて、俺を探しに来たらしい。


「ほらぁ、しっかりするニャ。それとももう一発殴っとく?」

「いやいやいやいや、余計に痛みが増すから辞めてくれ」


 ヒール物いすると「ダメージは無いんだから、気にするな」と素っ気無く言われて今の有様だ。

 まったく、こいつがなかなか戻ってこなかったから、俺がこんな目にあったっていうのに。


「はぁ、今日はなんて厄日だ……。正義の為とはいえ、まさかサンショウウオのママを殺してしまうなんて。そして頭痛ぇーし」


 やっぱり地味にママ事件は堪えている。召喚がミニサイズとかじゃなく、まったく違うタイプのもんすたーだったらよかったのに。

 まぁ露天風呂の件は厄日というよりは、吉日だったが。

 そんな微妙な心境を、あの鬼は更に変な方向へと導く。


「君、オウサンショウウオってのはな、雌が産卵した後は、雄が卵を守るんだよ。だからあれは、パパだっ」


 どっちだっていいわっ!






 フェンリルの『帰還』という魔法で、あっという間に町へと戻ってきた。転送魔法陣に乗って出たところが行き成り教会だったんで、ちょっと驚きはしたけど。


 巾着おじさんは薬草を持って町医者の所へ。


「君たちにはお礼に、特性の巾着を作ってあげるよ。ちょっと日にちが必要だからね、明後日家に来てくれないか?」

「解りました。伺わせて貰います」


 キリッとした口調で返事をしたフェンリル。何故かずっと俺の視線を避けている気がする。いや、別に変な意味は無い。見つめられたいわけでもない。

 考えすぎると変態になってしまいそうだし、辞めておこう。

 何度も振り向き頭を下げるおじさんに、俺も思わず頭を下げて見送った。


 おじさんが見えなくなってから、今度はミケが、


「じ、じゃー、私も行くから……」


 といって立ち去ろうとする。

 瞬間、足を躓いて倒れこんできた。

 咄嗟に手を差し出して彼女の体を支える。やっぱり軽いな――そう思った。


「大丈夫、ミケ?」

「だ、大丈夫だもん! あ、あんたみたいなお人好し、直ぐに騙されるんだから、気をつけるニャよっ」

「あははははは……肝に銘じます」


 ちょっと凹み気味に言うと、ミケは耳と尻尾を垂らして足早に駆けて行った。あっという間に彼女は人混みへと消える。


「で、その巾着は返してくれるのかね?」


 相変わらず目線を合わそうともせずにフェンリルが俺の腰を指差した。え? となって腰を見てみると、どこかで見たことのある巾着がベルトに挟まってる!?

 い、いつの間に……。

 あぁ、前回も今回も、あの倒れこんだ時か……。


 巾着を持ち上げ中身を確認。口紐をほどくと自動でインベントリが現れる。薬草も入っていたしウサミミももちろんあった。お金までそのままだ。

 なんだ、高額で取引されてるって言っておきながら、まだ売らずに持っててくれたんだ。

 巾着の口紐を締めてフェンリルに渡すと、即効で紐をほどきウサミミを取り出した。それを俺の頭に被せる。


「罰として付けていなさい」

「え、あの、いや、その……なんの罰!?」

「いろいろもろもろだっ!」


 盗まれた事?

 ミニアクアドラを放置してた事?

 一体何の事ぉーっ!?


 そ、そうだっ。勇者パーティーだ。フェンリルみたいに上手いヒーラーには、是非俺と……。


「な、なぁフェンリル。よかったらさ、俺とパーティー組んでくれないか? あ、今組んでるけどもさ、これからもっていう意味で――」

「だが断るっ!」

「ちょ、即答!?」


 勇者パーティー、最初の一人目は勧誘は敢え無く失敗……。やっぱ俺、何か悪い事でもしたんだろうか。

 そのままフェンリルはパーティーを解散させ、「じゃ、三日後な」と言ってログアウトしてしまった。

 外すに外せなくなったウサミミを付けたまま、一人町をぶらぶらしてログアウトした。






 ログインしてはソロ狩り。町に戻っては採取ポイントがなんたらとか言うNPCが居たので話を聞くと、フィールドで光る所を発見し採取を行う日々。

 鉱石や草類が増えていき、貸し倉庫もようやく充実していった。というか圧迫していった。倉庫を開くたびに地味〜にお金を取られるのも知って、インベントリがいっぱいになるまで狩りをしたり採取をする。

