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*揺らめく悪意

 闘いが終わり、3人は溜息を漏らす。

 その直後──景色は彼らを中心に勢いよく回転し、鮮やかな緑から灰色に変化していった。

 数秒後に景色は一変し、無機質な空間へと変貌した。

「ふむ……」

 ベリルは軽く周囲を見回して、どことなく懐かしい感情にかられる。

 まるで飛行場の格納庫に似た室内の外へと続く大きな扉は閉じられ、その向こうに何かが広がっているのだという感覚は微塵もない。

 閉鎖された世界──この空間に漂う得体の知れない存在感が、3人を包み込んでいる。

[さすかだねぇ]

 上からの声に見上げると、そこには踊り場のような出っ張りがあった。簡単なパイプで作られた手すりに人影が見え、狩夢と月刃は驚きに目を丸くする。

狐雲コウ!?」「小狼シャオラン!?」「ダグラスか」

 同時に発した名前に顔を見合わせる。

「ふむ、どうやら見えている人物が異なるようだ」

 狩夢には狐雲という少年が、月刃には小狼という青年が、そしてベリルには可愛い笑顔の青年がそれぞれに見えていた。

 ダグラス・リンデンローブ・セシエル──かつて、ベリルの弟子として5年間ほど寝起きを共にした者だ。

 ベリルにとって、盟友であるクリア・セシエルの忘れ形見でもある。

 肩よりやや長い艶のあるシルヴァブロンドに、大きく魅力的な赤茶色の瞳は盟友の面持ちそのままに……

「悪趣味だな」

 喉の奥から笑みを絞り出し、口の端を吊り上げた。

 彼にとっては、すでに存在しない者──ベリルと同じ傭兵を目指した青年はすでに亡く、最期に残した微笑みは今も鮮明に記憶の中にある。

[その2人をよくまとめたよね]

「狐雲、なにを言っている」

「小狼が普通に話してる……」

 狩夢たちがそれぞれに驚いているなか、ベリルは無言で見上げた。

[何も言わないのかい、ベリル]

「目的を知りたい」

 無表情に発せられた言葉にダグラスは少し驚いた目を向ける。

[ク……ククク。君はいつでも明瞭で隙がない]

 何かを含んだ微笑みを浮かべ、3人を一瞥していく。

[ここはぼくが創った世界だ。誰にも邪魔されず、ぼくの思うがままさ]

 恍惚と両手を広げ、さらに続けた。

[でもね、まだ不安定で、いつ消えるか解らないんだよ]

 だからね、君たち2人の能力ちからが必要なんだ。

「なるほど」

 感心するように発したベリルの声色はいつもと同じで、感情は見受けられなかった。

「しかし──」

 付け加えるように口を開くと、その瞳を細める。

「お前が有している能力では不足だという事か」

 それに2人は、はたと気がつく。

 確かにそうだ……空間をゆがめる能力に、召喚した生物のサイズも変える事が出来る。他に何を求めるんだ?

[不安定だって言ったじゃない。その2人の能力は、まだまだ沢山吸い取らないと]

 にわかに、ベリルの表情が妖しく笑みを浮かべた。

「ほう……異なる世界から同時に呼び寄せた能力から平行世界も可能かとは思ったが」

 何かを確認したベリルに、月刃たちは怪訝な視線を送る。

「彼らは何人目だね」

[5か6かな]

 無邪気に笑う姿に狩夢と月刃は眉を寄せた。

 それも当然だろう、見知った顔が思わぬ表情で思わぬ言葉を言い放つのだから……しかし、それ以上にその人物が発している意味がいまひとつ解らない。

「あの、どういう意味なんですか?」

 我慢出来ずに月刃がベリルに尋ねた。

「平行世界は解るな」

「少しずつ違う世界、パラレルワールドのことですよね」

「奴はそうしてお前たちを次々と呼び寄せ、能力を高めているのだろう」

 どれだけの容量を一度に吸収出来るかは解らないがね……と、つぶやいたベリルに目を見開き、見知った顔に視線を移す。

 具現化する能力を高め、この世界の安定を図ること──そのために、どれだけの犠牲が払われたのか。

[安定した世界に住み続けるには、不死が必要なんだ]

 君の持つ“完全なる不死性”がね。と、唇の端に浮かばせた表情が、一同に不快感を与えた。

 青年あるいは少年は、鼻で笑うと手すりに力を込めふわりと体を浮かし、ゆっくりとベリルの前に降り立つ。

[不死性を持つのは君だけなんだ]

 だから、それをちょうだい……不気味に笑うダグラスに眉をひそめる。

 次の瞬間──

「!」

「!? ベリルさん!?」

 腹部の激痛に目をやると、みぞおちの下辺りに何かが突き立てられていた。その感覚は背中にも突き抜けている事が窺える。

[ねえ、いいでしょ?]

 少し見下ろす瞳が甘えるように問いかけてくる。

 駆け寄ろうとした狩夢たちの前に激しく渦巻くエネルギーが発生し、ただ見ている事しか出来ないでいた。

「試してみれば良い」

[!?]

 笑んだベリルから素早く離れると、その手にハンドガンが握られていた。

 いつの間に……余裕があるように軽く笑いながらも、何の動作も感じられなかった事に驚く。

[まあいい、ゆっくり頂くから]

 つぶやいて3人を見やり、高らかな笑い声を残して消えていった。

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