第二十話『う…車酔いよりツライのです…』
名「そういや、谷津冶は柳垣と一緒だったっけ?」
隆「このリア充め…とっとと結婚して子供作って死んでしまえ!」
谷「…祝福されてるのか?」
首里城を後にしたTHE STEGO一行はしばらくの間バスに揺られながら雑談を楽しんでいた
「そういや梨田は自由時間の時どこに行ってたんだ?」
退屈を紛らわすために小鷹は隣に腰掛ける谷津冶に声をかける
ちょうど眠りこけていた谷津冶は目を擦りながら大きなあくびを欠く
「ああ、確か首里城の近くの公園でしんり」
「デートしてたんだよね!」
「………森林浴をしてた」
全く根拠のない言い掛かりを被せてきた美毅に対して嫌気をさしながらも谷津冶が答えると美毅はかなりつまらなそう目つきで谷津冶を睨み付ける
「梨田!嘘をつくな!」
「なんでこないな事で嘘つかなかんねん!ホンマに森林浴しとったんや!」
「んじゃあなんでああなってんのよ!」
美毅が指差した先には当事者であるはずの柳垣が幸せそうな表情で眠り込んでいる
「んなもん知る訳ないやろが!気付いた時にはあないな風になっとったんや!」
「そんな訳ないだろ!一体何をしたんだよこのリア充野郎!」
必死の弁解空しく後ろの席に座っていた隆次が追い討ちをかける
「だから何もしてないって言ってるだろ……」
「嘘をつかない方がいい。早く楽になりたいだろ」
「もうあなたの人生は天国か地獄の両極端しかないのだから、早く説明した方がいいですわよ」
ーーーザワザワザワーーー
名似何やシルヴィすら加わりさすがに騒がしすぎたようで少しずつ周囲がざわつき始める
「フハハハ!どうやら俺の助けが」
「必要ない」
「フハ……ハハハハ」
一刀両断………
蒲生のHPはゼロに
「随分と楽しそうですね。何かありましたか?」
「げっ!?ゴッ〇フ〇ー〇ー!」
騒ぎを聞き付けた瑠美子の登場によって谷津冶が顔が青ざめる
瑠美子は近くに腰掛ける蒲生を見つめるととてつもなく理不尽な一言を突き付けた
「蒲生君、少しどいてください」
蒲生は驚きながらも高らかに立ち上がる
「フハハハハ!ここを通りたくば我が迷宮にのみ存在する竪琴を」
「早く、どいてください」
「………はい」
決めゼリフを言い終わる前に睨みつけられた蒲生は脱兎の如く前の席に逃げていった
((((………容赦ねえ))))
谷津冶、隆次、名似何、そしてシャードゥーですら蒲生に対して同情する中、女王二人はそんなやり取りなどなかったかのように話を進める
「ねえねえ聞いてよ瑠美ちゃん!梨田がね、私に嘘をつくんだよ!」
「へぇーそうなの」
「えっ!?いや、違うんですよ!俺は何もしてないって言ってるのに戸舘さんが!」
「言い訳は聞いてないですよ、梨田君」
閻魔大王ですら逃げ出しそうな乾いた笑みがバスの中の空気を凍り付かせる、そんな中
「ふあぁ~~よく寝た。おはよう、梨田君」
「お、おお。おはよう」
「柳垣さん!ちょうどいいところで起きてくれましたね!聞きたい事があるんですけど」
「あの~止めといた方がいいですよ」
「黙ってて下さい」
「………はい」
止めに入った谷津冶を黙らせ改めて瑠美子は美毅と無言のアイコンタクトを交わしそのまま柳垣を最前列に連行していった
そんな様子を眺めた谷津冶はいそいそと自分の鞄をあさりだす
「どうしたんだよ谷津冶?まさかこの場を切り抜けるための道具でも取り出すつもりかよぉ」
「どんなに叫んでも青色タヌキは助けてくれませんわよ~」
「阿呆か。そんなもんちゃうわ…」
そう言って谷津冶は鞄から取り出した物を隣にいる小鷹に手渡す
「なんだこれ?」
「耳栓」
「そんな事は分かるよ。なんでこれを渡すんだよ?」
「まあいいから耳にはめとけ」
「……分かったよ」
小鷹が渋々耳栓をはめるのを確認すると谷津冶は自分の耳にも耳栓をはめる
「何やってんだ、あいつら?」
「ですわ?」
不思議がる隆次とシルヴィーの隣では名似何が考えこんでいたが突然
「……そうか!そういう事だったのか!」
「どうしたんだ、名似何?」
「二人共、耳をふさぐんだ!」
「何を言い出すのかと思えばピアーの物真似ですの?もうちょっと面白みが欲しいですわよ」
ピアーとは英語で『梨』でありこの場合では梨田を指す
「冗談を言ってる場合ではない!早くするんだ!」
普段冷静な名似何のここまでの動揺に危険を感じた隆次も急いで手元にあるミュージックプレイヤーのイヤホンに手をかけるが
「もう……手遅れだ」
「そうですね」
いつのまにか前列から戻った蒲生とその隣には見知らぬ少女が耳に濡れたティッシュを突っ込み席につく
「………お前、だ」
口にしようとした途端バスの中から、音が消えた
「それにしても、だ」
事態の発生から20分ほど経過した頃、小鷹陸は大きな滝のほとりに座り込んでいた
「ん?俺?」
素知らぬ顔をする谷津冶は優雅に大きな石に腰掛けるお茶を飲み干そうとしていた