 そしてレアをドロップして気づけばインベントリ一杯に。慌ててどれを処分するかあれこれ悩んでいる間に、ドロップ箱が消えたりとかもう笑えない。

 そんな二日間を過ごして、巾着おじさんとの約束の日がやってきた。

 フレンド登録だけでもしておけば良かった……。そう思いながら何度目かのささやきをフェンリルに送る。


『to.フェンリル・クォーツ:いるかー?』


 繋がった! ログインしていない場合は『相手がログインしていません』って出るんだよな。

 じゃ、待ち合わせをおじさんの家前にして伝えるか。


『from.フェンリル・クォーツ:君は挨拶というものを知らないのかね?』

『to.フェンリル・クォーツ:あー、おはようございます。それで巾着おじさんの家の前で待ってるけど、いいか?』


 返事はすぐに返ってきた。短く『yes』とだけ。

 うーん、この二日間……といってもゲーム内だけど、一度も連絡くれなかったし、パーティーに誘ったのがそんなにアレだったんだろうか。

 気を悪くしたのなら誠心誠意、心を込めて謝らなければ。


 フェンリルの姿はもうおじさんの家の前にあった。

 全力で走り、目の前まで行くと全力で頭を下げ、


「ごめんっ。俺、お前がパーティーに誘われるの、そんなに嫌だとは知らなくって。変な事言って、ごめんっ」


 頭は下げ続けたままそう言った。大声で。

 地面に落とした視線でも解る。

 彼はドン引きしていると。


「あのね、君。何わけの解らない事言っているんだね?」

「え、だって、この二日ずっと連絡してこなかったじゃないか」


 ようやく顔を上げ彼を見てみると、頭を抱えていた。


「こっちでは二日でも、あっちでは八時間程度だろうに。まして夜だったんだぞ? 私はぐっすり寝てたんだよ」

「え……」

「え、じゃなくって。君、まさかほとんどの時間、ログインしてたのか?」


 あ、そういえば……フェンリルと別れてログアウトしたあと、三時間ほどうたた寝したっけか。


「はぁ……ちゃんと睡眠時間は取りたまえよ。それからパーティーの事は」

「え、いいのかっ!?」


 途端に嬉しくなってフェンリルに詰め寄った。ハグしたい気持ちを抑えて、目を爛々に輝かせ彼を見つめた。尚、ウサミミは装備したままだ……。


「話をちゃんと聞け! はぁ、どうせパーティーの経験値分配の事なんて知らないんだろうな」

「けいけんちぶんぱい?」


 専用用語か。公式サイトは見たけど、専門用語集なんてのはなかったので、今でも解らない事だらけだ。


「モンスターを倒して得る経験値は、パーティー内のレベル差が七以上だと各自での獲得になるんだ。モンスターにどれだけダメージを与えたかっていう具合にね」

「えーっと……」

「だから、例えば今の私と君がパーティーを組んで、ぶっちゃけ君一人でモンスターを倒した場合。経験値は君にしか入らない」

「え……フェンリルは?」

「ゼロ」


 それはつまり、不公平じゃないか?


「君はそれがお望みなのかね? 私に支援だけして貰おうっていう魂胆なのかね?」

「ち、違う違うっ! 知らなかったんだ」


 そんな事望んではいないっ。対等の立場で、協力してモンスターを倒したいんだ。そうじゃなきゃ勇者パーティーじゃないだろ。

 でも、知らないとは言え……こんなレベル差があるのにパーティーに誘うなんて、やっぱ俺って考え無しだよな。

 もう一度、深く、深く謝るんだっ!


「ほんと、ごめんっ!」


 地面に落とした視線が、揺れるウサミミを捉える。あー、いろんな意味で情けない。


 しばしの静寂。そして――


「っぷ。っくははははははは。も、もういいから、最後のは冗談だから。だから、もう、笑わせないでくれっ。その頭で真剣な顔されたって、ギャグにしか見えないから」

「……あんたが付けろって言ったんだろぉーっ!」


 今更ながら恥ずかしくなって怒鳴った。

 その声が聞こえたのか、巾着おじさんが家から出てくる。娘さんも一緒だ。


「あぁ、君たちか――、っぶはっ。なんだねその頭!?」

「わぁ、お兄ちゃん可愛い〜」

「っぷはっ。か、可愛いって、可愛いって言われてるよ君」


 もういいよ。どうにでも好きに笑ってくれ。






「じゃー、これが二人への巾着袋だ」


 玄関先で巾着を受け取った。奥さんらしき人も、戸口で会釈している。


「あ、そのー。私は既に購入済みで……」

「え、なんだね。そうだったんか。でも折角作ったし、メグも手伝ったんだよなー?」

「うん! メグもね、一生懸命手伝ったのぉ」


 健気だ。まだ少し咳はしているものの、薬草のお陰で順調に回復したらしい。

 がしかし、受け取った巾着が……かなりメルヘンチックだ。

 俺のはクマのアップリケと星マークが大量。フェンリルのはハートマークとレースのリボン付き。元から彼が持っていた巾着は、飾り気の無い麻製だったんだけども……どうしてこうなった?

 受け取ったフェンリルの口元も引き攣っている。それでも律儀にメグちゃんの手を取り、にこやかに笑ってお礼を言っている。まぁ笑ってかどうかは口元しか解らないんだけど。

 鬼の面を付けたフェンリルに臆することなく、メグちゃんは唐突に彼のお面を外してしまった。


「はぅあっ!」


 慌ててお面を奪い取り、即座にはめる。っくそ、見えなかった。なんて素早さなんだ。

 チラっと俺のほうを見るので「見せて」と頼むと、即答で「だが断る」と言われてしまう。あんたそのセリフ、好きだろ。


「はっはっは。まぁ見た目はアレだが、丈夫に作っているからね。大事に使ってやってくれ。あ、そうそう。獣人の子もさっき来て受け取って行ったよ」

「ちゃっかりしてるなー」


 薬草摘み手伝ってくれたし、当然の報酬か。それにしても挨拶無しなんて、流石猫ってそっけないなー。


「あ、そうそう君たち。冒険者だからきっとこの先はより強い魔物を探して北に行くんだろうけど、気をつけるんだよ」

「え? 北に何かあるんですか?」

「北というかね、北西の山脈なんだけど。妻や娘が掛かった病気は、動物から感染する物なんだ。数年に一度、山から降りてくるそいつ等のせいで流行する奴でね」


 おぅ。パンデミックみたいなものか。家の中からは、まだ奥さんの咳なんかも時々聞えてくる。


「重症化するとね、命にも関わるから。山に入るときには気をつけなさい」

「ご忠告ありがとうございます」


 フェンリルがお礼をいい、俺も頭を下げた。

 ウサミミをしきりに「可愛い可愛い」と言ってたメグちゃんに、このウサミミを贈呈し(フェンリルの了承はもちろん貰った)、意気揚々とおじさん宅を後にする。

 貰った巾着をインベントリに治すと、なんと枠が四〇も増えたっ!


「特別って、こういう事だったのか」

「有り難やぁ〜。素材ですぐ圧迫してたから、非常に嬉しい」


 喜ぶフェンリルに、再度俺はお願いしようと思う。

 彼のレベルに追いついたとき、どうかパーティーを組んでほしいと。

 だがその前にシステム音が鳴った。


「ん?」


 というフェンリルの声。じゃー、彼も音が鳴ったんだろうか?

 とにかく確認しよう。

 出て来たメッセージは

『称号を獲得しました』というのが三行ある。大事な事だから三度なのか?

 UIで称号欄を探す。該当項目をタップすると、出てきたのは――


『巾着の救世主』

『【ファーイースト】を救った英雄』

『少女に感動を与えたお兄ちゃん』


 というのがあった。

 二番目はいいとして、前後のはなんだろうな……。

 でも特に説明が出てくるわけでもなくタップも出来ない。称号って、なんなんだ?


「ほむ。ステータス効果は特に無しか。この称号に意味が無いだけなのか、称号全てがそうなのか」

「あ、そっちも出たのか。なんだろうな、これ?」


 さぁ? というような首を傾げるフェンリル。

 ステータス効果とか言ってたな、俺も見てみよう。


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 ソーマ・ブルーウッド レベル17 カルマ:+35

 クラス:心優しきファイター 

 HP:2253

 SP:361

 STR:35+

 VIT:30+

 AGI:30+

 DEX:15+

 INT:5+

 LUK:5+

 □:0


-----------------------------------------------------------------


 なんだこの嬉しいような恥ずかしいようなクラス名。それにいつの間にかカルマが増えてる?


「な、なぁ。カルマ増えたぜ。あとクラス名が……心優しきってのが付いた……」

「ほう。肩書き系か。もしかすると称号はクラス名に左右されるのか」


 フェンリルもステータス画面を確認したらしい。「っぶ」と吹き出したまま暫く硬直していた。


「な、なんて書いてあった?」


 恐るおそる尋ねてみる。

 ステタス画面を見たままなのか、一点を見つめたままこう言った。


「聖と鬼の狭間の司祭……」


 鬼の面が自己主張してるっ! そんな所で装備効果が出てるのか……。聖と悪じゃなくって鬼ってのが、ちょっと小物間漂う。

 それを言ったら、この後の頼みを聞いてくれないだろうな。

 レベルが追いついたら――。


「じゃ、午前中はリアルで買い物あるから、これでお暇するよ。またなー」


 ただ……完全に言うタイミングを逃してしまった……。

 別れ際にフレンド要請が来た事だけは嬉しかったが。

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