「こんな事になるならもっと早く言えば良かっただろ」
「まあ、しゃあないだろ。お前もああならなかっただけましだろ?」
「まあ、そうだけどさ」
そうやり取りを交わす二人の視線の先には
「………うぅ」
「…も……う…こ…りごりです…わ」
顔を真っ青にした隆次とシルヴィが座り込んでいる
「一体何が起きたんだ?」
小鷹が尋ねても谷津冶は
「世の中には、知らない方がいい事もあるさ」
の一点張りだ
そんな二人の前では一人名似何が野菜ジュースを飲みながら滝を眺めている
「ふむ、あれはなかなか良い経験だったな」
「なんでお前は平気なんだよ…」
「まあ名似何なら何でもありだろ」
そうなのか、と頭の中で尋ねても口では言おうとは思えない小鷹であった
「フハハハハハ!感じるぞぉ大自然の力を!この俺に共鳴しているのかぁ?」
再び通常運行に戻った蒲生がすたすたと歩み寄ってくる
「向こうの様子はどうだった?」
谷津冶がバスの方を見ると蒲生は愉快そうに高らかに笑う
「フハハハハ!相変わらず漆黒の闇に包まれているなぁ!特にあの二つの脅威はしばらくは現れまい!」
「そうか」
「よく、今ので理解出来るな……」
蒲生の厨二っぷりにドン引きの小鷹に谷津冶は笑って答える
「まあ馴れってやつだな」
「ちなみに今のはどういう意味だったんだ?」
「まだ皆体調は良くなってなくて、しかも女王二人は一番グロッキーだって」
「成る程」
納得する小鷹を余所に谷津冶は勢いよく立ち上がる
「よし!納得してくれた事だしそろそろ行くか」
「良かろう!」
「は~いよ~~」
「どこかに行くのか?」
どこかに向かおうとする三人を呼び止めると
「ちょっと待ち合わせにな。お前も来るか?」
「まあ暇だからな。ついて行くよ」
「レッツパー」
ドキャ!
「それ以上は言うな」
こうして、あまり見られない四人パーティーが組まれる事となった
話がまとまり四人はそのまま駐留地点を出発し、林の中を歩いていた
ガサガサ
「なあ、こっちで合ってんのか?」
ガサガサ
「大丈夫、なんとかなるさ」
ガサガサ
「フハハハハ!俺の体にマイナスミカンが染み込むぞぉ!」
ガサガサ
「冷凍みかんは確かに旨いが、それを言うならマイナスイオンだ」
あたかも漫才のようなやり取りを交わしながら一行は林の中を歩き続ける
「そういえば、待ち合わせって誰かに会うのか?」
ガサガサ
「ああ」
ガサゴサ
「それって誰だ?」
ガリガサ
「占い師だ」
ガモガカ
「占い師?」
ガサガサ
「ああ」
ジサジサ
「名前は?」
ギザギザ
「無口なジョニー君だ」
デラデラ
「外人なのか?」
ドヤドヤ
「いや、れっきとした沖縄県人だ」
ガシガマ
「ならなんで」
言いかけた所で谷津冶が止まる
「着いたぞ、ここが比地大滝だ」
そう告げられた三人の眼前にはとてつもなく大きな滝が映り込んできた
「……でか!」
「これが沖縄本島で最大の滝『比地大滝』か」
「壮大だな…」
そう。その滝は蒲生の厨二病を解くほどまでに大きく、そして美しかった
そしてよく滝壺の近くを見ると一人の少年が立っており谷津冶は姿を見た途端手を振る
「おぉーい!ジョニーくーん!」
「………………」
ジョニー君と呼ばれた少年は無言で手を振り返し四人の方まで近付いてきた
「紹介するよ。この子がジョニー君だ」
ジョニー君は三人にペこりと頭を下げる
「ほう、彼が噂の未来を読み解く暁の使徒か」
「……………」
「ああ、そうだぞ。まあ無口だがな」
代わりに谷津冶が答えてジョニー君は頷く
「本名はなんて言うんだ?」
「本名は潮雲丹 正孝君。俺らより三歳年下の中学三年生だ。実は今日知り合ったばかりでな、相談に乗ってたんだ」
「しおうにだからジョニーか。ところで相談ってのは何なんだ?」
ここで説明役が谷津冶から蒲生にバトンタッチ
「彼は来月から俺らの学校に転入するらしくてな、あらかじめうちの校風について説明しようと思い立ったのだ」
「そこで我々が選ばれたわけだ」
「へぇー」
「まあ堅い挨拶は抜きにしてさ。取り敢えずジョニー君も連れてバスに戻ろうぜ。名似何、残り時間は?」
「ゼーロー」
「やべ!急ぐぞ!」
「フハハハハ!この俺に勝てるのは時ではない!神のみだ!」
「厨二はいいから早く走れ!」
「………………!?」
こうして新たな仲間『無口のジョニー』を迎え入れた一行は集合場所までの帰路を急ぐのであった
どうも伊崎です。
今回は柳垣がバス車内で何かしでかしたらしいのですが…全くわかりません…。
目くらまし(?)に、耳に入るとグロッキーになるガスをばら撒いたくらいしか想像がつきませんでした…。
国語力の無い自分が情けないです。
それと、新キャラのジョニー君が登場しました。さて、どう扱ったものか…。
手なわけで、次回は私の執筆です。
今回も頑張って書きます。
それでは皆様、ご機嫌よろしゅう。
原題:『いざ、大滝へ!』